悪役聖女は小悪魔天使を拾う
ロゼットはわざと子供っぽい口調にしてあるため、ひらがなが多いです。
――――――――――私は今、アルダの森という場所の洞窟にいる。
ここは屋敷から2〜3個街を越えたところにある森で、カーライン家からはかなり離れている。
しかも近くに冒険者ギルドがあるし、危険な魔物が少なく私にとって比較的安全な場所。
何故こんな所にいるか、疑問に思うだろう。
それは、私はここに住むからだ!!
誤解しないでもらいたいが、別に好んでこんな所で住むわけじゃない。
これには理由があるのだ。
先程冒険者ギルドに行ってみたのだが、登録できるのは14歳以上からで、現在(見た目)7歳の私は登録できないのだ。
衝撃の新事実だった。
その時の私は勉強不足をめちゃくちゃ悔んだ。
だけど試しに行ってみたら、受付のお姉さんは私の姿を見るなり、馬鹿にしたように鼻でフッと笑った。
・・・・いや別に笑わなくってよくない!?確かに今の私はちんちくりんですよ!でもしょうがないもん!
だって7歳なんだよ!?
だから時間が経ったら、ちゃんと成長してるはず!!
・・・・・・・してるよね、未来の私?え、これでちんちくりんのままだったら私、泣きますよ?本気で泣くからね?
おい神、なんとかしろ。最低悪役令嬢にした挙句、このままだったら恨むからな!
呪ってやるっ!
そんなこんなで洞窟にいる私。幸い森には、食糧となりそうな果実とかが豊富で生活に困ることはなかった。そのため生活費のためにと、せっかく屋敷から持ってきたアクセサリー・宝石は、普通に着飾るために使っている。だけど時々、一体誰の目を気にしているんだと悲しくなった。
* * *
そして数ヶ月がたち、ようやくここの生活に慣れてきた頃、思いがけない珍客がやってきた。
「わたしはロゼット。あなた、名前は?」
「・・・・ソ、ソルです。」
このソルと名乗った男の子。
私が朝ごはんとなる果実を木から収穫していて洞窟を留守にしていた時に入ってきたらしく、帰って来たらここにいたのだ。
一目みた瞬間私は・・・
可っっっ愛ぁぁァぁァ〜〜っ!!!!
心で叫んでしまった。危うくニヤケて顔面崩壊しそうだったが、こんな可愛い子に怪しまれて嫌われるのは絶対に嫌だったので、令嬢時代に身に付けた自動笑顔機能をフル稼動させてなんとか乗り切った。
みたところ全く帰る様子がなく、私が土魔法で作ったイスにちょこんと座っている。
親は一体どうしたのだろうか。
♪ピーンポーンパーンポーン♪
えーー、迷子。迷子のお知らせです。
いい服を着た4歳くらいの男の子。
見た目は胡桃色のふわっふわの髪に、キラキラでくりっくりの蜂蜜色の瞳〜。おか〜さ〜ん。いーませーんかぁー?
・・・なんてことをしても見つかる訳がない。
それどころか、自分で言っておいてちょっと悲しくなったじゃないか。なんだいい服って。
しかも見た目可愛すぎだろおい。
ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれないが、それ程整った顔立ちの子だった。
きっといいとこの子供だろう。
「ソルくん。お母さんとか、お父さんは一緒じゃないの?」
そう聞くと、ソル君は唇を噛んで俯いた。何か家族関係であったのだろう。まぁよくあることだが、この幼い子にとっては辛いだろう。
「・・・・ロ、ロゼットおねーちゃんのおかーさまとおとーさまは、いないの?」
うっ!
痛いところを突いてきた。
きっと自分と大して年が変わらない女の子が、親もなしにこんな所にいるのを純粋に疑問に思ったのだろうが、この質問には答えられない・・・。
誤魔化すように微笑んでみるが、上手く出来たか分からない。
それを見てなにを思ったのか分からないが、ソル君は私にここに来た経緯を話し始めた。
「ぼく、おかーさまたちからにげてきたんだ。」
おおっ。これはまた唐突な。
「どうして?しんぱいされるよ?」
「しないよ。だれもしんぱいしない・・・」
そう言って、悲しそうに目を伏せた。
成る程、大体は分かった。ソル君は両親に嫌われていると思っているのだろう。だが、そういうのは十中八九お互いが勘違いやすれ違っているだけで違うことが多い。
私は何故そう思うか聞いた。事情をまとめると、母親が死んで新しい継母が来たのだが、上手くいかず、おまけに父親が冷たいらしい。
あちゃー。
これ、典型的なやつじゃん。
しかも話を聞くにどう考えても、継母がソル君を虐めてるわけではなく、ただ不器用で対応が分からないだけ。
お父さんも、突然迎えた継母に戸惑う息子に対してどう接すればいいか困ってるだけだと思うんだけど・・・。
「ソ、ソルくん。おとうさまとおかあさまは、君のことキライじゃないよ?」
「どうして分かるの?」
少し不思議そうな目を向けられた。
「あ、あのね。ソルくん達はかんちがいをしてるんだよ。」
それはお互いを思いすぎるが故に。
私は考えをソル君に伝えた。
幼いながらどうやら理解してくれたようで、話し終える時にはすっかり笑顔になっていた。
すると、どこからか2人の男女の声が聞こえてきた。
「ーーールー!どこにいっーーだ!」
「お願ーーーからーーってきて!」
それを聞いてソル君は目を見開き、それから嬉しそうに微笑んだ。誰かに探させるのではなく、自ら探すところからもソルくんを大切に思っていることがわかる。
だけど何かを迷うようにソルくんは両親の元に行こうとしない。だから私は動かない彼にそっとこう言った。
「だいじょうぶ。行って。」
「でも・・・ロゼットおねーちゃんは?」
こんな時でも私の心配してくれるとか天使すぎるだろっ!
緩む顔を抑えて、私は平気だと伝えると、
「じゃあ、ボクがむかえにくるからケッコンしてね」
はぁぁぁァぁァ!!!かわいいぃぃっ!
微笑ましく思いながら言葉を返す。
「あはは。でも、もう少し大きくなったらね。」
「うんっ!ぜったいだよ!!じゃあ、ヤクソクね?ロゼットおねーちゃんだいすき!!おねーちゃんも、ボクのことだいすき?」
あああっマジ天使!マイエンジェルぅぅ!
大好きとかかわいすぎでしょっ!?私のことを悶え死にする気かなっ??
こんな可愛いことを言ってくるソルくんに私は、
「わたしも、ソルくんのこと大好きだよっっ!」
「じゃあ、この紙にサインしてくれる?」
「ん?あ、ああ。いいよー。」
なんか書類出してきた。・・・契約書?やけに本格的だな。てか、どこに隠し持ってたマイエンジェル。
でもこの天使の笑顔を曇らせたくないので素直にサインしておく。
可愛いなー。このくらいの子供ってこういう結婚ごっことかするよね~。
「おねーちゃん、おとなになったらケッコンしてね。おねーちゃんにふさわしいおとこになってむかえに行くから、忘れないでね?」
それだけいうと、ソルくんは駆け出し洞窟の出口までいった。そして立ち止まり振り返って、ニコッと満面の笑みを浮かべて「ありがとう」といい・・・・去った。
栗色のふわふわの髪が太陽に当たってキラキラと光り、蜂蜜色の眼は何かを決意したような強さを秘めていた。
しばらくして再会を喜ぶ声が聞こえてきたから、無事に両親に会えたのだろう。
あっ!そうだ。そういえばソル君はどこの子なのか聞くの忘れてた・・・・。ま、いっか。私は何年かすれば冒険者になる身だし、高貴なお方だとしても関わることはないよね。
だが、ロゼットはまだ知らなかった。自分が出会った少年の本当の名を。本当の姿を――――。