悪役聖女と暗雲
「本当に大丈夫かい?寂しくないか?怪我や病気に気をつけるんだぞ?何かあったらすぐに呼ぶんだぞ。決して無理はするな」
「もう!お兄さま、わたくしは大丈夫ですわ。お兄さまと会う前から現在まで、無事やって来れたのですから」
お兄さまと再会して早数日。今日はお兄さま達がお帰りになります。
お兄様は帰りたくなさそうですが帰らないと心配される、というキディリさんの言葉で渋々了承していた。
だけどやはりまだわたくしが心配のようで、さっきからずっとこの調子なのです。
全く、過保護にもほどがありますわ。こんなんだからゲームのロゼットは我が儘お嬢様になってしま・・・・・・・・・・・・・・あら?
ゲームの中のロゼットって・・・兄と仲が良かったかしら?え・・・。おか・・・し・・・い。わから・・・な・・い。覚えているのに・・・覚えているのに・・・覚えていない・・・??一体これは・・・どうい・・・う・・・。
「・・・ト。ロゼ・・・。ロゼット!」
「っ!は、はい。何でしょうお兄様」
「いや・・・急に黙り込んだからどうしたのかと思ってね・・・。体調でも悪いのかい?」
どうやら心配をかけてしまったようです。全くわたくしったら。
「大丈夫ですわ。少し考え事をしていただけです」((バレてはいけない・・・!))
「そうか・・・。なら良かった」
「ロゼット嬢、世話になりました。この借りは絶対に返しますので。」
「ご丁寧にありがとうございますキディリさん。ですが借りだなんて・・・ふふっ。気にしなくて大丈夫ですわ」((まだだ・・・隠し通せ・・・っ!))
「っ!なんて謙虚な・・・!やはりあなたは素晴らしい人です。ですが命を救ってもらった借りを返さないわけには参りません。今は無理ですが必ず何らかの形で返しますので」
これ以上借りは要らないって言ったら少し可哀想ですわね・・・。きっとただの建前でしょうから、大人しく頷いておきましょう。((我慢しろっっ・・・!))
「それでは、また」
「ロゼット、元気でな」
そうして2人は去って行った。二人の姿が完全に見えなくなったところで両膝から力が抜け・・・その場に崩れ落ちる。・・・・・・・限界だった。
「っっっ!!っくっっっぅあ"ぁ”ぁ”ぁ”っ!!!」
(いたい痛いイタイ痛い痛い痛いいたいイタイッッッッ!!!!頭っ・・・がっ!壊れっ・・・・!!)
襲ってくるのは気が狂いそうな程の強烈な頭痛。そして同時に、脳内に見覚えのある映像が洪水の様に溢れ、急速に流されていく。
その映像を無理に見ようとすると頭痛が酷くなり、更に早いスピードで流されて行ってしまい見ることができない。
(だ・・・め・・・っ!声・・・を出した、ら、お兄、様たちが、も・・・どって、きちゃう・・・っ!)
「っっっ?!っはぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
(っと、とまった・・・っ?今のは、一体・・・・・・)
あれほどまで酷かった頭痛が突如として消えた。まだ痛みがかなり残っているが、先ほどと比べると嘘のようだ。
とりあえず休もうと、ふらつきながらも洞窟に向かう。
「っ・・・」
ぐらっ・・・ボスッ
ようやくベッドまでたどり着いたところで緊張の糸がついに切れたのか、そのままプツリ、と意識が途切れた――――。