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第8話 殺す価値すら無くなった

 


 賢人と優香の会話が終わると、彼女は歩美を呼び戻し会話の内容を話すことが出来ないことを謝罪した。



 賢人には歩美がそれを気にした風には全く見えなかったが。



 その後賢人は彼女らがここに来た経緯を聞いた。



 どうやら優香は元からここに転送されていて、歩美は賢人がやってくる少し前にここに来たらしい。



 話がひと段落すると優香が賢人に質問した。



「賢人くんはこれからどうするの?」



「ん? そうだな、古海さんの返事を聞かなきゃならないからとりあえず今日はここらへんに留まるよ。


 その後はC3地区に行く。出来れば2人にも付いてきてほしい」



 賢人の台詞に2人は頷いた。



「……わかった」



「うへー、外に出るのかー、ゾンビと戦ってないからちょっと恐いかも」



 優香はゾンビと戦うことに対する恐怖で少し顔色が悪い。



 そんな彼女を安心させるように賢人は頭を撫でると言った。



「道中は俺がゾンビを倒すから問題ない」



 優香は照れを隠すように、



「へ、へー、賢人くんって強いんだねー」



 と言ったが、賢人はその言葉が心に刺さった。



「……ああ、そうだな」



 この強さは、己の実力ではない。



 大切な人を殺すという代償と引き換えに手に入れたものだ。



「あっ、ごめん。なんでもないの」



 優香は賢人が何を思い出してしまったかを察して謝ったが、



「いや、気を使わなくていい。


 ……まだちょっとだけ、立ち直る時間が必要なだけだ」



 賢人はそう言うと優香を撫でていた手を離し、東京タワーから見える景色を眺める。



 その時、メニューに突然新しい質問が表示された。



「ん? なんだこれ……はっ、やっぱりか。アイツらが生贄を使わないわけ無いもんな。


 ここにいるクラスメイトを殺したくなければ、生贄を殺せってところか?」



「な、何これ。酷い……」



 賢人はその内容の酷さに笑ったが、内心全く笑っていない。



(これは……そういうこともあるとは思っていたが……


 異能を持ってる俺や優香は敵襲に気をつけるだけで良いが、異能を持ってない奴らには地獄だろうな)



「今更の話だ。俺達にはどうしようもない」



「分かってる、分かってるけど……」



 優香は今にも泣きそうな表情だ。



 賢人は真剣な表情で2人に言う。



「酷いことを言うようだが、生きたければ、そして奴らの暴虐を止めたいなら、まずは自分の生存を第一に考えろ。死人に口無しだ」



「……うん」



「……わかった」



 3人の間には沈黙が流れた。



 雰囲気を変えようと賢人は口を開く。



「それじゃあ、俺は今からゾンビを狩ってポイント貯めてくるから2人はそこで待ってて。眠くなったら寝てていいぞ」



「え、でもそろそろ夜になるよ?」



「あぁ、俺はほら、昼過ぎに起きたから寝なくても問題ない。それに……女子2人と一緒のところに泊まるのは、な?」



「……別に、賢人くんなら良いのに」



「……ん? なんか言ったか?」



「別に、賢人くんなら良いのに! 」



「うわ、コイツ聞こえないふりしてやったのに大声で言い直しやがった……」



 顔を真っ赤に染めた優香に苦笑いして賢人はタワーを降り、ポイント稼ぎに勤しむのだった。



「私なんかじゃ……亜里沙ちゃんに勝てないもんね」





 《異能争奪戦》2日目SIDEダフニー



「ふぁーあ、よく寝た。おはよう、委員長」



「……よくこの状況で寝れるな、君は。おはよう」



 初日、結局ボク達はこの学校の屋上をしばらく拠点にする事に決めた。



 出入り口は1つしかないからゾンビ対策も簡単だし、このフィールドは雨が降らないから屋根が無くても構わない。



 ま、そもそもゾンビ自体はボクにとっては雑魚でしかないんだけどね。委員長を死なせるわけにはいかないから。



 ま、もう1つ大切な理由があるんだけど。



 そしてこのゲームが始まって2日目の今日、この学校に数人の生徒達がやってきた。



「おーい、誰かいるのか? 居たら返事してくれ!」



 あ、あれは火野君と土居さんに、あと2人は……



 誰だっけ? まあ、いいか。



「やっほー、ボク達はここだよー」



 ボクがそう言うと、嬉しそうな様子の委員長が外の連中に言った。



「みんな無事だったんだね! ちょっと待ってて、今扉を開けるから!」



 モブ2人も疲れた様子で委員長に応える。



「委員長も元気そうで良かったよ」



「昨日は大変だったからしばらくは動きたくないわ」



 あぁ、思い出した。林 義和(はやし よしかず)寺内 遥(てらうち はるか)だ。



 この4人が屋上まで到着すると、火野君がこちらにやってきた。



「久しぶりだな、委員長にダフニー」



「うん、火野君も元気そうで良かった」



「おう、委員長もな。あいつらがゾンビに襲われそうになってるところを助けるのに手間取っちまった」



「ふーん、火野君と土居さんは合格。林君と寺内さんは不合格だね。


林君は惜しかったよ、チャレンジ精神が旺盛ならなかなかな素材なのに」



「なんの話だ?」



 火野君の眼が細くなった。こんな言い方したから怒っちゃったかな?



「異能に対する適性の話さ。嘘はついてないよね? 委員長」



「……うん、そうみたいだね」



 火野君が怪訝な表情を作って頭をひねった。



「どういうことだ、説明してくれ」



 そして委員長は火野君に自分の能力を説明し始める。



 律儀だねぇ、ボクなら面倒くさくてスルーしちゃうね。



「なるほど、だがなぜ異能の適性とやらをダフニーが知ってるんだ? お前は何者だ」



 委員長の説明を聞いた火野君はボクに警戒の目を向ける。



 何も言わないボクの代わりに委員長が答えてくれた。



「それがなかなか教えてくれなくてね、今回の事件の関係者だろうってことは分かるんだけど。


 だってそもそも召喚された日から、関係者しかつくことのできない嘘をついてたからね」



 委員長のドヤ顔、いただきました! なーんてね。



「あぁ、貝原君に茶々いれた時のやつかぁ。あれは失敗したなぁ。


 だから委員長には初めてここで会った時から警戒されてたんだね?」



 自分の推理が当たって満足そうな様子の委員長とは裏腹に、火野君は厳しい表情のままだ。



「ふん、白々しい。お前のことだ、それすらも織り込み済みなんだろ」



 ……やはり、君は……



「えっ、どういうこと、火野くん」



 火野孝之は逸材だ。



「……さっすがはボクが見込んだだけはあるね、素直に感心したよ」



「コイツは最初から委員長だけに自分のことを警戒させようとしてたってことさ。何のためかは知らんが。


 まさか貝原までお前の仲間だなんて言わないよな?」



 彼の発言に思わずボクの笑顔も引き攣る。



「……全く、君は賢人にならんで敵に回したくない男だね。


 大丈夫さ。ボクは君達の敵だが、貝原君は君達の敵じゃない。


 彼はボクに雇われてただけ、人質を取られてね。


 だからボク達があの日召喚されることを知ってた彼を咎めちゃいけないよ?


 あ、そうだ。友好の証と言っちゃなんだけど、不合格の林君と寺内さんは本来ならボクが殺す予定だったんだけど……


 まあまあ落ち着いてよ。予定が変わったんだ。リタイアさせてあげよう」



 殺すって言った途端、火野君が殺気立って他の人は怯えちゃったけど、リタイアさせるという言葉で戸惑ったみたいだね。



「えっ? リタイアって……無理だよ! だってリタイアの大剣を使ったら死んじゃうんでしょ?」



 ……賢人や火野君と喋ってると委員長が馬鹿に思えてくる不思議。



 いやむしろこっちが普通の反応か。



「はぁ〜、やっぱり委員長は彼らと違って頭の回転が鈍いねぇ。君の異能はお飾りかい?


 ハルスがクリア条件を提示した時、嘘でもついてたかな?


 バーカ、あいつは嘘がつけないんだっての」



 頭をひねる委員長。彼は【真偽判定】が使えるから嘘かどうかは分かるはずだ。



「た、確かに嘘はついてなかったけど……じゃあ、リタイアの方法は別にあるの?」



「委員長さぁ、何のためにヘルプ機能があると思ってんの? 聞けよ、気になるなら」



 そこでボクが意地の悪い笑みを浮かべたのを火野君は見逃さなかった。



「おい、ちょっと待て委員長。コイツまたなんか企んでやがるぞ」



「もー、水差さないでよ、こっちは教育してあげてんだからさぁ。



 指示待ち人間は破滅を招くってね」



「どういうことなの?」



「ほーら、そういうところだってば! もういいや、委員長が質問しないならボクが聞いてあげるよ」



(ヘルプかもーん)



(なんか呼び方だんだん適当になってませんか)



(うるせー。質問! リタイアの方法を教えてくれい!)



(A.異能を持っていない人間が5日以内にリタイアの大剣を用いて他の異能を持たない人間を1人斬ればリタイアされます)



「メニューを見てみな、これで全員のヘルプ欄にリタイアの方法が載ってるはずだよ」



「……なっ!……やられた、これが狙いか!」



「いやいや、ボクが言わなきゃ誰もリタイア出来なかったんだからむしろ感謝されるべきじゃない?」



「そもそも、俺達を召喚したのはお前らだろうが!」



「ぐぅの音も出ない正論きた!」



 正義の味方が怒ってて、たーのしーいなぁ。



「ふざけやがって。お前に利用価値が無ければとっくに……」



「とっくに、なんだい? 殺す? それじゃ、ボク達とやってることは一緒だね! 君とボクは同じ穴の狢だ」



 正義の味方は利用価値とか殺すとか言ったらダメなんだよ?



「チッ……お前とは話したくもない」



「あら、嫌われちゃったかな? うえーん」



 委員長は落ち込んでて、喋る元気もないみたいだ。



 いい傾向だ。急いで成長してもらいたいからね。



「それじゃあ、いっくよー。リタイアの大剣くーださーいな!」



 次の瞬間、ボクの手元にリタイアの大剣が現れた。



「コレを林君と寺内さんに条件付きで貸し出そう。



 条件は『生贄だけを斬ること』。これで良しっと」



 ボクは話し合いの間遠くで様子を見ていた林君と寺内さんの元に向かった。



「お、おい、ダフニー。ソレもって近づいてくんな!」



「嫌! 来ないで! まだ私、死にたくないの!」



 お前らみたいな木っ端に興味ねーよ。殺す価値も無い。



「いや、殺さないってば。ほらよ!」



 ボクがリタイアの大剣を2人の足元に優しく投げると、林君が恐々とした様子で受け取った。



「それをもって、2人とも付いて来い」



 それだけ言うとボクは校舎の中に入っていった。



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