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第7話 天賦の才を持つ者、それが天才

 


 亜里沙を自らの手で殺害した後、賢人は襲ってくるゾンビを全て一瞬で葬り去りながら家周辺を歩き回り、周りにゾンビがいなくなったことを確認すると家の庭に亜里沙の死体を埋めた。



 ちなみに、亜里沙が死んだ状態は5日後に現実世界の肉体に反映されるため、それまでは祭壇の部屋にある亜里沙の肉体が腐ることはない。



 埋葬が完了する頃にはもう日が暮れていたので、賢人はリビングのソファーで泥のように眠った。



 次の日、一通り旅の準備を終えた賢人は情報を注文することにした。




 香坂 慎平の位置情報 10010ポイント


 C3地区


 古海 優香の位置情報 10010ポイント


 D5地区


 ダフニー・御堂の位置情報 113010ポイント


 取り消し




「これは……所持ポイントで情報の値段が変わるのか! あの2人、まだ人もゾンビも殺してないんだな。


 それにしても……やっぱりお前が3人目の能力者、スパイだったか、ダフニー。


 ポイントたっけぇんだよ! まだ2日目だろうが! あ、俺の方が高かったわ。


 うーん、ダフニーの情報を得るべきか……よし、取ろう!


 どうせいつかは探さなくちゃいけないんだ。今を逃せばもっとポイントがかかるようになっちまうからな」




 ダフニー・御堂の位置情報 113010ポイント


 C3地区




「あ゛ぁ!? 香坂と一緒に居んのかよぉぉ! 113010ポイント無駄にしちまったじゃねーか!


 ま、まあいい。これで所在もはっきりしたし。別に泣いてないし。まず古海さんを迎えに行くし。


 ダフニーも流石にまだスパイってことは隠してるだろ」



 賢人は涙目になりながらトボトボD5地区へ歩いていった。





 《異能争奪戦》2日目SIDE古海 優香



「ふわぁー、ん? ここどこ?」



(D5地区、東京タワー展望台です)



「のわぁぁぁ! あー、ビックリした。そうだった、私、昨日はそのまま恐くて寝ちゃったんだった」



 床の上で直に寝たので身体中が痛い。



「うー、身体いたい。今日からどうしようか」



 そう言いつつも結局周りをウロウロするばかりで何も決められない。



「このまま5日間グダグダする訳にはいかないしなぁ、1人は寂しいし。いっそ誰か来てくれー、なんちゃって」



 すると、私の願いが叶ったのか、誰かがタワーの階段を上ってくる音が聞こえてきた。



「えっ、ちょっと早! 待って待って心の準備が……ゾンビじゃないよね? できれば女の子かイケメンがいい!


 ……ふう、よし。隠れるか」



 恐いので隠れた。チキンなどと言うなかれ。きっと世間の一般的な女子ならみんなこうしたはずだ。



「………………」



 えっ、急に静かになったんだけど。逆に恐い! なぜ無言。



 あ、1人なら普通無言か……



 ちょっと、ちょっとだけ覗いてみようか。



 そっと私が柱の影から覗いてみると、目の前に人がいた。



「ウヒャアァァァァァァ!!!」



「………………」



 無言! 柱から女の子が突然現れて、女子にあるまじき奇声を発したのに無言! って、あ。



「歩美ちゃん? なんだ〜、ビックリさせないでよ〜。生理現象固定されてなかったら漏らしてたよ、絶対」



 星谷 歩美(ほしや あゆみ)、いつも無口な女の子だ。とってもスタイルよくて可愛い顔してるから、性別に関わらず隠れファンが多いらしい。



「……なんか、ごめん」



 心なしかシュンとした表情の歩美ちゃんに、不覚にもハートを撃ち抜かれそうな今日この頃。



「いや、いいのいいの。それにしても歩美ちゃんが無事で良かった。今までどうしてたの?


 あ、喋るの苦手なんだっけ。ゆっくりでいいよ、ゆっくりで」



「……D6地区に転送された……ゾンビ、階段苦手……タワーを見つけたから……」



「ほうほう、ゾンビって階段苦手なんだ。



 じゃあ私は元からここに飛ばされてたから超幸運って感じだったんだね……



 みんながゾンビと戦ってたっていうのに、私はグチグチ文句ばっかりで……情けないなぁ」



 落ち込む私の頭を歩美ちゃんは優しく撫でる。



「……優香ちゃんが生きててくれただけで……充分」



 あ、あかん。惚れてまうぞ! 惚れてまうぞ! 耐えろ!



「えへへへ〜」



 ダメだった。歩美ちゃんの大きな胸に頭をスリスリした。



 と、その時、歩美ちゃんの表情が僅かに強張る。



「……誰か……来る」



「えへへへ……ハッ!? 危ない、新しい扉を開くところだった。


 って、え? また誰か来るの? このタワー人気すぎでしょ」



 今度は歩美ちゃんもいるので逃げないで待てる。流石に2人もいれば大丈夫だよね?



「あ、おーい! 生きてるかー?」



 こ、この声は! 賢人くん? 私は思わず階段の元に走った。



「賢人くん! なんでここま……で、ってどうしたのその血!」



 彼の全身は何故か、血で真っ赤に染まっていた。



「あぁ、大丈夫大丈夫。これ全部ゾンビの返り血だから」



「いや、何をどうしたら全身血塗れになるわけ!?」



 賢人くんは一瞬悲しそうな顔を浮かべたので、私は慌てて、



「いや、やっぱりいいよ。何か辛いことがあったんでしょ?」



 と言ったんだけど、



「……ああ、いや、聞いてくれ」



 と言われて、賢人くんの話を聞いた。



 賢人くんはD7地区に飛ばされてからのことを語ってくれた。



 ……わざと話してないこともあるみたいだけど、それは言えない理由があるんだろう。



 それにしても亜里沙ちゃん、賢人くんを護って死ぬなんて……私なら恐くて出来ないだろうなぁ。



 きっと亜里沙ちゃんは賢人くんのことを本気で好きだったんだねぇ。なんか、涙が出てきた。



「う〜、う〜。じゃあ、ありざじゃんのだめにもがんばらないどね」



「いや何言ってんのかわからん。とりあえず鼻水なんとかして、そのゾンビみたいな呻き声やめろ」



「わがっだ。じゃあ、今から賢人くんはどうする予定なの?」



「あぁ、その件で確認したいことがある……その前に、済まないが星谷さんは席を外してくれないか?」



「……わかった」



 え、なんで? 仲間外れ、良くないぞ!



「えっ、ちょっと待ってよ。歩美ちゃんに聞かれたらマズイような話なの?」



「ああ、マズイ。とてつもなくマズイ」



 マズそうなのは伝わるけどさ。



「……もし私が話してもいいって判断したら話すからね」



「……まぁいい。その代わり、ひとつ言っておく。


 自分の言動に責任を持つことだ。この世界はもう俺たちの生きてきた世界じゃない。1つの言動をミスると即、死に繋がるぞ。


 平和ボケを一刻も早く直さないとそう遅くないうちに死ぬからな。


 ……もう何人も死んでるんだ」



 そうだ、その通りだった。私はずっと東京タワーの展望台に居たから分からないけど、賢人くんや歩美ちゃん達はこの2日間ずっとゾンビと、死と戦ってきたんだ。



 歩美ちゃんは静かに出ていった。



「わかった。それで確認したいことって?」



「……その、古海さんは異能を持ってるよな? 恐らく【異能具現】を」



 ギ、ギクゥ! な、なぜそれを……



「ん、んー? も、持ってないかも知れないぞー」



 賢人くんはいつもみたいに苦笑する。



 私はこの顔を見るととても安心するのだ。



「あはは、目が泳ぎ過ぎて溺れそうになってるぞ。


 いや、隠さなくてもいいんだ。ただ、その異能は俺の持ってる【時間操作】と相性が良いというか……


 その異能は()()()()()()()()()()使()()()()んだ」



「そうなの!? だから頑張って色々したのに何も起こらなかったのかぁ。


 ……ってか、なんで賢人くんがそんなことまで知ってるの?


 ヘルプの機能じゃ使い方とか教えてくれないんだよ?


 なぜか普通に異能持っちゃってるし!」



「うん、それを説明するには今後俺と一心同体になってもらう必要があるけど……どうする?」



 は? 何言ってんだこの男!?



「え、なにそれ!? いくら私が可愛らしいからってナンパ?


 ……ごめん、ウソウソ! 嘘だからその真顔やめて!


 ……私、頭悪いからさー、今日だけ、今日だけで良いから考えさせて」



「ふっ、そりゃそうか。いきなりこんなこと言われても困るもんな。大事なことだ。たっぷり悩んでくれ。


 あ、古海さんの異能、まだ誰にも言ってないよね?」



「うん、使えなくて存在自体を忘れてたよ」



 私の言葉に何故か彼はひどく安堵しているかのように感じられた。



「……せめてこのゲームが終わるまでは、自分が異能を持ってることは誰にも言うな。詳しくはまだ言えないが、殺される可能性がある」



 この真剣さは、本物だ。



「わかった。気をつける」



 うんと頷いた賢人くんは再び苦笑を浮かべて、私の頭を撫でる。



「あと、俺が言うのもなんだが、人の言うことをホイホイ信用するな。常に疑え。特にこのゲームが終わるまではな」



「うん。ありがとう、賢人くん」



「ふん、別に気にするな。亜里沙と……約束しただけだ。周りの奴らを助けるってな」



 やだ、カッコイイぞこいつ。違うぞ〜、私は尻軽じゃないぞ〜。



「えへへへへ〜」



 ……やっぱり、もうダメかもしれない。



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