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第6話 裏切りに抉られしは穢れし臓物

 


 《異能争奪戦》1日目SIDE香坂 慎平(委員長)



 召喚された直後から、違和感はあった。これまでも他人の嘘というのを敏感に感じ取れる性質ではあったが、ここまでじゃなかったはずだ。




「緊急時におけるメッセンジャーの担当をしている」【嘘】



「あと、メッセージだったか? これは開発者様がお前たちに対して親切にも残して下さったものだ。ありがたく聞け」【嘘】



「転移魔法に人数制限があってな。転移可能なのはお前ら40人のうち、数人だ。


 それと、我が直接殺さないのは、お前らの殺しに対する適性を見るためだ。運で生き残るより、実力で生き残りたいだろ?」【嘘】



「そりゃあ後で殺し合いの必要性が無かったことに気づいたお前達の絶望する顔が見たかったからだが……


 バレたならもういい。実は貴様らが殺し合う事にさほどの意味は無い。余興の類なのだ。


 意味のある死の方がまだ納得できただろう。仲間や己が死ぬのは仕方がなかったのだと。犬死ではないのだと。あーあ、知らなければ幸せなまま死ねたのに、残念」【嘘】



「あの、先生を爆散させた能力とか使われてさぁ」【嘘】




 相手が嘘をつくと、その周りに黒いオーラが滲み出てきていた。正確、ではないんだろうけど。



 みんな無反応だったから、きっと僕にしか見えていないんだろう。



 こうなった原因を考えている内に、《異能争奪戦》ってのが始まってしまった。



 あの時水地君がみんなを止めてなければ、僕も今頃生贄になっていた。



 彼は信用できる。よく嘘もつくし清廉潔白とは言えないけど、彼は紛う事なき善人だから。



 ふっ、善だの悪だのといった概念は恣意的なもので、何の根拠もない僕自身の判断によるものだけど。



 彼は頭もキレるから、特筆すべき問題も無いはずだ。



 あ、もう1人信用できる人はいるね。いつも報われないのに他人のことを必死に理解しようと頑張ってる女の子だ。この子は頭がポンコツというか、誰かが見てないと危なっかしいんだよね。







 ゲームスタートの合図を聞いたあと急に視界が暗転して、ふと目が覚めるとC3地区ってところにある学校の屋上に転がっていた。ひどい。



 メニューを確認してみると、【真偽判定】ってのを取得済みになっていた。これが違和感の正体だったのか。



 これでリタイアは不可。ってこのリタイア、やっぱり僕達を参加させるための罠だったみたいだね。



 そう考えると異能をポイント無しで貰ったのは不幸中の幸いかな……?



 ……まあ、精々足掻いてみますかね。







 《異能争奪戦》1日目SIDE古海 優香(ふるみ ゆうか)



「ひぃ、なになに?【異能具現】って一体なんなのよ〜! 使い方くらい説明してよ! ふぇぇ……」



(ヘルプに異能についての説明機能はありません)



「うー、役立たず!……ゴメン。言い過ぎた。あなたは自分の仕事を全うしてるだけだもんね」



(お気遣い、痛み入ります)



 彼女は1人、D5地区の東京タワーらしき建物の展望台で混乱していた。







 《異能争奪戦》1日目SIDE坂本 栄司(不良リーダー)



 オレが目を覚ますと、あたり一面真っ白な天井が見えた。



 どうやら病院のベッドの上で寝ていたようだ。



 一瞬元の世界に帰ってきたのかと思ったが、周りを探索しても人が1人も確認できず、さらにメニューが開ける事に気付いて落胆した。



「A4地区? よく分からんな。


 だが、わざわざオレをこの病院に指定するなんざ、こいつら一体何を考えてやがるんだ?


 あの事件の犯人、水地賢人を殺せってことかぁ?


 ……ふん、奴等の思惑に乗せられてるってのは好きじゃねぇが、今回ばかりは喜んで協力してやる」



 オレは元々そこまで乗り気じゃなかったが、この中ならば誰にも咎められることなく()()()()()()事に気付いてこのクソゲーへの参加を決めた。



 地球じゃ、殺人なんてできやしねぇからな。



「オレはまだ、死ぬ訳にはいかねぇ。絶対に水地賢人を殺して生き残ってやる。早く元の世界に帰らないと妹に心配かけちまうからな」



 決意を新たにオレが病院の階段を降りようとしたその時、1階からアウアウ変な声が聞こえてくることに気づいた。



「? 誰かいるのか?……うおっ、なんだこりゃ? ゾンビか?


 あ、そういえばメニューに載ってたな。すっかり忘れてたぜ」



 一瞬驚いたが、冷静に観察するとコイツは大した脅威ではない。



 大量に襲いかかってくるってんなら別だが、どうやらここら辺にはゾンビはほとんどいないらしい。しかもコイツら、どうやら階段を登るのが苦手みてぇだな。



「階段を利用した各個撃破。これで暫くは持ち堪えることができるはずだ。


 幸いなことに、ここは病院。階段も階層も、医薬品やベッドだって沢山ある。


 5日程度ならなんとかなりそうだが……人が欲しいな。1人じゃ限界があるぞ」



 オレはきっと恵まれてる方なんだろう。既にポツポツ死人が出てやがる。



 ……クソッ、なんとかしてやりてーが……取り敢えずはゾンビの掃除とバリケードの作成が優先だな。



 1階にいるゾンビは……走って確認するか。





 《異能争奪戦》1日目SIDEダフニー



 ボクが目覚めると、そこはC2地区にある高層ビルの一室だった。



「ふぁあ〜あ。ねっむ!……しゃあない、ボチボチ働きますかね!」



 いつも通りの満面の笑顔でボクはそう呟いた。



「お〜い、ヘルプ、かも〜ん! プリーズヘルプミー」



(なんでしょう?)



「この中で能力者殺したら異能はどうなんだっけ?」



(A.再びメニューに載ります。但し……)



「あぁ、もういいよ。お勤めご苦労!」



 ボクがビルから外に出て、鼻歌を歌いながら歩いていると、前方に、1体のゾンビに追いかけられてる2人のクラスメイトが見えた。



「おい、ダフニー、早くお前も逃げろ! このゾンビ全然死なねーんだけど……」



「ヒィ……ヒィ……運動不足の身体にはキツイものがあるでござるなぁ」



「ホント〜? じゃあボクが戦ってくるよ」



 そう言い放った瞬間、ボクはゾンビの元へ突撃。素手でゾンビの頭を叩き潰した。



「ス、スゲェ。一瞬でゾンビを倒しやがった……」



「ゼェ……ヒュー……助かったでござる。命の恩人でござる」



 ボクはゾンビの少ない返り血を浴びた指を舐め、



「うん、そりゃあ良かった。お勤めご苦労!」



 次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()



「うえー、きったねー血だな。


 お前らは殺しても構わないリストの2人だからね。当然の報いさ。


 恨むなら過去の自分を恨みたまえっと」



 そう言いながら、ボクは次の獲物を探しに鼻歌を歌いながら歩く。



 でもやっぱり眠かったのでC3地区で見つけた学校の屋上で寝ることにした。



 だが、ゾンビ共を100体くらい殺しながら屋上に着くと、そこには先客がいたようだ。



「あれ? 委員長、ここに居たんだ。やっぱり屋上で昼寝は高校生のロマンだよねー」



「止まれ、ダフニー」



 なんか怒ってる。どうしたんだろ。



「その両手にべったりついてる血はどうした?」



 あ、忘れてたな。



「あぁ、これ? さっきゾンビに襲われてさ〜。返り血だよ返り血」



 ボクがそう答えても委員長の表情は厳しい。



「……誰の?」



「ふ〜ん、その反応、やっぱり委員長が【真偽判定】の能力者なんだね?」



「な、なんで……」



「いや、だって普通、ゾンビに襲われたって言ってんのに誰の? なんて聞かないからね。



 ゾンビの体液も人間の返り血も、時間が経てばどす黒い茶色だよ?



 そんなことを、しかもわざわざ距離を離して聞かれたらさ〜、丸分かりだよ、ボクを警戒してるって」



「うっ、ぐぬぬ……」



「アハハ、ぐぬぬって言う人初めて見た。


 でも、委員長なら()()()。別にボクは君に対して何もしないさ。


 そもそも、自力で異能を取得するような人間に不合格なんて出せる訳ないし……!!! なに……?


 おいおい、ちょっと早すぎるぞ、賢人。ってか、何でこんなところにいる!」



「おい、どうした、おい!」



 ボクは慌てて笑顔を取り繕った。



「あ、あぁ、いや、何でもない。あ、嘘が通じないんだっけ……


 悪いけど、ボクはちょっと疲れた。此処には元々寝ようと思って来たんだ。しばらくボクは寝させてもらうよ?


 あ、殺そうとしても無駄だ、ボクは死なない。


 ……ゴメン。まだ、死ぬ訳にはいかないんだ」



 そう呟くと、ボクは委員長の横に転がった。



(おい、どういうことだ! 反応しろ! お前に言ってんだよ、ハルス!!)



(現在、ハルス様は就寝中です。御用の方は、でんご)



(ハァァァ? バッカ、初日が大事だって言ってただろうが!


 もうお前でいい、なんで賢人をD7地区に飛ばした。


 そこに留まってたら大量のゾンビに襲われる事くらい分かってたことだろうが!


 たまたま【時間操作】の取得に成功したから良かったものを、失敗してたらボクらの努力、全部水の泡じゃないか!


 特にボクの努力! わざわざこっちは地球まで転移して1年間工作し続けてたんだぞ! )



(緊急事態と判断。ハルス様と接続を試みます。


 ……接続成功。少々お待ちください……


 ハルス様に確認が取れました。寝不足で間違えたそうです)



(……は? )



(寝不足で間違えたそうです)



(あ、もういいです。おやすみなさい)



 心なしかヘルプ機能からクスッと馬鹿にした声が聞こえた気がした。



(良い夢を)



(……それは皮肉か? )







 《異能争奪戦》初日報告SIDE管理者



「……以上が、1日目の、報告ね」



 睡眠を取ったからか、少し顔色の良くなったハルスを横目に見つつ、アイリスは報告書に目を通した。



「ふーん、予想以上に動いたもんだ。短めにしといて正解だったみたいだな。


 でもなんで5日間しかないんだ? 1ヶ月くらいの予定だったよな、最初は」



 途端にハルスは頰を膨らませた。



「だって、ベリスちゃんが、この時期じゃないと、働きたくないって、言ってたから」



 アイリスは思わず呆れた声を上げた。



「は〜。流石、【転移結界】持ちはワガママだねぇ」



「……うん。ベリスちゃんは、この計画に、賛成してたから、見逃してたけど、これは、ヒドいかも。


 ホントは、こんなことさせたくないけど、今度、隙を見つけて、私の代わりに、キドニアのところで、【眼見洗脳】、受けさせといて(自分のこと、棚上げしちゃったけど、まあいいか)」



「うー、アイツ意味分かんないから嫌いなんだが……まあいい。了解」



 アイリスは初日の結果報告が書かれた紙をヒラヒラされながら渋面を作った。





 ーーーー結果報告(1日目)ーーーー


 異能発現者:


  水地 賢人(【時間操作】)


  古海 優香(【異能具現】)


  香坂 慎平(【真偽判定】)


 ゾンビ討伐数:


  水地 賢人(725体討伐)


  ダフニー・御堂(93体討伐)


  坂本 栄司(7体討伐)


  林 義和(6体討伐)


 死者:


  藤井 進


  高原 和正


  矢野 亜里沙


  羽田 雄二


  松村 美奈


  北条 明菜


 ポイントランキング:


  水地 賢人(745010ポイント)


  香坂 慎平(10010ポイント)


  古海 優香(10010ポイント)


  坂本 栄司(7010ポイント)


  林 義和(6010ポイント)


  以下省略


  (ダフニーは審判扱いなのでポイントの概念がない)





(以下、アイリスに見せる前にハルスが破り捨てた内容)


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 その他、審判からの特記事項:


  今回、最重要対象である水地 賢人の転送場所が重大な過失行為により変更された。


 責任者のハルス・ビンドウィードは死亡が決定しているため処罰は与えられないが、これから続く作戦においてこの様な失態を犯さぬために、残りのメンバーはゆめゆめ注意を怠らぬ様に。


 ちなみに、あの後お腹いっぱいパフェを食べられる夢を見た。ありがと……


 いや、許したわけじゃない。勘違いするなよ、ハルス。

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