第3話 月、それは最期の決戦場
本日1回目の投稿です。
次の日、朝食を食べ終わった3-Aの生徒40人が集められたのは、昨日の時点では何故か開かなかった部屋の1つだった。
その部屋の中には人数分の机と椅子が円陣の様に配置されており、中央には祭壇の様なものまである。スポットライトでそこの周りだけが照らされていた。
全員が緊張しながらも各々好きな席に着き終わった時、タイミングを見計らったかの如く2人の少女が中に入ってきた。
1人は言わずもがな、アイリス・サングイネアであり、もう1人は初めて賢人達が見る美少女だった。
赤みがかった白い肌に緩くカーブのかかった亜麻色の髪、やや小柄な体格でローブっぽいものを羽織り、八重歯の覗く笑顔が可愛らしい少女だ。
どうやら今回アイリスは特に喋る事も無いようで、部屋の片隅で目を閉じて両腕を組んで佇んでいるだけだった。
もう1人の美少女はそんな様子のアイリスを気にした風でもなく部屋の中央の祭壇までゆっくり歩いてくると、その場に似つかわしくない能天気な声で話し始めた。
「殆どの皆さん、初めまして。私の名は、ハルス・ビンドウィード。
昨日、アイリスちゃんが、言っていた通り、これから、皆さんには、殺し合いを、してもらいます。
あ、質問は、最後にしてもらって、いいですか?
とりあえず、対象は、この部屋の、椅子の上に、接着している、個体、転送先は、空白空間経由で、3日前から徹夜して作った、あの、仮想空間。
よし、【箱庭創造】」
次の瞬間、40人の生徒達は椅子に座ったまま意識を失い、机に突っ伏した。
彼等が目を覚ますと、そこは自分がどこに立っているのかも分からないほどに一面が真っ白な空間だった。
それこそ小説や漫画のテンプレで主人公が新しく異世界に転生する前に出てくる、神とかが現れてチートを授けるような所である。
他の皆が呆然としている中、賢人だけは焦りと自己嫌悪で吐きそうになっていた。
(やられた! 名前から能力を思い出すのが遅かった。
あぁ、不味いぞ。よりにもよって【箱庭創造】か……
この世界があの小説と対応関係にあるとすると、この能力は20個以上ある異能の中でも割と最強クラス……
今の俺たちじゃ、どう足掻いても瞬殺される。ま、その時はどうしようもないな)
暫くそのまま全員が固唾を飲んで沈黙していると、突然ハルスの声がさっきとは打って変わった口調になって脳内に聞こえ始めた。
『あーてすてす、みんなきこえる? はーい、みんな大好き、ハルス・ビンドウィードでーす!
これからみんなには、ステキなゲームをしてもらいまーす!
その名も、《異能争奪戦》!』
賢人は思わず声を上げそうになった。突然口調の変わったハルスに……ではない。彼女は小説でもそういう設定だったからだ。
驚いたのは、彼の知っている知識では異能はそう簡単に取得出来るものではなかったはずだったということだ。
驚きを表に出さないようにしながら続きを待つ。
『みんなにはこれからー、とある場所で5日間のサバイバルゲームをしてもらうよ! ブッコロもあるよ!
あ、でも、睡眠を除いた生理現象は今の状態で固定だけどね! つ、ま、り、ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、トイレに行かなくてもいいのです! 仮想空間最高!
でもね、1つだけ注意! この仮想空間で起きた事は全部、現実のオネンネしてるみんなの本体と完璧にリンクしてるからね! 気を付けて!
あ、でもでも、発狂されたりしたら困るので、精神は安定させてあげます!
そしてみんなが無事に帰って来る方法は2つ!
一つ目は簡単、異能をとらない状態で、5日以内に必要ポイントを集めてリタイアするだけ!
二つ目はちょっと大変だけど、5日以内に異能を取得した上で、時間ギリギリまでキッカリ生き残ること!
ここで質問なんだけど……ボク、恐いからサバイバルなんて無理だよ〜、とか、ワタシ、ヒトを殺すなんて出来ない〜、なんて言う人はいる? いないよね? え? いるの? じゃあその人達は手を挙げて?』
ここで賢人は殆どの人達が手を挙げようとしたのを感じて、反射的に叫んだ。
「おまえら、絶対に手を挙げるな!!」
思わず全員が挙げようとした手を降ろして賢人を見る。
「どうしたんだ?」
「何で手を挙げちゃダメなんだ?」
「ま〜た、コイツかよ。お前ここに来てからちょっと出しゃばり過ぎ〜」
「いや、なんか嫌な予感がしたんだ。挙げちゃダメな気がする。だってこいつら、俺たちに殺し合いさせたがってたんだぞ」
「は? コイツ頭おかしくなったんじゃねえの? ストレスで! ギャハハハ!」
結局、賢人の説得を聞かなかった7人が手を挙げると、
『かしこまり! そんな聖人君子な君達にハルスは感動しました! 自分の身を生贄にしてくれるなんて……ニコッ』
そんな声が聞こえたかと思うと、7人の生徒は一瞬で消滅した。
その超常現象を目の前にして賢人達が絶句する中、再び脳内に声が聞こえた。
『あ、別に彼等、まだ死んだ訳じゃないから安心してね! 彼らを生かすも殺すも君達次第!
はーい、じゃあ、こんな感じで、生贄も準備できたので、お待ちかねの、ゲームスタートだよ!
今からみんなの目の前にメニュー画面を表示させるね? ほい!』
次の瞬間、各々の視界に半透明のプレートが浮き上がる。
『はい、これがメニューだよ! 脳内で操作出来るからあとで練習してみてね!
マップ、所持品、ポイント獲得条件、ポイント交換一覧、異能、ヘルプの6つが見れるよ!
これらを駆使して頑張って! 質問のある人はヘルプで聞いてね! 以上! 健闘を祈る』
その瞬間、再び残りの全員が白い空間から消えた。
ーーーー祭壇の部屋 SIDE:管理者ーーーー
「いくらこれ以上の方法が思いつかなかったからって、本当に……これで良かったのか?」
「あははは、アイリスちゃんは、優しいね。
私は、アイリスちゃんと違って、自主的に、この計画に、参加した口だから、結局は、責任を、取らなきゃならない。
ハルス・ビンドウィード、【絶対契約】違反につき、死亡ってね。
……そんな顔、しないでよ。まだ、後少しは、一緒に居られるからさ。」
「あぁ、そうだな……先にそっちで待っててくれ。我も直ぐに追いつく」
「……うん。ごめんね、アイリスちゃんを、無理矢理巻き込んじゃって。
それにしても、こんな形で、【絶対契約】を破れるなんて、知らなかったよね。
シリンガには、感謝しなくちゃ。あの、いけ好かない、ビオラの、【絶対契約】を破れる日が来るなんて、痛快じゃない?」
「……そうだな。さあ、《異能争奪戦》はまだ始まったばかりだぞ。
3日前から徹夜なんだろ? あの、訳のわからん仮想空間を作ったせいで」
「うん、頑張っちゃった、えへへ。ちょっとだけ、休ませてもらう。ヘルプは、自動返答だし」
沢山の生徒が倒れ伏している部屋の中で、二人の間にだけは儚く幸せな時間が流れていた。
みなさん! なんと昨日、とは言っても初投稿日なんですが、初めての評価をいただきました!
評価してくださった方、本当にありがとうございます! 作者は咽び泣きました(*´-`)
これからも拙作をどうぞよろしくお願いします!