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第36話 世界最重要会議(前編)

長らくお待たせ致しました!

 


「それではこれより、第288回三ヵ国会議を始めよう」



 時は賢神暦351年7月25日(ちなみにウォーターグラウンドでは地球とほぼ変わらない太陽暦が採用されていた。転生者だったダフニーの影響だと思われる)、ユートピアの専用会議場に場所を移した各国の面々は、巨大な会議場の円卓で一堂に会していた。



 ダフニーが会議の開催を宣言し、とりあえずという形で使徒の代表として委員長、火野、賢人、亜里沙が紹介された。



 和やかな空気で自己紹介を終え、ようやく本題とばかりに硬い笑顔のダフニーが口を開く。



「早急に決めておかねばならないのは、予言に関連していると思われる事象に対する使徒達の取り扱いについてだ。


 皆知っての通り、予言からはユートピアでの魔物の大量発生、巨大隕石落下に続いて『大災厄』『輪廻の檻』というよく分からない困難が我々を待ち受けていると予想されている。


 ボクが提案したいのは『ユートピアでの災害が発生し、解決するまでは暫定的に使徒達をユートピアあるいはウィズ迷宮内に留まらせ、それらが解決あるいは先に『大災厄』や『輪廻の檻』問題が発生すれば速やかに対処にあたってもらう』という案なんだけど……どう?」



 円卓の面々は考え込んだり仲間と小声で議論を交わし大枠はその案でいくことに賛成された。



 達成感に満たされた会場の中で、賢人は何の気なく手を挙げる。



「俺達が対処を拒否したらどうなる?」



 その瞬間、ボヘミンとバレンティアの面々の表情は凍りついた。



 そう、彼らは当然使徒達が全てを解決してくれるものだと勘違いしていたが、賢人達はそんな使命も何も持っていない。



 無理に困難に立ち向かう必要性など感じていないのだ。



 しかしその主張をダフニーは笑って受け流した。



「ハハッ、そうなったらボクらは黙って死ぬしかないねぇ。使徒様がそれをお望みならそうさせていただこうか」



 ふん、と鼻を鳴らした賢人は応える。



「冗談だ。だかその選択肢もあるってことは覚えておいて欲しい」



 脅しをかけるのはお前らではなくこちらの方だと賢人は言外に意味を込めた。



 正直賢人は予言のような大それた事を解決できるとは思っていない。が、将来の保険をかけられるならかけておくべきだろうと思ったのだ。



 この中に使徒を脅して私欲を満たそうとする輩が紛れている可能性もないとは言えないのだ。



 人智を超えた異能力者は常に狙われる立場にある。



 現状はダフニーのおかげで拘束されることもなく自由をある程度保証されている、いわば最善の状態なのだ。



 ならばそれに甘えることなく保身を図ろうと考えるのはおかしい話ではないだろう。



 その考えを分かっているのかそれとも使徒の不興を買うことを恐れているのか、恐らくは後者だろうが、誰からも不満の声は上がらなかった。



「それじゃあ次の議題に入ろう。ボクはもうすぐ死ぬ」



 その瞬間、今度こそ会場の空気は絶対零度に凍りつき、恐ろしいほどの静寂が訪れた。



 お茶汲みをしていたみゅーたんが放心した表情で紅茶の入ったポットを床に落とし、高価な陶器が割れ中身が床に流れた。が、誰もそれには反応しなかった。



「あー、みゅーたんもごめんね? 言ってなくて。という訳でボクはあと……うーん、頑張っても1年くらいしたら死ぬと思うのでその対策について話し合おうと思いまーす!」



 当然、誰もが無反応だった。



「これが……大災厄か?」



 ギルファセッツが真剣な表情でそう言うとダフニーは吹き出す。



「アッハッハ、ギルは冗談が上手いねぇ。ボクが死んだところで世界が危機に瀕する訳……」



 そこでダフニーは語るのをやめた。余りにも周りが真剣な眼差しで自分を見つめていたからだ。



 ボヘミン王タルジェンドは重々しく口を開く。



「畏れながらダフニー様、ご自分のなされてきたことをお考えください。


 350年にわたりウィズ迷宮を統括し莫大な領土を治めてきたばかりか、世界最高の楽園都市ユートピアを造り、今となってはバレンティア都市国家群、ボヘミン王国の軍事面も冒険者という形で一手に担っておいでです。


 貴方がいなくなっては世界の損失になるに決まっているではありませんか」



 思わぬ口撃に面食らったダフニーはしどろもどろになりながら反論する。



「で、でもだから冒険者ギルドも独立させたし、商業もウーバ商会に取り仕切ってもらってるし、迷宮も後継者を育てるし……」



「冒険者本部のギルド長を任命してきたのは誰でしたか? ウーバ商会の会長を任命してきたのは誰でしたか? 我が王国の国王を決めてきたのは誰でしたか? 全て貴方でしょう」



「う、うん。そうだね」



「確かに私達は貴方の考えを受け継ぎ、立派に務めを果たしましょう。しかし貴方がいなくなってしまったら我々は皆、心の支柱を失うのです……」



 タルジェンドは思い出していた、自分が王家の元に生まれ落ちてから国王となるまでの人生を。



 厳しい父と母だった。



 タルジェンドは幼い頃からあらゆる習い事や勉強を強要され、国王になるのが嫌だった。



 そんな時によくダフニーは王宮に忍び込み、彼を誘拐してユートピアに連れて行ったものだった。



 ダフニーはタルジェンドを連れて露店で串焼きを買い、手を繋いで歩きながら笑顔を浮かべて住人と喋ったり馬鹿騒ぎを起こした。



 そして最後に決まってこう言うのだ、この平和は努力せねば得られないものなのだと。



 それからタルジェンドは厳しい躾に文句を言わなくなった。



 国王になってからも国民の笑顔を守る為に努力し続けた。



 それはあの時の光景が魂に焼き付いているからだ。



「我々天孫をお造りになられた貴方なら分かるでしょう? 私は貴方がいたから頑張れたのです。貴方がいたから安心して国を運営することが出来たのです。えぇ、甘えですよ。でも少しくらい許してくれてもいいでしょう?」



 国王は泣いていた。



「我らは貴方の子孫に変わりないのですから」



 ダフニーはいつもと違う優しい笑顔を浮かべタルジェンドに言う。



「ジェンド。ごめんな、最期までそばに居られなくて……でも大丈夫だ。輪廻の神アリサ様と一緒に見守っておくから」



 涙でぐしゃぐしゃの国王はなんとか声を絞り出す。



「はい……」











 その後もダフニーがギルファセッツやみゅーたんをなだめるのにさらに時間がかかり、本来の議題を進めることが出来たのは昼食を終えた後だった。



「はい、という訳でボクはそろそろ死ぬので、後継者を発表しまーす!」



 一目見て空元気と分かる笑顔だったが指摘するものはおらず、一同は固唾を飲んでダフニーの言動を見守った。



「ジャジャジャン! えーと、来年から数年間くらい香坂君にダンジョンマスターをやってもらいます。


 その後ボクの直系の子孫のカイ・ブルガニスにダンジョンマスターを継いでもらいます。


 みゅーたんとかサユリちゃんがサポートしてくれると思うのでボクが死んだ後は頑張ってね」



 そこまで言うとダフニーは賢人を見つめた。



「その為には『簒奪の魔眼』が必要なので、ユートピアでの災害が終わるかいよいよボクが死にかけたら、賢人達には『簒奪の魔眼』を取りに行ってもらいたい」



 その台詞にザワザワと騒めく会場。



 誰も『簒奪の魔眼』など知らなかったからだ。



 しかし賢人は知っていた、小説に『裏異能』として設定されていたその存在を。



(実在……していたのか。アイテムに宿る異能。設定にあったのは確か3つ。『簒奪の魔眼』に『叡智の書』、『消滅の魔銃』だったよな)



「あ、君達は冒険者だったね。じゃあ依頼という形にしておこう。報酬はオリジナルの『漆黒ノ名モ無キ刀』でどうだい? しかも前払い」



 さっきとは別の意味で会場は騒めいた。



 現代の文明の技術力では全く構造の不明な超越武具の1つ『漆黒ノ名モ無キ刀』。



 恐ろしく頑丈で大きさや重さは自在に変更でき、斬れぬものは無いという。



 名前だけなら村の子供でも知っている世界の宝である。



 渡して良いよね? とダフニーがギルファセッツに確認すると、もちろんですと返答を受けた。



 賢人も珍しく即座に頷く。



「オリジナルは本当に欲しかった。俺が欲しがってるってよく分かったな? 依頼を受けよう」



 ダフニーは嫌らしい笑みを浮かべる。



「賢人のことならなんでも分かるさ」



 その台詞に寒気を覚えた賢人は背筋をブルリと震わせるのだった。



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