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第30話 世界最大の謎

 


 その日の夜、レナとパーラピリナと別れた賢人達3人はタワーであてがわれた賢人の部屋に集合していた。



「さて、これからすることは覚えてるか?」



 賢人が2人に聞くと



「んー、覚えてない」



 亜里沙は素直にそう答え、



「えへへ、もしかしてイチャイチャタイムが始まったりしちゃったり?」



 優香は恥ずかしそうな表情をしながら賢人を見た。



「はぁ、覚えてないなら素直にそう言え。今日は優香が倒れるまで特訓だ」



 賢人がそう言うと優香の顔が赤くなった。



「えっ!? 本当に? じょ、冗談だったんだけどな……へへへ、でも賢人くんが良いなら……」



「? 何を言ってるのか分からんが、今から【異能具現】で武器を複製するって言ってたろ?


 明日にはこの武器を返さないといけないから今日は徹夜で【異能具現】を使いまくる。心の準備は良いか?」



 賢人がそう言うと2人はようやく思い出したらしい。



 賢人は2人が真剣な表情になったのを確認すると、おもむろにこれからすることの説明を始めた。



「そもそも優香の持ってる【異能具現】って能力は、



 1.他の能力者と直接接触する



 2.具現化したいものを思い浮かべる



 3.その体積に応じて接触している能力者は異能行使した時と同じ状態になる。(寿命を削られたりする)



 4.異能具現によって出来た物は、失敗作なら接触している間に限りやり直しができる。成功した場合、望んだ本来の機能に加えてその物に接触している者は大きさに応じた異能を対価なく行使できる。ただしその場合、行使後にその物は消滅する。また、発動する異能は指向性は制限される。例えば【時間操作】だと、一例として時間を早めることしかできなくなったりする訳だ。



 5.異能と同等の機能を持つ物は具現化出来ない。また、魔法技術科学技術により体積を変更する機能は付けられない。



 ざっとこんな感じの能力になる。な? えげつないほど強いだろ?」



 優香は頭を抱えた。



「うー、よく分かんないけど賢人くんがそれでいいならいいや」



「思考放棄するなよ……。まぁいい、それじゃ早速この3種類の武器をコピーしよう」



 そこで亜里沙が手を挙げる。



「はい、質問です!なんでも具現化できるはずなのに何でコピーなの?」



 賢人は頷いて言った。



「うむ、いい質問だ亜里沙。例えばそうだな、優香が腕時計を具現化したくなったと仮定しよう。出来ると思うか?」



 優香は暫し悩んだ後、首を横に振った。



「多分無理。だって仕組みがわかんないもん。形だってあやふやにしか思い出せないし」



「そうだな。だから覚えるまでは実物がいるわけだ。想像力を補完するためにね。


 コピーにするのも同じ理屈だよ。実際にそういう風に動く実物があれば、容易く想像できるだろう?


 仕組みは分からなくて大丈夫だよ。上手く説明出来ないけどこういう風に動くものって思えば魔法的な何かが働いて多分いける」



 賢人のフワフワした解答に納得する2人。



「それじゃ、始めようか」











 数時間後、そこには大量の『名モ無キ漆黒ノ刀』『最高奉天』『次元崩刀』のコピー、刃の長さだけを変えた『名モ無キ漆黒ノ刀』のコピー、そして力尽きて倒れる賢人と優香の姿があった。



「つ、疲れた〜。でもやっと満足なコピーが出来たね」



「あ……あぁ……そうだな……」



 ただ疲れただけの優香に比べて賢人は寿命をかなり消費してしまっていた。昼間倒したデスファイアーウルフから得られた寿命をほぼ全て消費する程に。



「賢人は疲れてるんだから無理に話さないでいいよ。古海さんも疲れたでしょ? ゆっくり休んでね」



 優しく賢人の髪を撫でていた亜里沙は労わるように言った。



 その後すぐに優香は眠りに落ち、賢人と亜里沙は優香の隣に寝転んで小声で話し合う。



「明日は夜まで予定は無いから、この世界の情報について勉強しようか。


 夜になったら俺と亜里沙、委員長と火野はダフニーの夕食会に招待されてるよな? あいつのことだからただの夕食会な訳がない。厄介事に巻き込まれるかも知れないから注意してほしい」



「うん、分かった。賢人は特に気に入られてるみたいだから気を付けてね」



 2人でイチャイチャと話していると、寝返りをうった優香が賢人を抱き枕のようにして抱きついてきた。



 剥がそうとした賢人だったが、亜里沙からそのままにしてあげてと言われたのでそのままにした。



「はぁ、暑苦しい」











 次の日、3人は賢人の部屋に運ばれてきた朝食を豪華なテーブルの上で食べつつ、この世界について簡単に話し合っていた。



「『ウォーターグラウンド』ってさ、地図を見ると地形がほとんど地球と変わらないよね?」



 朝食の席に着く直前、本に載っていた世界地図を見つけて眺めていた優香がベーコンっぽい何かを食べながらそう切り出した。



「そうだな。だが、地球と違ってヨーロッパ大陸以外は死の大地になってるみたいだな」



 砂糖とミルクを加えた紅茶を飲む賢人がそう答える。



「「死の大地? 」」



「ああ。一面が砂で覆われた大地には動植物が全く存在してなくて、そこに立ち入る動物達は何故かすぐに死ぬから誰も調査もしていないらしい。


 そのせいかこの大陸は神に祝福された地だって言われてて、特に死の大地と接してる東のボヘミン王国では宗教に対する信仰が厚い」



「ふーん、じゃあユートピアは地球で言うとどこにあるの?」



 亜里沙が首をかしげて聞く。彼女は食欲もないらしく転生以来何も食べていないようだが、特に問題はないみたいだ。自分の分の小さな朝食を全て優香にあげていた。



「今は確かドイツの南部だったかな。ユートピアは何年もかけてドイツ、フランス東部、スイス、ポーランド、オーストリア、チェコあたりを周ってる。


 多分その範囲全部がウィズ迷宮なんだろうな。ここと地上との交通手段は転移魔法陣を使うらしいから知らなくても問題ないみたいだけどね」



 優香と亜里沙は迷宮の範囲の広さに絶句した。



 賢人は2人の反応など気にもしてない様子で思考を巡らせていたが、ふと真剣な表情になって2人を見る。



「これは俺の推論なんだが、この世界は物理法則を捻じ曲げられた過去か未来の地球、あるいはパラレルワールドなんじゃないかと思ってる。


 ここには月があった。太陽もあった。大気組成も地球とほぼ変わらないはずだ。極めつけはこの地形。


 父さんが1から作り出した可能性も……無いことはないが、そんなことできるなら父さんは最早人じゃなく、神だ」



 2人は思わず息を呑む。確かにこの世界は、異世界ファンタジーと断定するには不自然な要素が多過ぎる。



 さらに話を続けようとした賢人だったが、それは余っているイスの上に突然現れたダフニーによって中断させられた。



「やあ、3人ともおはよー。面白い話をしてるようだけど、それ以上のことが知りたいならここじゃ危険だ。


 朝食が終わったら迎えに来るからそれまでその話題は口に出さないで欲しいな、じゃ、ごゆっくり!」



 そう言い終わるとすぐにダフニーは消える。



「なるほど、これで正解か」



「賢人! 危ないからやめて!」



 叫ぶ亜里沙を膝の上に載せてさらさらな髪を撫でながら、賢人は肩をすくめて紅茶を味わった。そして朝食の大部分は残した。

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