第28話 無属性は主人公の証
鍛錬場にて、ニアは賢人に頭を下げていた。
「ニアが悪かったにゃ、許して下さいにゃ」
賢人は少し考えて口を開いた。
「今回の件については俺も仕返ししましたし、これでおあいこということで。
でも亜里沙や優香に同じことしたら……あんな簡単に殺してあげませんからね」
にっこりと微笑む賢人に対してニアは顔面蒼白で首を上下にブンブン振った。
「そ、それじゃあ、ケント様の魔法適性を調べますにゃ。私に合わせて復唱して下さいにゃ」
賢人は内心ワクワクしながら頷いた。小説にも魔法関係の記述はあったが、やっぱり自分で体験してみたいのである。
『エンドフルト』 『エンドフルト』
『ファーメル』 『ファーメル』
『ウァレット』 『ウァレット』
『ルンゴッド』 『ルンゴッド』
『ブレストラ』 『ブレストラ』
ここまで何も起こらない。
「あ、あれー、なんでにゃ?」
困惑するニア。険しい顔の剣聖と大魔導師。
賢人達3人だけがポカンとしていた。
『ラモーン』『ラモーン』
そして次の瞬間、賢人の頭上に一瞬だけ白い魔法陣が出現して消えた。
「おおっ!? なんか出た!」
興奮する賢人に対し、ニアの表情は死んでいた。
「……無属性ですにゃ。無属性は生き物なら誰でも使える属性で、魔法とはカウントされないですにゃ。
普通の人間は別の属性が他に1つあるはずにゃ」
「なん……だと……」
思わず膝をつきかける賢人。
「無属性って何が使えるんでしたっけ?」
記憶にある無属性の魔法を思い出しながらも聞いた賢人に対する答えは、
「一定時間ちょっとだけ身体能力が上がるとか、風邪の症状が緩和されるとか、小石が当たるのを結界を張って防ぐとか……詠唱が終わる前に当たっちゃいますけど……本当にその、気を落とさないで欲しいにゃ」
想像以上にショボかった。
(……ん? そんなに無属性ってショボかったか? 小説に無属性が出てた時、割と強かった覚えがあったが)
何となくその説明に違和感を覚えた賢人だったが、それはとりあえず保留することにした。
「それじゃ、次はアリサ様の戦闘試験ですにゃ。準備が出来たらお願いしますにゃ」
亜里沙は頷いて賢人の頭から降ろしてもらうと、ニアから大きめのナイフを受け取って鍛錬場の中央にちょこんと立った。
その瞬間、結界が現れ小動物が出現する。
それは大きなモフモフの兎だった。
「何この子、かわいいー! 」
兎とほとんど大きさの変わらない亜里沙は、兎に抱きつくと頰をスリスリし始めた。兎も大人しく抱きつかれたままである。
「あれはランク1のビッグラビットにゃ! 魔物なのに大人しくてペットとして大人気にゃ」
ドヤ顔で解説を始めたニアに賢人は呆れた声で言う。
「いや、あれを殺さないと失格なんですが……」
ニアはその言葉にまたも顔面を蒼白にさせた。
「そ、そうだったにゃ……」
しかし2人の心配は杞憂に終わった。
「でもごめんね、殺さないと失格になっちゃうの。賢人にこれ以上迷惑かける訳にはいかないでしょ? 」
亜里沙はそう言うとビッグラビットの右眼にナイフを刺す。
「えへへ、賢人の真似ー!」
兎の返り血で身体中血塗れで笑う姿は軽くホラーだった。
「……もうこの人達の受付担当やめたくなってきたにゃ」
ニアは悟った顔で呟く。
「はい、合格ですにゃ。次は魔法適性を調べますにゃ。さっきみたいに復唱お願いしますにゃ」
どこか投げやりになったニアによる検査の結果、亜里沙の適性は『ウァレット』、つまり水魔法だった。もちろん無属性も使える。
「それじゃあ次はユーカ様の戦闘試験をしますにゃ」
続いて優香の戦闘試験を行おうとしたニアだったが、優香の反応が鈍いことに気がつく。
「ユーカ様? どうかされましたにゃ?」
青い顔で無理矢理笑顔を作った優香は賢人達に頭を下げる。
「ご、ごめん。やっぱり私、魔物と戦うのが怖くて……うぅ……こんなところで躓いてる場合じゃないのに……」
賢人は軽く返答した。
「あぁ、正直優香にはキツいかと思ってたから大丈夫だ。気にするな。
他の分野で役立ってもらえればいいよ、俺と優香は一心同体だろ?」
亜里沙もその意見に同意した。
「うん、私もそう思う。古海さんは優しいもんね。魔物とかを殺す必要があった時は私達が倒すから安心して」
「本当にごめん。ありがとう2人とも」
優香は申し訳なさそうな顔で2人に感謝の言葉を伝えた。
「え、えぇ……じゃあユーカ様の冒険者資格は残念だけど無くなってしまったにゃ……ぴぇっ、そ、そ、そんなに睨まれても駄目なものは駄目にゃー!」
優香の冒険者資格が無くなったと宣告するニアに対して睨みつけてみた賢人だが、流石に見逃してはくれないらしい。
「末端のマニュアル獣人に頼んでも無駄か。仕方ない、何とか対策を考えよう」
その後とりあえず魔法適性だけは見てもらえることになったので2人と同じように優香の検査をした結果、『ブレストラ』つまり風の適性があることが分かった。
「これで冒険者の認定試験は全て終了にゃ。皆さんお疲れ様でしたにゃ。
えーっと、普通はこの後受付で冒険者ギルド証を渡すはずにゃんですけど、皆さんはギルド長のところに行って下さいにゃ」
ニアはもう幼女とエルフ、そして使徒達の相手をしなくて済むことの安心感からか、今日1番の笑顔を浮かべていた。
一行はそのまま冒険者ギルドの2階、ギルド長のいる部屋へと向かったのだった。




