第27話 支配者きどりの迷宮舞踊
SIDEニア
殺されるっ、今度こそあの悪魔に殺されるにゃ!
思い返せば今日は朝から不運だったにゃ。
朝ご飯を食べようと思ったら食べ物が何も残ってないし、あ、それは昨日の夜全部食べちゃったからだったにゃ。
いつも通り出勤したと思ったら、いきなりギルド長に呼び出されて色々な指示を受けるし。
大体なんにゃんにゃ? 右眼が黒で左眼が赤の少年が来たらお前が担当しろって。しかも登録試験ではデスファイアーウルフを召喚して木剣を渡せって。
ギルドはその少年に何か恨みでもあるのかにゃ?
結局3人来た彼らは使徒だったし。
しぶしぶ従ったけど、おかげでニアが殺されちゃったにゃ!
大体あいつ怖すぎにゃ! なんで笑顔で殺しに来るのにゃ! ニアだって仕事だから仕方なく従っただけにゃ! せっかく頑張って冒険者ギルド規則も暗記したのにぃ。
「あのー、ニアさん?」
なんか呼ばれたにゃ、誰にゃ? あぁ、あの子は確かユーカにゃ。
……えっ?
「ギャー!? なんでここまで付いて来てるのにゃ!? もう殺されたくないにゃ! ニアはもう殺されたくないにゃごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
ニアは多分人生で初めて全力疾走したにゃ。
なんとかギルドの受付まで逃げ切ると、副ギルド長のミカさんをちょうど見つけたのでニアは助けを求めたにゃ。
「ミカざん! だしゅげでぐだぢゃいにゃ〜! 殺されるにゃ! ニアは殺されるにゃ〜! 」
ミカさんはそんな私を優しく抱き留めてくれたにゃ。
「まぁ、一体どうしたんです、そんなに泣き喚いて」
ニアがケントくそやろーの悪行について話していると、ようやくユーカが追いついて来たけど、もう遅いにゃ。もうミカさんにバラしてやったもんねー!
「はい、それは貴方が悪いですね」
「にゃ!?」
「よく考えてみなさい、ギルド長の命令とは言え先にケント様を殺そうとしたのは貴方ではないですか?
ケント様はその仕返しをしたに過ぎません。まあ本当はそれもダメなんですが……
今回のはギルド側の落ち度なので強くは言えませんね」
「で、でもニアはギルド長に仕方なく従っただけにゃ! だから……」
「では貴方は誰かに命令されたら簡単に人を殺すと? 」
「それは! その……本当にゃ。ニアが馬鹿だったにゃ。上の人間には逆らっちゃいけないって思い込んでたにゃ」
ミカさんはニアの頭を優しく撫でてくれたにゃ。へへへ。
「その、ニアさん。賢人くんももう怒ってないみたいなので、そろそろ戻りませんか? 私達の試験が残ってますし」
ユーカがそう言う。確かにケントくそやろーはあんまり怒ってなさそうだったにゃ。試験も残ってるし戻るにゃ。
「そうだったにゃ、ちゃんとケント様に謝って、許してもらいに行くにゃ」
ま、よく考えたら使徒の観察にもなるし危険に見合った見返りはあるはずにゃ!
ニアはこうしてユーカと一緒に鍛錬場へと戻ったにゃ。
後ろでミカさんが「尻拭いが大変だ」って言ってたけどなんだったのにゃ? はっ!? まさかミカさんのお尻にデキモノが……?
SIDEミカ
はぁ、バカ共のお守りも大変ですね。
まさか早速マスターからの罰を遂行する羽目になるとは……簡単な仕事だと思いましたが、私の思い違いだったみたいですね。
それにしてもギルド長は何を考えてるんでしょう?
マスターが伝えたのは彼らを最大限にもてなし、剣聖と大魔導師に彼らの試験を見学させ、例のサプライズを用意せよという内容だったはずですが。
マスターへの反逆というなら殺しましょうか。
私はそう思いつつギルド長室のドアを破壊しました。
「……お前は静かに入ってこれんのか?」
書類仕事をしていたギルド長が呆れた声でそう言いますが無視です。
「27代目冒険者ギルド長、ロスト・エミューン。質問に答えよ。何故マスターの要請を無視した」
この男もまぁ強い方ではありますが、私の敵ではありません。場合によっては処刑するつもりで私はそう言いました。
「質問に答えよう。私は彼の要請を無視していない。
強い魔物を与え、ケント様の糧とした。強い魔物、ランク8の魔物を用意するのは骨が折れたんだがね。
これが冒険者ギルドなりの最大限のもてなしだ。
それに剣聖とエルフの大魔導師にケント様の異能を見せる機会はあれくらいせねば得られなかっただろう。
例のサプライズも当然用意している。
あと君は今、副ギルド長だ。つまり私の部下だ。規律くらい守ったらどうかね」
彼は詭弁を弄するばかりか無表情でこちらを責め立ててきました。とは言え、間違ってはいませんね。
「はぁ、確かに今回の件についてはこちらの横暴も過ぎました。
ケント様を殺しかけ、ニアの死亡を招いた今回の件については不問にしましょう」
私がそう言うとギルド長はニヤリと笑いました。
「大体、剣聖や大魔導師を呼び寄せて試験を見学させたりあんなものを即日用意しろなどと言っておいてこっちはどれだけ苦労したと思ってるんだ。
こちらの鬱憤晴らしにも付き合ってくれ給え。冒険者ギルドは君達の奴隷では無いのだ」
こ、このやろう、それが本音ですか。
「それに、ニアについては伝統儀礼の様なものだろう。
新人の受付嬢に死の危険を植え付けるのは必要なことだ。
新人受付嬢というものは概して危機感が足りんからな。
ま、今回は殺されてしまったからな、手厚くフォローはしよう」
「我々は現在の冒険者ギルドの運営方針については不満を持っていませんのでご心配なく。
ただしユートピアの住人を殺害することをマスターは極端に嫌ってます。以降お気をつけ下さい、ギルド長」
私はそう言うと受付業務に戻りました。




