第25話 世界最高の組織
武器を手に入れた賢人達が次に向かったのは、街の中心部に鎮座している巨大な建物、そう、冒険者ギルドである。
剣と盾がせめぎ合いをしているような図柄の大きな看板が入り口に掲げられており、賢人達が古風な扉(古風なのは外見だけで実際は内開きの自動ドアだった)を抜けると、そこに現れた光景は衝撃的なものだった。
一言で言えば、RPG風の現代的施設。
一階にあるのは各種受付、依頼掲示版、酒場。二階にあるのは複数の個室? の様に見受けられる。
それだけならただのテンプレ冒険者ギルドであるが、各種受付の上部には呼び出し番号を示す電子掲示版が掲げられ、依頼掲示版はタッチパネル式。
そして酒場にはジュースやアルコール飲料のドリンクバーがあった。
ゴツい装備の冒険者らしき人達が整理券を手に持って佇み、また依頼票をポチポチしているのはシュールな光景である。
「うーん、なんか違うな。冒険者ギルドのくせに上品さが滲み出てる」
賢人が思わずそう口にすると、近くで依頼票を眺めていた中年小太りの冒険者が話しかけてきた。
「よう、兄ちゃん、ここの冒険者ギルドは初めてか? こんな若いのによくユートピアに来れたなぁ」
「あっ、いえ、俺達は冒険者じゃなくて……」
「ん? ってこたぁ、まさか使徒様!? 確かに2人とも黒髪だなぁ」
(しかも男の方は右眼が黒、左眼が赤か……こいつで間違いない)
男がそう言うと、他の冒険者達も一斉に賢人達の方を振り向き、観察し始めた。
「アレが噂の使徒様か? 見た目はまぁ、ひ弱なガキって感じだな」
「しっ、きっと俺達にゃ分からないスゲー力があるんだってこった」
「だな、バカな事言ってねーでさっさと依頼受けて行くぞ。場所は王国の南東だな」
しかしすぐに興味を失い、自分達の業務に戻った。
「おぉ、思ったより絡まれないぞ!? なんでだ?」
疑問の声を挙げる賢人に答えたのはさっきの中年冒険者だった。
「そりゃあ、ここにいる冒険者は皆ベテランだからなぁ。
それに使徒様ってのが一体どれだけすげぇのかは分からんが、実際にその力を見たわけでもねぇ。
普通の、少なくともユートピアにいる冒険者はあんたらのことを誰も特別扱いはしないと思うぜ。
ダフニー様に言われたから極力仲良くはするだろうがなぁ。
あぁ、オレは♦︎10冒険者、イリノードって言うんだ、よろしくな、使徒の兄ちゃん達」
「は、はぁ。ダ、ダイヤ? ですか?」
「詳しいことは受付で聞きなぁ。そんじゃ、オレはそろそろ行くわ」
イリノードはひらひらと手を振って冒険者ギルドを出ようとしたが、突然立ち止まり何を思ったか賢人の胸元のポケットに手を当て、耳元に近づいて小声で呟いた。
「これからよろしくな、お仲間さん」
イリノードが出て行った後もしばらく賢人は固まっていた。
「賢人、今あの人仲間って」
「しっ、今は何も言うな。とりあえず受付に行こう」
賢人達が受付横の整理券を取ってしばらく待っていると、1番奥の受付カウンターに呼び出された。
「冒険者ギルド、ユートピア本部にようこそ! ワタシはニアにゃ! よろしくにゃ! 今日のご予定は何ですかにゃ?」
どうやら担当の受付嬢は、語尾とネコミミからして猫の獣人のようだった。
「へー、やっぱりいるのか、獣人。うん、非常に興味深い。遺伝子配列とかどうなってイダダダダ!」
初めて見る獣人の姿に興味津々な賢人は、無意識のうちにニアの顔、具体的にはネコミミに急接近していた。
ニアが顔を真っ赤にしているのを見て、亜里沙が賢人の髪を引っ張ったのだった。
「ふにゃぁ、変な人族の担当に当たってしまったにゃあ」
ここでようやく賢人は事態を把握した。
「すいません、ついうっかり。獣人を見たのは初めてでして。あ、今日は冒険者登録に来ました」
ついうっかりで片付けられたニアは憮然としたが、冒険者登録という単語に困惑の表情を浮かべた。
ここに来る冒険者は既に冒険者登録どころか、冒険者ランクが最高峰の者ばかりだったからだろう。
「にゃ? あー、使徒様ならそっか、ここで登録になりますにゃ。
でも登録の前に、冒険者ギルド規則の確認と登録試験を受けてもらう必要がありますにゃ。使徒様なら楽勝だと思いますけど」
「へー、意外にちゃんとしてるんだな」
「当たり前ですにゃ。それじゃ、冒険者ギルド規則から。
①冒険者になる資格は冒険者ギルドの定める試験に合格した者であること
②資格を持ち、冒険者登録を望む者は以下の個人情報を常に冒険者ギルドに提供する義務を負う。
名前
性別
得意な役割
ランク
犯罪度数 (ユートピアのみ)
③ランクはマークと数字によって分別される。♠︎は討伐、♣︎は採集、❤︎は護衛、♦︎はその他であり、2が初心者、10が最上級、J、Q、K、Aはそのランクの中でのトップ4である。
討伐依頼等に表示されている魔物のランクは同じ♠︎ランクの冒険者5名、或いは1つ上のランクを持つ冒険者1人と大体同じ強さを持っているという目安である。
冒険者はマーク毎にそれぞれ4つのランクを得るが、一般に冒険者のランクを呼称するとき、1番評価の高いマークと数字を用いる。
④犯罪度数は冒険者が犯罪を犯す度に自動で記録される仕組みであり、一定数の犯罪度数を超えると冒険者資格、ユートピア国籍は剥奪される。
⑤ギルドカードに記載されるのは名前、性別、ランク(4つ)のみである。
⑥ギルドカードをもつ冒険者はバレンティア都市国家群、ウィズ迷宮地上部、ボヘミン王国の国境の自由通行権及び諸都市の自由通行権を持つ。
⑦ウィズ迷宮の地下へ進むにはランクが♠︎3以上でなければなければならない
まぁ、ざっとこんな感じですにゃ。何か質問があれば受け付けますにゃ」
「ふーん、それじゃあまず、犯罪の定義とは?」
「冒険者がいる地点での法に準拠しているにゃ。だから場所によって罪の軽重は変わるにゃ。
ちなみにユートピアの冒険者は他国では市民階級扱いにゃ」
「じゃあ次に、その他の仕事ってなんです?」
「♦︎のことにゃ? 簡単に言うと雑用任務にゃ。おつかいとか修理とかそんな感じにゃ」
「それじゃ最後に。ウィズ迷宮とはなんですか?」
「ウィズ迷宮を知らないにゃ!? ここら辺一帯は全てウィズ迷宮にゃ。空も地上も地下も。ユートピアもその一部に過ぎないにゃ」
「あぁ、やっぱりここのことか。ニアさん、説明ありがとうございました」
ニアは笑った。
「これが仕事ですにゃ。あとニアでいいにゃ。じゃあ早速登録試験をするので、裏の鍛錬場に行くにゃ」
こうして賢人達3人とニアは鍛錬場に向かうことになった。




