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第24話 世界最高のアイテムチート

 


 賢人達が紅茶を楽しみつつイチャイチャしていると、いくつかの武器を豪華な台車に載せて運び入れてきた少年と共にトリエスが戻ってきた。彼の手元には3枚の紙が握られている。



「お待たせ致しました、ケント様、アリサ様、ユーカ様。こちらの2枚が契約用のスクロールとなっております。内容をご確認の上、代表者の魔力をお流しください」



 これに賢人達は戸惑った。



「魔力? すみませんトリエスさん、俺達まだ魔力の使い方が分からなくて……」



「あぁっ、これは大変失礼致しました。えー、そうですね、それではこの専用のペンを使ってサインをお願いします。


そして、数日以内に商会の本部でサイン登録していただければ大丈夫です。


本来は手順が逆なのですが、使徒様は身分が確かなお方ですから問題ありません。


魔力の使い方に関しましては冒険者ギルドの方で教えてもらった方が良いでしょうな」



「そうですか、ありがとうございます」



 こうして賢人は契約のスクロールを確認し、サインをした。



「はい、それでは早速、武器の方をお見せして」



「いや、ちょっと待ってください。自分の()で確認してもいいですかね? 」



「はぁ、勿論構いませんが」



 実はローレインに紹介された『晴龍剣』を見た時、賢人は【異能鑑定】で感じ取ったのだ、剣から発せられる謎のエネルギーを。



 賢人の直感はそれが武器の強さと関係していると告げていた。



「そうだな、ではこれとこれとこれをお願いします」



 トリエスは思わず目を見開いた。選ばれた3つの武器は、商会の持つ最高の武器の数々の中でも格が違うモノだったからである。



「しかしそれは……いえ、かしこまりました。ケント様は既に心に決めてしまったご様子ですが、一応商品の説明をさせていただきます。


1つ目、その真っ黒な刀は名前を『名モ無キ漆黒ノ刀』と申します。


製作者、製作時期共に一切不明。我々に分かっていることはその武器が絶対に壊れず、伸縮自在で重量自在、そして恐ろしく斬れるということだけでございます。


我々の知る魔法的な加工は一切見受けられず、超越武具だと思われます」



「超越武具? って何です?」



「超越武具とは、現代の科学、魔法技術では全く解明出来ていない武具のことで、現在知られている超越武具は公式には世界に5つしかありません。その内の1つがこちらです」



 賢人達は驚愕の表情を見せた。



「い、いいんですか、これ多分商会の宝物とかそんな奴ですよね!?」



「ええ、契約に嘘は付けませんので」



 商会の持つ最高の武器を貸す、その言葉の重さを賢人はようやく認識した。



「それでは2つ目、この杖はその名も『最高奉天』。


貴方がたがご存知かどうかは知りませんが、通常の場合、魔法の発動には詠唱と術者の莫大な負担を伴います。


杖とは、杖に取り付ける魔石の魔力と引き換えにほんの少し詠唱を省略して術者の負担を減らすことが出来る武器です。


そしてこの『最高奉天』、魔石が要りません。詠唱が要りません。更に術者の負担を全て無くしてくれます。


構造が一欠片も解らない、正真正銘の超越武具です」



 賢人達は絶句した。これがチートと言う奴か、と。



「そして3つ目、このナイフは名を『次元崩刀』と言います。このナイフ、全く斬れません」



「えっ? そんな大層な名前なのに!?」



「その代わり、このナイフに触れたモノを一瞬で亜空間に出し入れ出来ます。


亜空間の中では時間が止まり、容量はほとんど無制限に等しいと思われます。


つい先ほどまでこの商会の要として活躍しておりました」



「ちょっとごめぇぇぇん!?!? 何かとんでもないことが聞こえたんですけどぉぉお!?!? 」



「これ、アレよね、アイテムボックス」



「亜里沙ちゃん……なんか知らない間にウーバ商会にとんでもない損害を与えちゃった気がするんだけど」



「ほっほっほ、構いませんよ、カイ坊の命に比べたら一日の損害額など些末なものです」



 これに反応したのはもちろん、当事者のカイである。



「トリエスさま!? ボクの命ってどういうことです!?」



「これカイ坊、今はお客様と取引中だ。静かにしていなさい」



「しかしトリエスさま!」



 いつもはトリエスの言うことを真面目に守るカイだが、今回ばかりはそうもいかない。そこに、



「へぇ、お前がカイ……か。これからよろしくな」



 賢人は目が笑っていない笑顔でカイに挨拶した。



「ヒッ、な、な、なんですか貴方は!?」



「精々背中に気をつけることだな、ウヒャヒャヒャいてっ!」



 賢人がカイに悪ふざけをしていると、頭の上に載っていた亜里沙がポコッと頭を叩いた。



「もう、怖がらせないの。ゴメンね、カイくん。私はアリサ。トリエスさんの頼みで、これからしばらく貴方を預かることになったの。貴方は私達と一緒に旅に出ることになるわ」



 これに対してカイは驚き、絶望の表情を浮かべた。



「えっ、どうしてですか!? トリエスさま、ボクのことがお嫌いになってしまったのですか!?」



 この発言に激しく動揺したのはトリエスだった。彼とてカイを手放したくはなかったのだ。



「そ、そんな訳無いじゃろう! 私はお前を愛しておる! ただ、お前は外の世界を知らんじゃろう? それは将来に良くないのじゃ。私だって辛い。お前も辛いかも知れんが、どうか分かってくれ」



 トリエスは今にも泣きそうな顔でカイを抱きしめる。



「嫌! 嫌です、トリエスさま! ボクはずっとここで皆と暮らすって、そう決めて生きてきたんです! うええぇん」



 泣きじゃくってトリエスの元から離れるカイを賢人は冷めた目で見ていた。



よくもここまで甘やかされて育ったものだ、と。



「はぁ、いつまでも甘ったれるなよ、クソガキ。お前は残念ながら一般人じゃねぇ。お前の人生はお前だけの人生じゃねえんだ。身分相応の責任ってもんがあるんだよ」



「う゛る゛さ゛い゛!だいたい、ボクはこんな身分なんて望んじゃ無かった! ボクはただ、皆と一緒に……うええぇ」



 賢人は呆れた表情で空を仰いだ。



「ガキが……だから嫌だったんだよ、論理的な対話が通じない。はぁ、おいクソガキ、お前このじいさんのことが好きか?」



 唐突な質問に、カイは思わず泣き止む。



「えっ? うぅ、ぐすっ……うん、大好き」



「そうか、そのじいさんがな、俺達に頭を下げて頼んだんだ。お前を外の世界に連れて行ってくれ、守ってくれってな。お前はその思いを無駄にする気か?」



「えっ、トリエス、さまが? うぅ、うううう……ごめん……なさい」



 カイはしばらくの間呻いていたが、最終的には賢人に謝った。



「お前は何に対して謝っている? じいさんの思いを無駄にしたことに対してか?」



「ワガママを゛!! 言っで!! ごべんなざい!! ……だからボクを外に……連れて行ってください!!」



 賢人はカイの近くに寄って、頭を優しく撫でた。



「そうだ、今はそれでいい。無茶苦茶でも、理不尽でも、納得しなきゃやってられないからな。いずれ分かる時が来る」



 カイはトリエスに泣きながら抱きついた。



「ごめんなさい、トリエスさま、ごめんなさい。トリエスさまはボクのことを大事に思ってくれてるのに、ヒドいことを言って」



「いいんじゃ、元気でやるんだぞ、カイ坊。寂しくなったらすぐに戻っておいで」



 トリエスは優しくカイを抱きしめた。



 一方、賢人はグッタリとソファに腰掛けていた。



「前途多難だな、こりゃ」







 それからしばらくして、ようやく事態が落ち着くと、トリエスが賢人達に頭を下げた。



「改めて、謝罪と感謝を申し上げます。うちの従業員、カイが大変失礼致しました。


そして彼への説得、ありがとうございます。


さて、それではこれで全て終了とさせていただきますが、ささやかながら皆様にはこちらの書状をご用意致しました」



 そう言ってトリエスは最後の紙を賢人に渡した。



 かなり高価そうな羊皮紙には細かな宝石などの装飾が施され、そこにはこう書かれていた。




『特別待遇状:最高ランク』

 彼の者、ウーバ商会にとって筆舌に尽くし難き大恩人にして、最高のもてなしを成すべき天上人である。この書状は、これを持つ御方に対して商会の持つ力を全て使ってもてなすことを命じるものである。

 ウーバ商会会長 ギルファセッツ・ウーバ

 ウーバ商会副会長 トリエス・ウーバ




「いや、これはいくらなんでも持ち上げすぎじゃないですかねぇ?」



 賢人は苦笑いで副会長、トリエスを見た。



「いえいえ、そのようなことはございませんとも。それではケント様、3つの武器は明日中にご返却ください。


そしてユートピアをご出立なされる際、カイをどうかお願い致します」



 あまりに過剰な待遇に訝しみながらも賢人達はトリエスとカイに別れを告げ、ようやく武器屋を出ることが出来たのだった。



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