第19話 眠れぬ夜の過ごし方
はぁ、今日は疲れた。そういや、なかなかに興味深い異能だったな、【転移結界】というのは。
あれの削れ方、俺らが異世界召喚された時の教室の削れ方にそっくりだった。
興味深いと言えば記憶操作も、だな。ダフニーの異能【記憶操作】を考えれば分かる通り、神と思しきナニカは何らかの条件に基づいて人の記憶を操れると見て間違いなさそうだ。
さて、
話は全く変わるが、暇なことだしここで思考の整理をしよう。
我々3-Aはある日突然、神と思しきナニカ、ここでは仮に仮神としよう、仮神によって異世界の月に召喚された。
そこでは管理者を名乗る仮天使と愉快な仲間達が待っていて、ハルス・ビンドウィードの異能【箱庭創造】によって我々は仮想空間に飛ばされたわけだ。
あ、ちなみに【箱庭創造】の権能は極めてシンプル、。『自分の思い通りの部屋を作れる』、制約は『部屋の中に誰かを入れる時には出来るだけ詳しく正確な座標設定が必要。複数人を同じ部屋に入れる場合、彼等が元々同じ部屋の中にいる必要がある。また、部屋の持つ効果に応じて寿命が減る』だったかな。
その仮想空間の中では沢山のクラスメイトが死亡、生き残ったのは半分以下。
無能力者など微塵も興味無いからこの際無視しよう。
以下にダフニーから聞き出した情報を元に得た結果を記す。
ダフニー・御堂、異能は恐らく【分身掌握】に【記憶操作】。
【分身掌握】の権能は『分身を作り、操れる】、制約は『分身は一体しか作れない。分身の修理度合いに応じて寿命が減る』。こいつ自身が何者かの分身だと思われる。
【記憶操作】については俺が【異能鑑定】を取得してから未だ使われておらず、小説にも無かった異能であるため詳細は不明。
火野孝之、異能は【身体強化】。
【身体強化】も【箱庭創造】と同じく、権能がシンプル、だからこそ最強クラスの強さを誇る。『細胞レベルで大幅にあらゆる部分の強化』、制約は『使用量に応じて寿命が減る』。本気を出せば星ごと滅ぼすことも可能である。
香坂慎平、異能は【真偽判定】に【念動力系】。
【真偽判定】の権能は『会話の内容の真偽が分かる』、制約は『嘘がつけなくなる。未来が確定していない現象については客観的な真偽を判定する』。
【念動力系】の権能は『物体を触れずに動かせる』、制約は『固体を手で触れると火傷する』、まああの時は火傷っていうか手が炭化してたけどな。
土居このみ、異能は【究極魔導】
権能は『全属性の全魔法が使えるようになり、覚醒すると100分間だけ魔力量が本来の100倍になる』、制約は『覚醒が終わると1週間魔法が使えなくなる』だな。
貝原伸介、異能は【能力無効】
権能は『自分に向けられた魔法や異能の効果を打ち消す事が出来る』、制約は『全体に向けられた能力は無効化出来ない』
夏川千聖、異能は【睡眠憑依】
権能は『視界にいる意識の無いモノに憑依することができる』、制約は『相手が覚醒すると憑依が解ける』。
星谷歩美、異能は【重力操作】
ま、これは一回説明したから良いか。
古海優香、異能は【異能具現】
権能は『他者の異能を任意に具現化することができる』、制約は『能力行使の際、対象の能力者に触れる必要がある。籠める力に比例して体積が大きくなる。発動する異能は指向性が制限される』。
そう、この異能は単体だと何もできないものの、様々な他の異能と組み合わせることができれば、実質的に全ての異能を操ることが出来る最強の異能になるという訳だ。
欲しいでしょ? この手札は。トランプカードにおけるジョーカーみたいなもんだし。
しかもこの異能、汎用性も滅茶滅茶高い。何せ異能を任意に具現化できるのだ。これを使えば、実質なんでも造れるのだよ、ふふふふふふ。
そしてお待ちかね、俺の異能は【時間操作】と【異能鑑定】。
まず【時間操作】。こいつは正真正銘のぶっ壊れチートなんだが、燃費が悪すぎる。ハルスが寿命を肩代わりしてくれなくなった今、これを使うとすぐに死ぬ。
ところがこの異能、他の異能には無いとある文言が制約に含まれている。
権能は『時間を操作することができる』、制約は『操る時間の大きさに比例して、そして距離の2乗に比例して寿命を消費する。時間経過に伴うエネルギーの増減に応じて寿命が増減する。生命エネルギーを伴う連続体の時間を分けることが出来ない』、そう、増減だ。上手く使えばこれ、寿命が伸びるのである。
ここで、この世界、この異能の為だけに用意された『生命エネルギー』なる概念について説明しておく。
この世に存在するあらゆる生物はエネルギーを消費しながら生命活動を行なっており、それは通常の場合、食事や光合成によって体内に蓄えられている。
普通、生物が死んでもそれらのエネルギーは一定期間蓄えられたままであるが、『特定の条件』、つまり異能【時間操作】を用いて生物を殺した場合にのみ、生命の持つ潜在的エネルギーがほとんど全て一瞬で失われるのだ。
簡単に言えば、【時間操作】を用いて生物を殺すと、生物は一瞬で灰になるのである。
しかしながらこの概念、例の小説では知名度が致命的に低かった。【時間操作】だけの特殊概念だから当たり前である。
しかしダフニーは当然のように生命エネルギーについて言及した。このことから『ウォーターグラウンド』では生命エネルギーの概念が変化していることが分かる。
ゾンビが大帝国兵の死体に生命エネルギーを無理矢理注ぎ込んだものだと言ってたな。
つまりこの世界で生命エネルギーとは生命活動を行わせるに足るエネルギー全般を指しているのではないだろうか。
話を戻そう。つまり俺が寿命を延ばし、【時間操作】を使っても死なないようにする条件は
『出来るだけ沢山の生物、或いは多大な生命エネルギーを保持した生物を、近距離で出来るだけ短時間で【時間操作】を用いて殺害』
致命傷を与えた後に【時間操作】を使えば一瞬で殺せるな。
また、自分及び自分の触れたもののみに【時間操作】を使えば発動距離がほぼゼロだから燃費も良い。
これらを鑑みれば、
自分及びその周囲に【時間操作】発動→敵生命体の至近距離まで近づき致命傷を与える(ここで、即死させないように気をつける)→【時間操作】を敵生命体のみに用いて殺害
これが最適解か。め、めんどくせぇ。
……俺は何をしてたんだっけ。あ、そうそう、これまでの復習ね。
様々な異能を得た俺達が現実世界に戻ると、ハルスが何故か死んでいた。
死因としては恐らく寿命……いや、違うな。小説では【絶対契約】で寿命が無限にあったはず。となると……
ん? でも待てよ? 確か小説の設定では寿命が無限になるのはウォーターグラウンドの中に居る時だけだったな。
あ、でもどうせ吸血鬼だから死なないのか。
あー、そっかー、【絶対契約】違反か。
開発者の大切な存在を傷つけたことになったのか。
ま、ここは検証の余地ありだな。
ハルスが死んでいることに驚くのも束の間、俺に【異能鑑定】が宿り、しかも小説には無い事態が立て続けに起きる。
俺は生命エネルギーを視ることが出来るようになり、亜里沙が生き返った。
ふ、これぞまさに神の御力ってやつだな。
この部分については分からないことが多すぎるので一旦置いておこう。
その後、仮神? によってアイリスのほぼ全ての記憶、ダフニーの記憶の極一部が消滅。
これについても現時点では詳細不明。
そしてグダグダと考え事をしている今現在、俺達は……
「あ、おっはよー賢人! もう朝だよー」
「……やっぱり俺達、睡眠欲が無くなってるな」
「……うん、そだね」
ユートピアにいる。