閑話〜異世界召喚後の地球〜
実在する名称が登場しますが、実在するものとは全く関係ございません。
その日、日本中が、そして世界中が“とある大事件”に熱狂した。
それもそのはず、一瞬にして東京にある高校の1クラスが消滅したからである。
この事件は速報として全国に報道されたものの、その後全てのテレビ番組、新聞、ラジオ、インターネット記事が不自然なほど沈黙し続けた事からインターネットの掲示板では国家的規模での陰謀説が実しやかに囁かれた。
そして神隠し事件の起きたクラスの近くにいたという人が証拠として綺麗に削り取られた教室と共に消えた41人に関する情報をSNS上に投稿すると、その投稿は大炎上を起こした。
日本各地では真実を隠そうとする政府に対するデモが連日行われ、それは全世界に飛び火、連日連夜世界中のニュース番組はこの事件を取り上げ続けた。
大勢の民衆、そして科学者たちから事件発生後より沈黙を続ける世界各国の政府機関、調査機関、研究機関等に対する問い合わせが殺到した結果、事件発生から数日後に国際連合が世界同時中継という形で1つの発表を行った。
異世界を発見したと。
消滅した人達は異世界に転移したと言うのだ。
このたった1つのニュースは瞬く間に全世界を巡り、そして多大なる衝撃を人類に与えた。
それからの1ヶ月は後の歴史家に『地球型人類史上初の集団狂騒期』と呼ばれることとなる。
なにしろ、異世界との接触が人類にとってどのような事態を招くのか全くわからないのだ。
そもそも大きさはどれほどなのか? 物理法則はこの世界と同じなのか? 地球外生命体は存在するのか? 異世界との接触がこの世界に悪影響を及ぼしたりしないか? 等々。
なぜこれほどまでに異世界への関心度が高かったのか、それは何光年も離れた宇宙へ繰り出すよりも近くの別位相にある異世界へ進出した方が現実的であるからである。
世界各国は近々訪れるかもしれない人類の危機への対策に紛糾し、民衆の間にも広まった混乱から世界全体のあらゆる経済指数は一時的に低下した。
それに対して世界各国の軍事指数、軍事関連株、異世界研究関連株は青天井に上がり続け、異世界に対する論文が発表される度に全国ニュースが流れた。
そして『クラス転移事件』と名付けられた事件から半年後、複数の研究機関から合同で発表があった。
異世界への扉が東京のとある公園の周辺地域のみに存在することが判明したのだ。
この発表から、東京周辺の環境は激変した。
公園の周りは封鎖され、各国の研究機関が周辺に乱立。
それに伴い東京は劇的な経済発展を遂げ、あらゆる経済指標で世界1位に君臨し、瞬く間に世界の中心となったのである。
そして『クラス転移事件』から3年後、世界各国は後世の歴史家から『有史以来初めて戦争を辞めた』とまで言われた。
彼らが人類の総力を挙げて科学技術を劇的に発展させながら異世界について調べ続けた結果、以下の事実が確認される。
曰く、その異世界は我々の世界に酷似している。
曰く、その異世界の物理法則は我々の世界の法則に等しい。
曰く、その異世界には知的生命体が存在する。
曰く、その異世界の知的生命体の一部は我々と容姿が酷似している。
曰く、その異世界の知的生命体の一部は物理法則を捻じ曲げることができる。
曰く、その異世界の知的生命体の一部の知能指数は我々と同等、或いは我々以上である。
こうして、『地球型人類史上2度目の集団狂騒期』が訪れる。
しかし今度は絶望に彩られた狂騒で……はなかった。
流石に世界各国の首脳陣はこの事実を一部しか公表出来なかったからである。
この選択は当然とも言える。もしこの事実が公にされれば怯えた民衆によって世界一位の都市、東京が1日で廃墟と化す。
だが本当に怖いのは、強大な能力、知力をもった外敵予備軍の存在を世界中の民衆が知ることで当たり前のように世界中の経済、延いては国家組織それ自体が崩壊の危機に晒されることにあった。
こうして世界各国は、一般民衆には異世界の物理法則がこの世界と同じであること、知的生命体が存在しうることだけを公表したのだ。
その騒ぎに紛れて国際連合では『異世界対応理事会』が主要委員会の1つとして発足。異世界に直接繋がりうる日本に加えて、アメリカ合衆国、イギリス、フランス、ドイツ、中国、ロシアの計7カ国が常任理事国、ベルギー、ポーランド、インドネシア、インド、南アフリカ、ナイジェリア、ブラジル、アルゼンチンの計8カ国が初代非常任理事国(任期6年、3年毎に半数ずつ改選、連続での再選は不可)となった。
そして常任、非常任理事国の各国は今後到達しうる異世界に対するあらゆる決定をすることになる。
不測の事態に備えて世界各国は異世界対応軍を常備軍として組織、人類共通の危機であることも手伝って日本周辺の各国には異世界対応軍専用として莫大な数の軍事施設、軍人、武器、弾薬、兵器が用意された。
ーーーこうして人類は、万全の態勢を整えて異世界との接触を試みはじめたのである。