第18話 理想の世界へ至る道
SIDEダフニー
「ふーん、要するに3人が会話してるところで突然アイリスの記憶が幼児レベルまで消えてしまったってこと?」
「ああ、そうなるな」
さらっと言われたその言葉に、思わずボクは呆れた顔で答えた。
「いや、そうなるなじゃないよ! 一体君はどうして厄介ごとばかり起こすのさ。計画が狂いまくりじゃないか」
3人が戻ってきて何故か賢人が2人だけで会いたいって言うから来てみたら……なんだよそれ!?
「それで? きっかけとかは分かんないの?」
え? なんでそんな変な顔するの?
「あー、うん、分かるのは分かるんだが、万が一俺やお前の記憶まで無くなったらアレだしなぁ」
なにそれ、恐い。
「あぁ、そういうこと。うーん、じゃ、いいや」
そう答えたボクに賢人は難しい顔で聞いてきた。
「……1つだけいいか? 神についてどう思う?」
神様?
「神様? 彼は絶対だ。彼が黒と言えば白だって黒になるね。そういう存在なのさ」
「彼、ね。会ったことがあるんだったか。どんな奴だ?」
「そりゃあ……ピーー……記憶を消去……ピーー……再起動……あれ? なんの話をしてたんだっけ?」
意識が一瞬、飛んだ?
「……ふむ。どこまで覚えてる?」
「え? 突然どうしたの? えぇと、君に神様は絶対だって答えたところ?」
賢人は腕を組んで考え込み始めた。
「人によってばらつきがあるのか、それとも何か条件があるのか?」
ばらつき? 条件?
「なんの話をしてるんだい?」
「いや、なんでもない。話はこれで終わりだ」
そう言うと賢人はさっさと部屋に入ってしまった。今のはなんだったんだろ?
はぁ、それにしてもやっちまったなぁ。
アイリスの記憶が消えたってことはえーと、アレと、アレと、アレの計画が白紙になって、えー、アレの調整が……
ま、いっか! なんとかなるだろ!
「ねーねー、アタシは何すればいいのー?
今日はねー、お人形さんとファッションショーするから早く帰りたいんだけどなー」
げっ、ベリスか。こいつはこいつで計画をめちゃくちゃにするから苦手なんだよなぁ。
この際、アイリスと一緒に【眼見洗脳】受けさせるか。
ボクの【記憶操作】は地球でしか使えないから不便極まりない。
神様ももうちょっと便利な異能くれても良かったのに。
ボクの魂の器が容量超過で壊れかけてるのはわかるけども。
「お前はそこの部屋に入って全員を天空迷宮都市、ユートピアに送るんだ。ボクら全員が揃ってからだぞ」
「ぶー、ダフニーえらそー! どうせアタシがいないと転移出来ないんだからねー、もっとうやまえー」
「はいはい、スゴイスゴイ」
「んふー、えっへっへ、仕方ないなー」
ま、こいつは適当に褒めとけば簡単に言うこと聞くからまだマシか?
SIDE香坂慎平
僕等が仮想空間から現実世界に戻ってくると、何故かハルスって言ってた女の子が死んでて、アイリスって女の子が彼女を抱き締めながら泣いてた。
その光景の美しさに思わず呑み込まれかけたけど、水地君の叫び声で我に返った。
彼の身に何があったのか心配してたけど、異能の制約? の1つだったみたいだね。どうして今になって発動したのかは分からないけど。
そして3人が帰ってきたのはいいけど、アイリスさんが記憶を無くしたってなに!?
彼らの身に何が起こったのか知りたいけど、教えてくれなさそうだね。
あれ? あの女の子は誰だろ? この世界の人なのかな?
「えーと、何人送ればいいんだっけー? もー、ダフニー、準備出来たら言ってよー」
「うんうん、ちょっと待ってな。えー、人数が、はいはい、よし、オッケー! あ、死体の山もついでに飛ばして」
「えー!? アタシの寿命がどんどん減っちゃうじゃんかー! 月では寿命減っちゃうんだぞーぶーぶー」
「わかったわかった、今度ちゃんと埋め合わせるからさ、頼むよベリス」
「えー? ホントかなー、仕方ないなー、今回だけだからね。【転移結界】」
その瞬間、僕らのいた空間は部屋ごと切り取られ、虚空へと消えたのだった。
第1章 月世界は死で満ちる 完結