第15話 彼は天子に害されぬ
《異能争奪戦》最終日SIDEダフニー
「ふー、とうとうこの日が来たか」
「そう言えば今日でこのゲームも終わりだったね」
ボクが呟くと委員長がそう答えた。
「はぁー、委員長は気楽で良いね。ボクなんてこれからフルボッコだって言うのに」
「? 僕は事情をよく知らないけど、自業自得ってやつじゃないかなぁ」
今の時刻はお昼前、屋上では火野君と土居さんが異能の練習をしている。賢人達は朝からずっとイチャイチャ喋ってやがる。リア充爆発しろ。
今日、坂本君達が来たら大事な話をするって事を屋上にいる人達には朝伝えてある。
貝原君からの情報によるとそろそろ到着する頃なんだけどなぁ……
「あ……来たみたい」
「はぁぁ、嫌だぁー。来るなー」
いや呼び寄せたのはボクですけども。
坂本君が屋上に到達して賢人を見つけると、いきなり全速力で接近し、手に持ってたリタイアの大剣を突き刺した……否、突き刺そうとした。
古海さんが悲鳴をあげるけど、刺さらないから大丈夫。
お前が賢人に危害を加えたら、ボクが死ぬじゃないか。全くもう。
「おいおい、いきなり殺しに来るなよ。殺すぞ?」
あ、ちょっとヤバい。
「うぇいと! ぷりーずうぇいと! ほーら、2人とも落ち着いて?
殺し合いの続きはボクの話を聞いた後でやってね」
坂本君はスゴい形相で賢人を睨みつけてるけど、武器で賢人を殺せないことが分かったからか、とりあえず落ち着いたみたいだ。
「えーと、とりあえずみんな自由に座って? 色々話すことがあるんだ」
ボクは2人を宥めつつ、この場にいる全員に座るよう伝える。
皆が屋上の地面に座ると、ボクは話し始めた。
「とりあえずやることを終わらせようか。賢人と坂本君はこっち来て」
ボクはそう言いつつヘルプを呼ぶ。
(賢人が1年以上使った眼鏡を下さいな!)
(かしこまりました。すぐにお送りします)
そう、これがここを舞台に選んだ理由の1つ。
もちろん賢人は眼鏡をかけたことなんて一度も無いだろうが、この異能のシステムを使えば、仮想の実物が作れるのだ。
ポイントという名のハルスの寿命と引き換えに。
どうせあいつは【絶対契約】違反で死ぬのだ、湯水の様に使えるぜ。
実在しないはずの『賢人が1年以上使った眼鏡』が送られてくると、ボクはそれを賢人に渡した。
「おい、なんだこれは」
「アハハ、ボクからのささやかなプレゼントさ。それを坂本君に掛けて」
賢人は暫く思い悩んだみたいだけど、何かにハッと気づいてこっちを睨みつけて来た。
「おい、まさか……この為にわざわざ!!? 」
「もういいから早くしてよ。坂本君が困惑してるじゃないか」
ボクは半ば無理矢理に賢人の腕を取って坂本君の顔に眼鏡を掛けさせた。
『異能【異能鑑定】の取得条件を満たしました!
取得条件:自分が1年以上掛けたことのある眼鏡を自分を最も嫌っている相手に掛ける』
「ほーら、これで……あれ?」
「おかしい……左眼に何も感じないぞ」
そう、【異能鑑定】は『異能を詳細に鑑定出来る』という異能だが、『獲得時に左眼に激痛を受ける。また、この異能による鑑定によって新たに分かった結果を他人に伝えることが出来ない』という制約がある為、本来なら既に左眼が激痛に襲われているはずなのだ。
「え? なんで?」
「分からん。本当に1年以上掛けた俺の眼鏡ってことにしたんだよな?」
周りの奴らを置いてけぼりに、しばらく2人でウンウン唸ってたけど分からないものは分からない。ボクはとりあえず放置することにした。
「よ、よし! ちょっと想定外のことが起きたけど気を取り直して次にいってみよう!
うーん、何から言えばいいのか……いや、分かってるよ? 君たちがボクに何を聞きたいのか。
なんで召喚したかとかこの状況の説明とかでしょ? 複雑な事情があるんだってば!
少し長くなるけど話が終わるまで静かに聞いてほしい。実はね……」