第13話 サンドバッグは壊される
《異能争奪戦》4日目
賢人達5人は道中のC5地区に建っていた高層ビルの一室で睡眠をとった。
そして翌日の昼過ぎ頃、一行は特に何事もなくC3地区に到着したのだった。
「よし、後はどこにダフニー達が居るかどうかだが……誰か何か見つけたか?」
「んー、あの学校とか? そこならゾンビ達の侵入もある程度防げるだろうし」
「そうだな、とりあえず行ってみよう」
5人が学校に近づくと、火野が近づいてきた。
「よう。久しぶりだな、火野」
「あぁ、賢人も元気そうで何よりだ。お前らは何しにここへ?」
「コイツらは生贄の為で、俺は委員長とダフニーに会いに来た。
お前ならもう気付いてるだろ? ダフニーが奴等のスパイだって」
「あぁ、まあ……な」
「なんだ? 珍しく歯切れが悪いな」
「うーん、それが妙なことになっちまっててな」
火野が言うには、ダフニーは敵対的とも友好的とも言えない態度をとっているらしい。
「強いて言えば、干渉しまくる審判ってところか? アイツはアイツなりに目的があるみたいだったが。
そんなに聞きたいことがあるんだったら直接会ってみりゃ良いんじゃねぇの?
このゲーム中クラスメイトに直接危害を加える気はないんだとよ。現にアイツに殺されたのは2人だけだったみたいだし。
俺や土居さんなんて異能まで貰っちまったぜ?」
「なんか、思ってたのと違うな。
奴等の真の目的が余計分からなくなった。
俺達を殺したいなら初めに殺せば良かった。
この空間の中で能力者を創り出して保護したいなら、まとめて白い空間にでも転送すれば良かった。
奴等は何がしたかったんだ?」
「それが俺にも分からねぇ。要するにまだ判断材料が足りないってことだな。
まぁ、明日までこのゲームは続くんだ。それまでには何か分かんだろ」
「それもそうだな、ダフニーに危険がないなら会ってみるか。行くぞ、みんな」
「了解!」
「……わかった」
「お、おい友美、俺達の知らない間になんかとんでもない陰謀渦巻いてないか?」
「わ、私たち、この前まで普通の高校生やってたわよね? そんなに難しいこと考える必要ある?」
「それはそうだろう。映画や小説の世界じゃないんだ。
俺達が召喚されたのも、いきなり殺されなかったのも、この仮想空間に連れてこられたのも、無作為に見せかけた作為的な何かに選別されているのも、全てに何かしらの意味があるはずだ。
物事がここまで、非現実的と言っても良い程に激しく推移するという事は、それ程までに大きな何かが絡んでるという証拠だよ。
でもそれを心配するのは生き残ってからでいい。
それより、生贄を殺す覚悟はできたか?」
「そりゃ、昨日から散々言われてんだ……とっくにできてるさ」
「私も……大丈夫よ、多分」
「よし、それじゃあ行こう」
こうして賢人達は学校へ向かった。
《異能争奪戦》4日目SIDEダフニー
「お! おおっ! キタ! やっと来たみたいだよ!」
「はぁ、今度は何だ。また問題事か?」
ボクがはしゃぐと、ややゲンナリした様子の火野君が答えた。
「違うよ! いや、違わないけど。賢人達が来たみたいだ」
「ほ、本当か! 迎えに行ってくる!」
「何でそんなに嬉しそうなんだい、火野君」
「そりゃ決まってんだろ委員長、俺1人じゃこの面子を捌ききれないからだよ!」
火野君、走って行っちゃった。そんなにストレス溜まってたのかな?
「あぁ、話を聞いてくれたら嬉しいんだけどねぇ。賢人が怒ってたら問答無用で消されるかもなぁ。いや、流石にそれは無いか」
「そんなにかい? 僕の個人的な評価としては彼、良い人だと思うけど」
「そりゃ、普通に接してたらアイツの本性に気付くことなんて無いよ。
賢人は冷徹で、しかも頭が良すぎるんだ。彼が他人をむやみに殺さないのには一々合理的な理由があるんだろうし、他人を愛することにすら理由を求める男だ。
決して優しい訳じゃない。細心の注意を払わないと一瞬でこっちの目論見が見破られて回避される。
だから……ここからは命懸けの駆け引きさ。
あ、委員長にはそこまでは求めてないけど、普通の人間をまとめきれるだけの能力は身につけてよ。
君は指導者の器なんだから。文字通りね」
「……僕がかい? それこそ水地君の方が向いてるんじゃないの?」
「アハハハ、冗談キツいぜ。
まぁ、仮に賢人が何処かの国の王になったとしよう。
まぁ、あいつのことだから瞬く間に国の中枢を掌握して富国強兵を実現するね。
そこからある程度国が発展すると更なる資源や技術を求めて貿易、そして侵略。それを繰り返す。
領土が広がって自分の手に負えなくなりそうになる前に完全に自分の支配下に置けるよう手を打つ。
そして最終的には天下統一して世界を支配する。
何の為か?
それは賢人が王の職務、自国民を養い豊かにさせる仕事を忠実にこなすしこなせるからだ。
つまり誰かが賢人に王となることを求め彼が了承したからこうなる」
「良いことばかりじゃないか」
「前提条件が間違ってるのさ。
あいつが他人の為に身を粉にして働くやつだと思うかい?
彼は自分にとっての価値の有無でしか人間を判断できない可哀想な奴なんだよ。
でも君は周りの幸せの為に動ける人間だろ?
ほら、委員長の方がよっぽど指導者に向いてる」
「……よく分からないけど、考えてみるよ」
「うん、それで良い」
よっし、それじゃあどうやって賢人を宥めますかね!
《異能争奪戦》4日目土居 このみ
「ひぇ〜、なんか知らないうちによく分かんないことになっちゃってるし、もうなんなのぉ〜! と、とりあえず2人ともケンカはやめようよぉ〜」
今、私のいる学校の屋上はアニメとかでよく見るバトルのフィールドと化していた。といってもダフニー君がサンドバッグにされてるだけなんだけど。
賢人君が目にも留まらぬ速さでダフニー君を殴り、ダフニー君が吹き飛んだ先に一瞬で移動してまた殴る。
ダフニー君はあり得ない方向に四肢が捻じ曲がり身体中をボコボコにされながらも一切反撃してなかった。
「おい、テメェ、なんで死なねーんだよ! 人間ならとっくに死んでんだろーが!」
「アハハハ、……ゴフォ!……賢人にしては珍しく聞いてなかったのかい? ボクは死なないよー!
そもそもこんな簡単に死んでたらおちおち君の前にも出てこれないじゃないか! ヒデブッッ」
ダフニー君の四肢が千切れて頭が潰された。あっ、賢人君が攻撃をやめた。ダフニー君なんで死んでないんだろ。
〜時は遡る〜
私が女の子達3人の見張りを終えてダフニー君達の元に戻ってくると、火野君が賢人君達5人を連れてきた所だったみたい。
「よぉー、ダフニー。元気だったか、我が親友!」
「あぁ! 我が友、賢人じゃあないか! 久しぶりだねぇ、元気そうで良かったよ」
私は表面上和やかな会話をする2人を微笑ましく見てた。ここまでは。
「あぁ、そうだな! 初日に亜里沙が死んで、俺も死にかけたけどなぁ! 」
「おっと、ボクは死なないから攻撃してきても無駄さ! そんなことより話し合いをゴファァァ!! 」
そこから見るに堪えないボコボコタイムが始まったのであった。
《異能争奪戦》4日目SIDE火野 孝之
な、なんでコイツは四肢をもぎ取られてあたまを潰されてんのに生きてんだ? あ、再生し始めた。グロッ!
俺はダフニーに対する嫌悪と恐怖に苛まれていた。
「はぁ〜、いきなり襲われたからビックリしたよ〜。少しは落ち着いたかい? 親友」
「……あぁ、少しはな」
「話し合おうとは言ったけど、ちょっとだけ面子が足りないんだ。話し合いは明日にして、今日はみんなで親睦を深めようじゃないか! 」
賢人は嫌そうな目でダフニーを見ていたが、諦めたみたいだ。
「……ふん、まあ良いが。その前に高津と鶴田さんはリタイアさせてくれるんだろ? 親友」
「ああ、勿論だとも! 友人の頼みを断る訳が無いじゃないか! さあ、2人はついてきて」
だが、当の2人は怯えていた。
まあ無理もねぇな。あんなん……人じゃねえ。
「お、おい、良いのかよ、ついていって。殺されたりしねーか? ってか、ダフニーってマジで人間なのかよ」
「コイツについていくのマジで怖いんですけどー」
そう言いながらも2人はダフニーの後をついていった。
俺達はしばらくの間、誰も口を開かなかった。ダフニーの持つ驚異的な異能に驚いてるのが殆ど。アイツの異能を考えてるのが賢人、俺。委員長は別件で悩んでるみたいだったが。
全く、アイツは何の異能を持ってんだ。俺の矮小な脳じゃ考えられる能力なんてたかが知れてるが、不死身、若しくは超再生ってところか?
「なあ、賢人、アイツの異能についてなんか分かったか?」
「あぁ、そうだな、俺にはよく分からんが、超再生とか不死身とかじゃないか?」
「やっぱお前もそう思うか……倒せると思うか?」
「無理だ。絶対にな」
ふーん、コイツが断言するって事は……異能の予想は嘘か。
俺の知らない何かを知っていて、その上で隠してるってことか?
ふっ、だよなぁ。賢人がダフニーの仲間かもしれない奴に隙を見せる訳ないか。
ま、いいさ。俺は俺で調べてみよう。
それからはお互い話すことも無く、ダフニーが帰ってくるまで屋上は静寂に包まれていた。
《異能争奪戦》4日目SIDEダフニー
あーあ、やっぱり賢人にボコられた。
まあでも、意外に冷静で助かったよ。
亜里沙ちゃんが殺されて時間が経ったから少しは落ち着いたのかな?
その点だけはハルスに感謝してもいい。
ボクは2人を校長室まで送った帰り道にそんな事を思いながら歩いていた。
その時、ヘルプの声が聞こえる。
(ダフニー様、貝原様より伝言の注文を受け付けました。再生します。
『作戦成功。明日には到着予定。報酬求む』
以上です)
(へー、あいつ、なかなかやるじゃん。
よし、それじゃ、貝原君に【能力無効】、夏川さんに【睡眠憑依】分のポイント送っといて)
(かしこまりました)
ふう、明日には役者が揃うみたいだね! 気を引き締めなきゃ。
ボクはそう思いながら屋上に戻った。