第11話 狂愛の少女は人知れず多くを救う
《異能争奪戦》3日目SIDEダフニー
「ねぇ、委員長」
「どうしたの、ダフニー」
「暇」
いい天気。眠〜いなぁ。
「そんなの見てたら分かるよ……あ! 向こうに人が見えない?」
学校の屋上で寝転んでたボクはバッっと起き上がる。
「……ホントだ。よし、ゾンビ共と戦ってるとこ観よーぜ!」
観戦モードに入ったボクに委員長は呆れた目を向けた。
「いや、助けようよ」
「ちょっとまてぇぇぇええ!! お前らなんで普通に喋ってんだ! 委員長、コイツは奴等の仲間なんだぞ!」
おお! 火野君、良いツッコミだね〜。
ボクは最大限に人を馬鹿にしたような笑みを貼り付ける。
「あれれー、おっかしーぞー。火野くぅん、ボクなんかとは喋りたくないって言ってなかったぁ?」
「ここぞとばかりに煽るね、君は。でも火野君、大丈夫だよ、多分。
ダフニーが敵か味方かは分からないけど、少なくとも今は攻撃してきたりしてないし。
それに、約束したんだ。ゲームの間、ダフニーがここに住んでも良いって」
火野君は委員長の言葉に頭を抱える。
「はぁー、委員長の約束守りは健在だな。お人好しが過ぎる。
だが、ダフニー、このゲームの間、お前は俺達クラスメイトに一切危害を加えないと約束しろ。さもなくば」
「うん、いいよ」
「え? いいのか?」
「アハハハハ! 自分で言っといてなんだいその反応は?
いいよ。ボク達の目的はもう殆ど達成されてる。
後は仕上げの段階だ……貝原君が上手くやってくれればね。
あ、委員長、あの人達ゾンビに襲われてるけどいいの?」
ボクがそう委員長に言うと、焦った様子で2人は振り返った。
「ああぁぁ! 待ってて、今助けに行く!」
焦りながら屋上を降りようとする委員長を火野君が止める。
「バカか委員長。その異能は全然戦闘向きじゃないだろうが。俺が行くよ。異能すら持ってねーけど」
「よっ、モテる男、タカユキ!」
「はぁ、誰かコイツを黙らせてくれ」
あ、土居さん? 土居さんは寝てるよ。交代制でゾンビを見張ってたからね。
ボクが土居さんのほっぺたを暇つぶしにつついて遊んでいると、ぐったりした様子の女子2人を連れた火野君がやってきた。
永井 舞と岩城 小百合か。
「永井さんに岩城さんじゃないか! いままでどうやってゾンビから逃げてたの?」
委員長は女子2人だけでこの地獄の様なゾンビの街を生き抜いてきたことに驚きを隠せない様子だ。
「私は知らない家の屋根の上で助けを待ってたら舞ちゃんがきてくれたの」
「はぁー、疲れたぁ。委員長ぉー聞いてよぉー。
マイマイはB5地区ってところに飛ばされたんだけどぉー、ゾンビがマジでキモくてぇー、家がいっぱいある所だったから屋根の上を移動して来ましたのでありますぅー、テヘッ」
「へー、そりゃーたいへんだったねー、ボクびっくりー、カタツムリ並みの逃げ足だったのかな? マイマイは、デュへッ」
ボクがそうおちょくると、あれ、名前なんだっけ? マイマイ? が怒った。
「なんかぁー、ダフニーうざくねぇー? いっつもヘラヘラ笑ってるだけだろぉーてめぇー。イケメンだからってマイマイはむりぃー」
「おい、奴を挑発するな。何されるかわからんぞ」
焦りを見せた火野君が止めに入るけど、ちょっと遅かったかなぁ。
「アハハハ! 火野君は心配症だなぁ。ボクは何もしないってば……お前ら2人は不合格だけど」
「はぁー? 何言ってんの、こいつぅー。厨二病とかキモいんですけどぉー」
「おい、もうやめ」
「はい、ざんねーん! もうおそいでーす! ボクからの赦しが貰えない時点でクリア不可! 君の寿命は良くてあと2日!」
イェイ!
「おいダフニー、危害は加えないって」
「ボクは何もしないさ、コイツがクリア出来なくて死ぬだけ。
ってかコイツらは本当は元々殺す予定だったんだよ? 無能力者確定人間を生かす理由なんて何処にも無い。
今この瞬間に生きてるだけでも、むしろ感謝すべきだ。賢人達にね」
「? 僕にはよく分からないけど、それでも、なんとかしてくれない?」
「チッ、委員長はまだそんな甘々なの? はぁ、仕方ないなぁ。
カタツムリは殺すけど岩城さんは助けてやるよ。ほら岩城さん、こっち来て。カタツムリは来んなよ」
ボクの言葉に頷いた岩城さんがトコトコやってくる。
「マイマイはカタツムリじゃないしぃー、いいもん、ダフニーなんて居なくたって委員長や火野君が助けてくれるもんねぇー」
ボクはカタツムリを無視していつも通りに岩城さんを校長室に連れて行って、置き去りにしてきた。
……まさかコイツがここまでアホだとは思わなかったからね。
《異能争奪戦》3日目SIDE岩城 小百合
な、なんなの。私途中から話についていけなかったの。舞ちゃんがダフニーを怒らせたの? 恐いからやめて欲しいの。
そしてこの部屋、ヘルプの人が教えてくれたけど、懺悔の部屋って名前、恐いの。
とりあえず水井さんが1番悪い人だと思ったから指定したの。でも人を殺すなんて出来ないから一緒に屋上に出てきちゃったの。
《異能争奪戦》3日目SIDE香坂 慎平
はぁ、ダフニーは僕に何を伝えたかったんだろうか。
確かに僕には火野君みたいな頭の良さや身体能力は無いけど、これまでもなんとかクラスをまとめてきたんだ。
ちょっとはそういう資質が有るんじゃないかって思ってた……けど、自信無くしちゃうなぁ。
今の状態じゃきっとダメなんだろう。ダフニーは人をバカにして自分が悪役になることで、僕達に何かを教えようとしている節がある。
僕には何が足りないのかな? 人を切り捨てる冷徹さ? いや、彼はそんなもの欠片も求めてなかった。
……本当は分かってる。相手の意見を鵜呑みにするだけじゃなくて自分で考える大切さだ。
でもなんで僕なんだ? それこそ火野君の方がその能力には優れている。わからない。
……考えてみようか、自分の気が済むまで。
《異能争奪戦》3日目SIDE火野 孝之
はぁ、なんでコイツはいつも腹立つ顔してるんだ。いつも満面の笑顔とか頭が湧いてるとしか思えない。
そんな、ただでさえ腹立つ野郎が今、屋上を転げ回っている。
「アハッ、アハハッ、アハハハハハハハハ!! し、しぬー! 岩城さんに笑い殺されるー! アハハハハハハハハ!
生贄と一緒に帰ってくるってどんな神経してんの? アハハハハハハハハ!
し、しかもそいつッ……良くやった、岩城さん。今日のMVPは君だ」
な、なんだコイツ、いきなり元に戻って気持ち悪いんだが。MVP? 水井さんがどうかしたのか?
「よくわかんないけど、役に立てたなら良かったの」
「うんうん、サユリちゃんは可愛いねぇ。お兄さんの仲間になるなら助けてあげるよー」
「そうなの? ダフニー助けてくれるの?」
待て待て。ちょっと待て。
「お、おいおい、なんで高校3年の男女が、飴で釣られる幼女と誘拐しようとする不審者みたいになってんだ! ダメだ! そのおじさんは悪いおじさんだから車に乗るな!」
「アハハ、最近ツッコミが鋭くなってきたんじゃない? 火野君」
「チッ、誰のせいだと思ってやがる」
「まあまあ、2人とも、落ち着いて。えーと、よくわかんないけど、岩城さんが生贄の永井さんを連れてきちゃったってこと?」
「うん、そうなの。殺すのはかわいそうなの」
「な、なんで私が殺されなくちゃならない訳!? 何も悪い事なんてしてないのに!」
ダフニーがその台詞に笑う。その目だけは氷の様に冷たい色をしていたが。
「アハハハハハハハハッ!! よりにもよって君がその台詞を吐くのかい?
悪い事をしたからここに居るんだ、君は」
「? それはどういう……」
「ま、いいさ。人も多くなってきたし、今日は機嫌が良い。火野君と土居さんに異能を与えよう。ポイント足りないんだろ?」
はっ? 突然どうしたコイツ? 頭でもおかしくなったか?
「……何が狙いだ? 俺はそんな訳の分からん力なんていらないぞ」
あ、また嘲笑の笑みを浮かべやがった! 本当腹立つな、コイツ。
「要らないの? でも君達、このままだとクリア出来なくて死んじゃうけど」
その台詞は、正直刺さる。
「ぐっ……そ、それはそうだが」
「ほらほら、選択権なんて無いの! 力が貰えるだけ感謝しろよ。クラスメイトを殺さずに済むしさ」
俺は考える。クラスメイトを殺して生き延びるか、それともコイツらの手のひらで踊らされるか。
ははっ、選択権は無い……か。確かにな。
「……わかった。言う通りにしよう」
奴は満足そうに頷いた。
「うん、それで良い。ほら、土居さんも起きて! なんであんなにボク達が騒いでたのに寝れるの?」
「んー? おはよぅーみんな。んー? なんか増えてなぁいー?」
「詳しい話は後! 火野君は【身体強化】、土居さんは【究極魔導】を選んでね」
そうダフニーが言うと、奴の掌の中にポイント授受器が現れ、俺達にポイントが渡された。俺と土居さんはそれぞれ言われた異能を獲得する。
「はい、それじゃ、死に損ないの2人を2人で分担して監視すること。うっかり殺すなよ?
あ、そこの死に損ない共、逃げても明後日には死ぬだけだから逃げても良いが、ここに残った方がまだマシだと思うぞー」
「はぁー? 言われなくてもにげるっつぅーの!」
「なんで私が……何もして無いのに……」
「わかったの。まってるの」
「うんうん、サユリちゃんは可愛いねぇ。ボクが養ってあげるからね〜」
「エヘヘなの」
はぁー。もう反応してやるのも面倒くせー。俺はなんでこんな事に巻き込まれなくちゃならないんだ……。
思わず空を見上げると、そこには綺麗な夕焼けが周りの景色を美しく照らしていた。
はっ。この美しさすらも偽りの産物とは、本当に畏れ入るよ。