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第9話 女神は遅れて現れる

 


 《異能争奪戦》2日目SIDEダフニー



 ボクは2人が付いてきてるのを確認しながら、リタイアの大剣で校舎内のゾンビ共を刺し殺しつつ歩く。



「な、なあ、俺達どこに向かってんだ?」



 不安そうだね、林君。



「ああ、言ってなかったっけ? 校長室だよ」



 さあ、校長室はどこだったかな? あ、あった。



「ようこそ、懺悔の部屋へ」



 ボクは2人を置いて帰った。こいつらに興味ねーし。





 《異能争奪戦》2日目SIDE林 義和



 俺は弱い。身の程を弁えてるんだ。



 その原因なのか結果なのか、幼い頃から相手の強さが直感的に分かる体質だった。



 クラスの中ではやはりというか、坂本と火野が同率で1番強そうに感じられた。



 それでも……俺が1番恐れていたのはダフニーだった。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 どんなに弱くても強くても何かが感じ取れるはずなのに。



 ()()()()()()。それがダフニーに対する俺の評価だった。







 そして俺達は今、訳も分からないままダフニーにリタイアの大剣を持たされて校長室の中に入る。



「なんだよこれ……」



 そこには、7つの棺が等間隔で横並びになっており、一つ一つの棺の中にはゲームへの参加を拒否した人物達が昏睡状態で閉じ込められていた。



(懺悔の部屋へようこそ)



「おわぁぁあ!」



 び、びっくりして変な声出ちまったじゃねえか。



 あれ? そういえば一緒に入ったはずの寺内さんの姿が見えない。



(はい、この部屋に入った時点でこのようになる仕様です)



(あ、どうも。って、ヘルプさん?)



(はい。それでは早速ですが、懺悔の部屋の利用方法について説明します。


 貴方はこれから生贄の人物の過去に犯した罪の告白を受けます。


 その中で最も許せないと感じた1人を指名してください。


 貴方の言動と心理状態が一致していればその人物は解放され、貴方がリタイアの大剣でその人物を刺せばゲームをリタイアすることができます。


 不一致であれば、貴方が死に、代わりに指名された人物がゲームからリタイアできます。以上です)



 ふーん? 罪悪感を減らしてくれんのか。



 意外に優しい奴らだな。



(要するに自分に正直であれってことだな、了解した)



 次の瞬間、棺の上にボードが現れた。



 じわじわと文字が浮かんでくる。



今野 誠(こんの まこと):10才の頃、友人のカードゲームのレアカードを盗む。


 田沼 健二(たぬま けんじ):15才の頃、好きだった女子のリコーダーを舐める。


 岸山 涼(きしやま りょう):16才の頃、厨二病を拗らせて家の窓ガラスを割り、母親を負傷させる。


 成田 美希(なりた みき):9〜15才にかけて、ターゲットを変えながらイジメを行う。


 水井 彩子(みずい あやこ):17才の頃、クラスメイトの女子に嫉妬し、彼女の近所に住んでいた中年男性に彼女を装いラブレターを送りストーカー化させる。


 安達 真澄(あだち ますみ):認知症の祖母に対して事あるごとにお小遣いをねだる。


 御上 麗華(みかみ れいか):大企業の令嬢の立場を利用して使用人にパワハラを日常的に行う。』



「いや、なんだそりゃ。女子が悪質すぎて笑えないんだが。野郎共の悪事が微笑ましいぞ。


 うーん、結局ここまで来ちまったら選ぶしかないよな。リタイア出来なかったらこっちが死ぬんだ。


 ゴメン、成田さん。正直けっこう好きだったけど俺の為に死んでくれ」



(一致しました。成田 美希を解放します)



 うおっ、棺が開いた。



「うーん、ここは? あれ? 林君? どうなってるの?」



 起きるのかよ!?



 あくまで処刑は自分でやれってか。悪趣味なこった。



「悪いな、成田さん。許してくれとは言わねーぞ」



「えっ、なに? なに? きゃあああぁぁぁ!! ……ゴフッ!……」



 俺は震える手つきでリタイアの大剣を彼女の心臓に突き刺す。



 よく漫画とか小説で殺す前にベラベラ喋るやついるけど、さっさと殺した方が明らかにリスク少ないよね?



 初めて犯した殺人の味は……何も感じないな。



 これがゲーム説明で言ってた、精神安定効果ってことか。



「俺がお前の分まで生き残ってやるよ」



 次の瞬間、俺の身体は掻き消えた……はずだった。



 《異能争奪戦》2日目SIDE寺内 遥



「ひゃっ、なにこれ」



 私の前には7つの棺があった。



 と思ったら、ヘルプの人から説明を受けてる間に成田さんの棺が消えて、林君が持ってたはずのリタイアの大剣が手の中に出現した。



 彼女は林君に殺されちゃったんだろうか……成田さんは親友だったのに。許さない。



 6人の罪の告白を聞いた私は暫く呆然としたけど、決めた。だってみんな友達だもん。



「この中にいる女の子達はみんな大事な友達なの。だから私は彼女達が悪いとは思わないわ。


 1番罪の重いのは女の敵、田沼 健二よ!!」



(不一致しました。貴女は水井 彩子を最も罪深いと認識しています。


 寺内遥が死亡する代わりに、田沼健二がゲームをリタイアします)



 は!? なんでなんでなんで!!! 次の瞬間、田沼の棺と私の身体は掻き消えた。





 《異能争奪戦》2日目SIDE坂本 栄司



 はぁ〜、昨日は大変だったぜ。まさかゾンビがあそこまでしぶといとは。Gか? Gなのか?



 なんとか病院内からはゾンビ共を締め出せたが、いつまで持ちこたえられるか分からんな。



 それに、あくまでもオレの目的は水地 賢人の殺害だ。それまでに何とかしてポイントを集めないとな。



「……い!……れ…………か?」



 ん? 誰かいるのか?



 慌てて声のする方に向かって走り、窓の外を覗く。



「あ、坂本! 悪いんだが、大友が怪我しちまってるんだ。この病院に入れさせてもらえないか?」



 バリケードを開けるのは恐いが、クラスメイトの命には代えられまい。



「ああ! いいぞ! ゾンビに追いつかれるなよ! いまバリケードを外す!」



 病院の外の敷地に居たのはサッカー部の脳筋バカ、貝原を筆頭に5人の男女だった。



 オレは急いでバリケードを外し、大友 桜(おおとも さくら)の治療を行う。



 良かった、軽い擦り傷だな。



「助かったよ、坂本。お前すげーんだな! 1人でバリケード張ったり、怪我も治しちまうし」



「ふん、妹がよく怪我してたからな。この程度なら誰でも出来るさ」



「あら? 坂本君には妹さんがいるの?」



 俺にそう言ったのは夏川 千聖(なつかわ ちさと)、学校一の美少女が一体なんでここにいるんだ。



 まあ、決まってるか。こいつら相思相愛だからな。お互いだけが気付いてないってのも笑えるが。



 それにしても……妹の話をしたのはマズかったな。



 ここが妹の病院に似てるからかすぐに思い出しちまう。



「おい、バカ! いや、俺が言えたことじゃねーが」



「いや、気を使わなくて良い。夏川、オレの妹は今、植物状態で入院してるんだ」



 オレがそう言うと夏川はショックを受けたような顔で口元に手を当てた。



「……そうだったの、ごめんなさい、無神経な質問しちゃって」



「あぁ、知らなかったことだ、気にすんな」



 オレの台詞に貝原は不思議そうな顔をする。



「お前、意外に良いやつだったんだな。なんつーか、不良っぽいから今まで話したことなかったけどよー」



「ちょっと、貝原君!」



「いや、貝原の言ってることは事実さ。顔が顔だし、素行も良いもんじゃねぇ。口が悪りぃんだよ、昔から」



 そこでようやく、治療を終えていた大友が言葉を発した。



「あ、あの! 治療してくれてありがとう!」



「ああ。まだ無理すんなよ。一晩は安静だ」



「うん!」



 なんだ? 残りの2人、若林 義典(わかばやし よしのり)笹尾 信二(ささお しんじ)だったか?



 なんで隅っこでオロオロしてるんだ。



「おい、そこの二人」



「ハ、ハイ! 」



「ひ、ひぃ」



「いや、何怯えてんだよ、何もしねーよ。なんだ、ひぃって。傷つくだろうが」



「いや、どうしても今までの印象が強くて」



「僕らとは無縁の存在だったからね」



「ふん、そんなの今から仲良くなれば良いだけの話じゃねぇか」



「「「キュン」」」



「……まて、なんだ今の効果音」



 こんな狂った状況で馬鹿なことをする奴らばっかりだ。



 だがむしろ、そういう状況だからこそ、こういう奴らが必要なのかもな。



 しかしその時、全員のメニューに異変が起こった。



「ん? なんだこれ?……はあああぁぁぁ!!?」



「どうした、貝原!」



 オレは大声を上げる貝原に反応する。



「……リタイアの方法が書かれてる」



「「「「「なっ、なんだって〜!!!」」」」」



 なんだかんだで息ピッタリじゃねえか! あ、オレもだった。



「……やっぱり殺し合わせにきたね。僕たち、これからどうすれば良いの? 出来れば、こ、殺さないで欲しいんだけどなぁ」



 猛獣を見るような目でこちらを見るな。



「いや、少なくとも俺はお前らを殺したりはしない。俺が殺す相手は決まってるからな……


 くくく、アイツを殺す大義名分までくれるとは……


 あ、あぁ、いや、何でもない」



 しまった。あまりの嬉しさに思わず言っちまったが、これは人間関係に亀裂が入るかも知れん。



「いや、別に取り繕う必要は無いさ。


 誰にだって言えない秘密の1つや2つはある。


 どっちみち異能を取れなきゃ、誰かを殺さないとこっちが死ぬんだ」



 ? 助かった……が、脳筋バカの貝原のくせにやけに冷静なんだな。



「そうだな。異能ってのがどれだけ便利なものかは知らんが、何となく胡散臭いものを感じる。


 アイツら本当はオレ達に異能を取らせたがってんじゃないのか?


 殺したいなら召喚してすぐに殺せば良かったんだ」



「え!? そ、そうなのか!?」



 ん? 貝原の様子がおかしい。なんでそんなに顔を真っ青にしてるんだ?



「おい、どうした? お前もしかしてもう異能持ってんのか?」



「いや、もってねぇから……大丈夫だ」



 明らかに大丈夫そうじゃないが、まあいいか。仕方ねえな、話題を変えてやろう。



「それよりお前らそもそもリタイアの大剣100000ポイント分、貯まってんの?」



 オレが確認をとると全員一気に目を逸らして静まり返った。最早息ピッタリで怖いんだがこいつら。



「はぁ、しゃあねぇな。どうせ今日は大友の容態を見なきゃならねぇ。


 オレがゾンビ殺してポイント貯めてきてやるよ」



 全員が勢いよくこちらを振り向く。お前ら仲良しだなー。



「ヤベェ。3日前まで不良だと思ってたやつを仏の様に感じる日が来るとは思わなかったぜ」



「だな! あ、でも俺と夏川はリタイアするのは最後でいいぞ」



「え? 貝原君、なんで?」



「え? えーと、なんででしょう」



「知らないわよ、別に良いけど」



「いざとなったら俺を刺してくれればいいさ」



「自殺願望でもあるの? 貝原君」



「ちっげーよ。そうじゃない、そうじゃないけど」



「おい、下らない話はもういいか? オレは今からポイント稼ぎ、お前らはその間バリケードの補強と巡回を頼む。交代で睡眠はとれよ」



「おい、坂本は睡眠どうすんだよ」



 そんなの決まってんだろ、バカ。



「いや、オレは不眠不休で働かないと明日までにリタイアの大剣と交換出来ないだろう」



「坂本が、ぐうの音も出ない聖人なんだがどうしようみんな」



「「「キュン」」」



「いや、もうなんなんだお前ら」



 こうして2日目の夜は更けていった。







 ーーーーここではない何処かーーーー



「……しかずさん…………林義和さん!」



 ……ここは、何処だ?



 俺は確か、成田さんを殺して……リタイアしたはずじゃ?



 ふと、周囲を見渡すと、そこは最初に飛ばされた時の真っ白な空間だった。



 ってことは、ここでゲームが終わるまで待機するのか?



「……違います」



 っうお! アイリス!?



「……違います」



 あ、あー確かに、アイリスが幼女になった感じの女の子だな。



「……悪かったですね、幼女で」



 で、おたくはどちら様で?



「そうですね……この世界では、女神、と呼ばれているはずです」



 ファ!? 女神様降臨!? チート! チートください! うひょひょ!



「良いですよ。ってか既定路線です。初代の私の所為でしょうが」



 ? よく分からんが、チートくれるんなら文句は無い。



 ってか登場するの遅くないっすか、女神様。



 普通こう、転移の時に来るものでしょう。



「ぐだぐだうるさいとチートあげないよ」



 ははぁー! ワタクシが悪うございましたぁー!



「林くんって、喋ってみると意外に面白い人だったのね……いや、なんでもないわ」



 これは……ツンデレ女神か!?



「……平常心平常心。よし、じゃあぱっぱと異能あげるんで好きに使ってください。


 ただし危険な物なので注意してください。あなたが世界の命運をなんかアレするかも知んないんで、はいコレあげる」



 いきなり対応が適当になった!?



 と思った瞬間、俺に女神から何かが流れ込んできた。



 ……なんか、気持ちいい。爽やかな気分になってきた。







『異能【死体強奪】の取得条件を満たしました!

 取得条件:女神の魂の一部と融合し、自我の破滅を対価に世界の秩序から逸脱せし異能を手に入れんと欲する』







 ………………は?



 まてまてまて、そんなもん望んでねーよ!!?



 え? なに、俺破滅すんの!?



「ごめんね、林くん」



 てめー、このやろー! しゅんとした顔しても無駄だぞこら!



 お前、俺にこのクソ異能押し付ける気満々だったじゃねぇか!!



「そろそろ時間だね、じゃあバイバーイ」



 まてこら! 逃げんなバカ!



 …………あー、やらかした。



 大体、ちょっと幼女になったからって見た目アイリスだもんなぁ、ロクな結果にならないのは目に見えてたさ。



 ……時間、か。意識が朦朧としてきやがった。



 あー、俺、自我崩壊すんのか、やだなー。



 何とか自我を保つ方法は無いものか……あ!!



 ここでならまだゾンビ倒したポイント残ってんじゃねーか? だってここでゲームの説明してたもん!



 今から注文すれば間に合うか……頼む!



 なん……とか…………自我…………を保………………

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