大都カノーサ
大都カノーサ
それはジェボーヌの森の東側の離れた所に位置する人間達の王国都市である。人間達だけでなく、ゴブリン達のような森の住民にとっても有名らしく、森の外の情報に疎い自分でさえカノーサの話を度々耳にするほどである。
「神聖なる黄金の都」「魔法の聖地」「全ての者の理想郷」「夢の王国」
耳にするカノーサは、いつもそんな風に呼ばれていた。
要するにすごいところらしいがしかし…
「正気ですか長老様?人間の街に入ろうとしたゴブリンがどうなるか知ってますよね…?人間はゴブリンが好きじゃない。見つかったら殺されるんですよ。カノーサに入るなんて不可能です。それにさっきの話から、何で人間の街に行けって事に…」
「落ち着け」
ラングは椅子の肘掛けをトントンと指で叩いた。
それは何のサインだ?
「順を追って説明する。少しだまらっしゃい」
そういうと彼は腕を組み始めた。
やたらに平然としている。
「最初に、カノーサに行って欲しい理由についてだが…それは例の人間達の出所がカノーサだからだ。奴ら同じ方角から来てるって言ったろ?
ここから東にある、毎日来れる距離の人間の街はカノーサしかないんだ。本拠地なら、奴らの行動の理由を知ってる人間がいるかもしれないし、調査が手っ取り早い。」
なるほど、理屈は分かったが、めちゃくちゃなこと言ってくれるじゃないか。
人間の街にゴブリンが入るなんて信じられない。
ましてやそこで調査なんてできるわけがない。
ん?いや待てよ。長老はもしかして「あれ」に期待してるのか?
「そして人間の街にゴブリンは入れないんじゃないかって件について。
普通のゴブリンはそうだろうな。入る前に殺される。人間とゴブリンの力の差は大きい。戦って勝つのはまず無理だ。それにもし見つからずに入れたところで周囲は人間だらけで例の人間達を調べるどころの話じゃない。身を隠し続ける事さえ難しい」
「そう。普通のゴブリンにこの仕事は不可能だ。だからお前に託したんだゲイン。お前の「能力」ならそれが可能だろ?」
…全てに納得がいった。長老、あなたは女癖はあれだが、物事をよく考えられるゴブリンだ。そこは尊敬しよう。
けれど聞く限り、並大抵の任務じゃない。そう気安く受けるわけにはいかない。
「大変な仕事だ。だから報酬には以前からお前が前から欲しがってた、名画トロールの晩餐会を用意してある」
「その任務、絶対に成功させてみせます。」
口は勝手に動いていた。
「んよしOK。私はこの後シイラちゃんとデートの約束があったからもう行くぞ。
あっ…シイラちゃんの後は、ミフィアさんともデートの約束してたなぁ…今日はハードだ。
あーゲイン。明日の朝もう一回ここに来い。任務に向けて細かい調整をしよう。人間の街に入るんだからそれなりの準備がいるだろう。
それじゃあな〜」
長老は部屋の陰の扉を開けてどこかへ消えていった。
それにしてもあの男…
俺が任務でいない間、本当に女が原因で死んでるかもしれない。