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ひんやりタオル

妻は、子育てとピアノ教室の仕事に追われて疲れているのだろう。なかなか布団から起きれない様子だった。


朝起きる時間になったので、ワン、ワンと吠えて子どもたちを起こした。


「おはよ〜、セイヤ。ママはどうしたのかな?」

裕太は起き上がれない妻を心配している。


妻は小さな声で、

「裕太、浩二ごめんね。ママちょっと疲れていて起きれないよ。学校頑張ってね」


子どもたちも不安そうな様子で、学校に向かって行った。

その後も、妻は寝込んだままだ。今日のピアノ教室の予定は全てキャンセルしたようだ。


それにしても、疲れたにしては様子がおかしい。汗もたくさんかいている。俺は短い前足を駆使して、タオルを絞ろうとした。うーむ、難しい。もうちょっとだ。後ろ足で踏ん張って、前足でギューだ。


後ろ足が限界だ、ヤバイ!

俺はバランスを崩して、洗面器の水の中に落ちてしまった……


「セイヤ、どうしたの?」

妻が心配して目を覚ましてしまった。申し訳ない、少しでも役に立ちたいんだが、全然ダメだ……


ビショビショになった俺を妻は咳き込みながら、拭いてくれた。そして、俺の頭を撫でながら再び眠った。


失敗したままでは終われない。俺は再び、ひんやりタオル作りにチャレンジした。


なるべく音を立てないように、タオルをギューと絞った。今度は、成功した! ゆっくりと丁寧にタオルを畳んで、そっと妻のおでこに冷やしたタオルを乗せた。そして、シッポで妻の背中をさすった。早く、元気になってね〜


でも、まだしんどそうだなぁ。病院に連れて行った方が良さそうだけど、俺は犬だし困ったなぁ……


お隣さんに助けてもらおう。お隣の田中さんは、俺が人間時代から家族ぐるみで付き合いがあった。


俺が視力を失ってからも、親身になってくれた。今も何かとお世話になっているんだ。


田中さんの家の前でワン、ワン吠えてみた。


「あら、セイヤどうしたの?」

田中さんが怪訝な顔で出てきた。

俺は、前足と顔を自宅の方に向けて必死のアピールだ。


「あっ、分かった! セイヤ、お腹空いたんでしょう?」

田中さんは、ニッコリして言った……


田中さん、違うよ。俺は、ボディーランゲージを更に頑張った。前足を自宅の方に向けて、体を地面に横にした。何かを感じてくれただろうか。


「セイヤ? 家がどうかしたのかな? ちょっと気になるね」

ヤッター、田中さんは異変を分かってくれた。家の様子を見にきてくれた。そして、寝込む妻を見つけて、


「奥さん、大丈夫? すごい熱じゃないの。大変、すぐに病院連れて行くからね」


田中さんが妻を病院に連れて行ってくれた。医師の診断によると、肉体的な疲労と精神的なストレスが原因らしい。3日ほど入院する事になった。


妻は、一人で息子たちを背負っていく事の重圧に苦しんでいる。

俺のせいだな、本当にごめんよ……


田中さんが、息子たちにも伝えてくれた。

「お母さんはね、ちょっと疲れたから入院する事になったよ。でも、病院でゆっくりしたら、すぐに元気になるから安心してね」


弟の浩二は、泣きそうになっている。

「ママ大丈夫だよね。本当に元気になるんだよね?」


ここで兄の裕太が貫禄をみせる。

「大丈夫に決まってるだろ。ママは強くてカワイイんだから!」


普段は、ボッーとしているお兄ちゃんが逞しくみえた。


妻が入院中は、息子たちは田中さんの家でお世話になる事になった。俺はどうなるのかな、ちょっと不安になった。


すると、田中さんが、

「もちろん、セイヤも我が家においでよー。賑やかで楽しくなるね」

良かった、ありがとうございます!


田中さんは、ご夫婦二人暮しだ。そこに裕太と浩二プラス犬の俺がお世話になる。

息子たちは赤ちゃんの頃から、田中さんご夫婦に可愛がられていたので、お二人の事が大好きだ。


晩御飯も、息子たちの好物料理を用意していただいた。浩二は、ご飯を3杯もおかわりしている。やっぱり、この男に遠慮の二文字は存在しない。俺もドッグフードを食べさせてもらった。


晩御飯の後、息子たちは、田中さんのご主人と一緒に風呂に入った。風呂場から楽しそうな声が聞こえる。いつもと違う場所でお泊まりは楽しいようだ。


息子たちが風呂に入っている間に、田中さんの奥さんが俺の頭を撫でながら、

「さっきも、家の異変を教えてくれたし、セイヤは本当に賢いワンちゃんだよね。あなたを見ていると、亡くなったお隣のご主人が生まれ変わったような気がしてくるよ。不思議なワンちゃんだね」


田中さん、あなたは鋭いですね。大当たりですよ!


その夜、俺は妻の事が気になって眠れなくて月を眺めていた。満月に向かって、妻の回復を願った。すると、裕太がやってきた。


「セイヤも眠れないの? 僕もママが心配だし、寂しいから眠れないんだよ。浩二は、寝言でママーって叫んでいたよ」


みんなそれぞれのスタイルで、妻に思いをはせながら夜を明かしたのだった。

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