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友達ワンちゃん

俺は家族と一緒に、情報番組の「街の可愛いワンちゃん」に出演する事になって、収録に臨んだ。これから、散歩の様子を撮影する。


いつも通り、妻と長男の裕太と次男の浩二が会話をしながら、俺もトコトコ歩く。


「ママ、どこを見たらいいの?」

浩二が、ガチガチに緊張しながら歩いている。この子は、あがり症で本番に弱いタイプなんだよな。俺は、ワン、ワンと吠えて励ました。


裕太は、さきほどカメラの前でピアノを演奏した事で、少し慣れてきたようだ。流石は、お兄ちゃんだな。


妻はどうかな? チラッと顔を見た。意外に落ち着いている。緊張しまくりの浩二の手をしっかり握っている。浩二は俺のリードを持っている。


リードを通して、浩二の手が震えているのが分かった。歩いているうちに浩二がコケてしまった。


危ない! 俺は、とっさに地面に伏せて浩二のクッションになろうとした。ドテーン! 浩二はモロに俺の上に乗っかった。


重いぜ…… いつの間にか、こんなに大きくなったんだな。

息子の成長を感じつつ、俺はペチャンコになった……


「セイヤ、ごめんよー」

浩二が慌てて俺を抱えた。番組スタッフさんも騒然となった。

「大丈夫ですか? 救急車呼びましょうか?」


救急車? 俺は犬なんだけど……


「浩二君、頭打っていませんか?」


どうやら、スタッフさんの心配は俺じゃなかった。まぁ、そうだよな。


浩二は元気に、

「僕は、大丈夫です。それよりセイヤが心配です」


浩二は俺を気遣ってくれた。俺は父親だし、息子たちを安心させなくてはいけない。


起き上がろうとしたら、足に激痛が走った。痛い……


ここで俺が痛がっていたら、息子たちが心配してしまう。耐えろ、俺!


俺は立ち上がった。痛みを堪えて、歩き始めた。平気なフリをして歩いた。そこに更なる試練が訪れた。俺の友達ワンちゃんの柴犬とばったり会った。このワンちゃんとは、たまに散歩で会うんだ。


俺を見つけると、駆け寄ってきて、じゃれてくる可愛いワンちゃんだ。しかし、今日は俺が足を負傷している。友達ワンちゃんと遊ぶ余裕はないんだ。


スタッフさんがカメラを構えている。多分、俺と友達ワンちゃんの触れ合いを期待しているのだろう。


どうする? 俺は、ジッと友達ワンちゃんを見つめた。頼む、心の友よ、分かってくれ!


友達ワンちゃんは近くまで来て、立ち止まる。犬同士で見つめ合えば、言葉は必要ない。


友達ワンちゃんは、そのまま横を通り過ぎた。すれ違い際に、シッポで俺が痛めた足を撫でてくれた。ありがとう、友達ワンちゃん。きっと、君の前世は俺と同じで人間だったんだろう。

たから、俺の気持ちを理解してくれたんだな。


犬の親友に感謝して、俺はかろうじで、役目を果たした。転倒した浩二も大丈夫だった。


裕太がピアノを弾いて、俺が踊って、その後みんなで散歩した様子がテレビで放送される日は、みんなでリビングで鑑賞した。


「裕太、ピアノカッコ良く弾けているね。浩二もケガせず、散歩もみんなで可愛く出演できたね」

妻も満足そうだった。良かった、良かった。

子どもたちが学校に行ってから、妻と2人……イヤ、1人と1匹になった。


妻は俺を見つめて、

「セイヤ、本当は足が痛かったんでしょ?」


妻はお見通しだったのか。俺は、ワォーンと小さく呟いた。


妻は、俺の頭を撫でて、

「セイヤの様子を見てたら、どうしても続けさせようって思ったよ。不思議だけど、セイヤの想いを感じた気がしたよ。変だよね、セイヤは犬なのにね」


俺はどんな姿になっても、家族を守っていきたいんだ。息子に、ペチャンコにされるぐらい何ともないさ!


テレビに出た事もあって、妻のピアノ教室は盛況だった。商売繁盛は結構だが、妻は疲れも溜まっているようだ。今日も一日ビッシリとレッスンの予定が入っているらしい。


レッスンが終わって、生徒さんが帰った後、妻は、うたた寝をしていた。クタクタなんだなぁ……


俺は、布団を探した。何せ、犬だから苦戦したが、何とか引っ張り出せた。後は、布団をくわえて、妻に掛けてあげるんだ。


ワン、ワンと自分に気合い入れて頑張った。よしっ、布団を掛ける事に成功した。ゆっくり休んでくれよ。


妻が急に俺を抱えた。俺は布団に引っ張り込まれた。そして、布団の中で妻が俺をギュッとして、

「ありがとう、セイヤ。大好きだったあの人が亡くなって不安だらけだけど、セイヤがいつも優しく包み込んでくれるよね」


妻はスヤスヤと眠った。

俺は、犬だけど、ずっと近くにいるよ。たとえ、話ができなくても、俺の気持ちは永遠に変わらないよ。ずっとずっと愛してるよ。


俺は、そっと妻のホッペにキスをした。

妻が笑ったような気がした。

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