街の可愛いワンちゃん
犬になった俺は、今日も妻のピアノ教室の看板犬として、生徒さんたちに愛想を振りまいていた。みんな俺を可愛がってくれる。俺は、ちょっとした評判になった。「街の可愛いワンちゃん」として、テレビに登場することになった。
テレビか。俺は目立つのは苦手なんだが、ピアノ教室の宣伝にもなるな。
「セイヤ、頑張ってね」
妻も、楽しみにしているようだ。
俺は、散髪に連れて行ってもらって、カッコ良くキメた。晩御飯は、俺の好きな銘柄のドッグフードだ。
息子たちが風呂で念入りに俺を洗う。念入り過ぎて、こちょばいな。ワォ〜と吠えてしまった。息子たちは大笑いだ。
息子たちも、興奮している。
「僕たちもテレビに出るんだよね。セイヤに得意のダンスしてもらおうよ」
えっ? 俺がダンスするのか?
妻も賛成して、
「イイねぇ、セイヤのダンスは可愛いもんね」
前に、長男がピアノを弾いている時に、俺は何気なく踊ってみた。そしたら、家族は喜んでくれたんだ。
でも、犬の姿で踊るのは大変だった。人間時代は、どちらかといえば、運動が苦手だった。
また、踊るのか……
俺は、一応、ダンスはイヤそうな素振りをしてみた。
「セイヤは、やる気満々だね」
息子は、俺の顔を見つめて言った。
やっぱり、ダンスは勘弁してくれないようだ……
出演するのは、朝の情報番組の一つのコーナーだ。
いよいよ、収録の日が来た。
テレビ局の人たちがやってきた。予想以上に多い人だな、緊張してきたなぁ。
「可愛い〜」
美人の女性スタッフの方が俺を撫でてくれた。俺の鼻の下が伸びる。犬だから、妻にもバレないだろう。
家族とスタッフの打ち合わせを聞いていると、長男がピアノを弾いて、俺が踊るらしい。スタッフの方は、俺が踊ってくれるのか心配しているようだ。
妻は、自信ありげに、
「セイヤは、きっと踊りますよ。長男の裕太がMr.Childrenを弾いたら、セイヤの血が騒ぐんですよ」
俺の顔を見てニッコリしている。
「亡くなったパパが好きだった曲を弾いたら、不思議とセイヤが踊るよね」
裕太は本当に不思議そうに言った。
「ワン、ワン!」
俺は、お前のパパだもんね〜
カメラが回って、裕太のピアノが始まった。俺は、いつ踊り始めたらいいんだろう?
最初は裕太を撮っていたカメラが、暫くして、俺に向けられた。じゃあ、そろそろ踊るか。
と、そこで裕太がピアノで間違えてしまった。ここでNGとなる。
裕太は、発表会やコンクールの時にステージに立っているが、流石にテレビは緊張するようだ。表情も硬いなぁ。
「裕太、ホラ!」
妻が、俺の人間時代の写真を裕太に見せた。
裕太は頷いて、再び座り直して、ふぅ〜と息を吐いた。再チャレンジだ。
がんばれ〜、次男の浩二も応援している。俺は裕太を信じて見守る。
今度は、ピアノが順調だった。スタッフさんが俺を見て、腕をクルクル回している。この合図は、今踊れって事なのか?
よしっ、出番だぜ!
俺は、短い4本足で懸命にステップを踏んだ。体もクルクル回した。しかし、頑張り過ぎて失敗した。
ポテンとコケてしまった。ヤバイ、NGか?
でも、カメラは止まらなかった。裕太のピアノもサビの部分に入った。
俺は、小さい体で最後にジャンプしてキメようとしたが、ここでもコケた……
「はい、オッケーです!」
スタッフさんの声で終わった。俺は2回もコケたんだけど、良いのかな?
「セイヤ君のコケ具合が可愛かったですよ。裕太君もよく頑張ってくれましたね」
スタッフさんは満足そうだった。犬の俺は、コケたら人間にウケるのか。
モニターで確認だ。
「裕太頑張れ〜」
もう、収録は終わっているが、家族は応援する。俺がコケたシーンでは、大爆笑が起こる……
とにかく、無事に出来て良かった。
俺は、シッポで裕太のお腹を撫でた。
「よく頑張ったな。裕太のMr.Childrenは最高だったよ」
裕太も笑って、俺を撫でてくれた。
「僕たち頑張ったね!」
ワン、ワン。俺は頷いた。
まだ、もうワンシーンの収録がある。家族みんなと俺が散歩しているところを撮影するようだ。
「普段の散歩と同じようにお願いします」
スタッフさんの指示はシンプルだった。これなら、簡単だぜ。
いつも通り、妻と裕太と浩二と俺でノンビリと歩いていたら、
「セイヤ君の位置をもう少し右でお願いします」
スタッフさんからの指示だ。しょーがない、妻が俺を右にズラした。
「ごめんなさい。やっぱり左で」
また指示だ。
俺は左に移動させられた。
「大変、申し訳ありません。セイヤ君、やっぱり真ん中の少し前に来て下さい」
どないやねん! 俺はツッコミたくなった。
ダメだ、俺はラブラドールレドリーバの子犬なんだ。落ち着け俺!
妻が俺の異変に気付いて、頑張ってねって言う。
やるしかないぜ!
気を取直して、真ん中で散歩再開だ。
今度は、無茶振りがきた。
「セイヤ君、適当にコケられますか?」
このテレビ局は、欲しがるなぁ〜。
そこで、妻が助け船を出してくれた。
「セイヤは、ありのままの姿が可愛いいんです。セイヤの好きにさせて下さい!」
大人しい妻が少し強い口調になった。
妻は、俺を守ってくれたんだ。
ありがとう!
こうして、最後の散歩収録に向かった。




