本能寺の変2
俺は京都本能寺で明智光秀に急襲されて、織田信長と共に絶対絶命のピンチに陥っていた。
しかし、それでも俺は諦めていなかった。ここで諦めてしまったら、息子の裕太の命も救えなくなる。
事前に、俺は万一に備えて、本能寺から脱出できるルートを確認していた。そこへ織田信長を誘導する為に、俺は傷ついた体にムチを打って、必死の想いで織田信長の足を押した。
犬である俺の仕草を見て、織田信長は何かを感じてくれたようだ。
「ヤスケ、お前はまだワシを助けようとしているのか? ならばワシもヤスケの想いに応えねばならないな」
織田信長は希望を取り戻した。俺は脱出ルートの方向へとフラフラになりながら歩き出した。
「信長様、俺についてきて下さい!」
そんな言葉を掛けたつもりで、ワンワン吠えた。
織田信長は頷いた。
「うむ。ついてこいという事じゃな。ワシの命はヤスケに預けたぞ!」
俺たちは傷だらけだったが、猶予はなかった。明智光秀の軍勢がすぐ近くに迫っている。織田信長が持っていた弓矢は、すでに弦を切られいた。武器は小さな脇差しだけだ。ここで襲われたらイチコロだ。
その時に敵が放った弓矢が流れて、俺に向かって飛んできた。危ない! 俺は思わず目をつぶってしまった。
俺の顔を太い腕が守ってくれた。織田信長の右腕だった! 鮮血が流れていた。
「ヤスケ、大丈夫か?」
長くて太い矢が織田信長の右腕に深く突き刺さった。この男がいなかったら、確実に俺は貫かれていた。あの、傲慢で非情だと言われている男が犬である俺を助けたのだ!
織田信長は俺を撫でて、
「ヤスケは唯一、ワシに心を開いてくれたんじゃ。だからワシがここで死んだとしてもお前は何とか助かってほしいんじゃ」
織田信長よ、アンタという男は……
しかし、感傷に浸っている暇もなかった。俺は重傷の織田信長を引きずるようにして、脱出ルート付近までやってきた。
これで助かる……と思ったが、甘かった。
脱出ルートは、明智光秀の軍勢によって猛火に包まれていた。明智光秀は脱出ルートに気がついて先手を打っていたのだ。
万策尽きたか……
俺がしょんぼりしていると、織田信長が、
「ヤスケ、もうよいぞ。本当にありがとう。もし生まれ変われたら、戦のない時代でお前とノンビリ暮らしたいものだな。でも、ワシは多分地獄行きじゃろう」
最後の瞬間が迫っているが、織田信長の瞳は穏やかで優しかった。
俺も観念した。裕太……すまない。ダメな父親で本当にゴメンな。天国で再会できたら、また楽しく暮らそうな……
「おい! こっちだ。織田信長と一緒に来るんだ!」
遠のく意識の中に語り掛けてくる声が……
「説明は後でするから、俺の後に続くんだ!」
振り向くと、見覚えのある柴犬がいた。あれは確か、俺が戦国時代に送られる前に住んでいた家の近くで飼われている友達ワンちゃんだ。
どういう事だ? しかし、考えているヒマはない。俺は織田信長に吠えて、促した。そのまま、俺たちは友達ワンちゃんについていった。
すると、本能寺の奥深くにトンネルのような穴が掘られているではないか!
俺はビックリして友達ワンちゃんを見ていると、
「この穴を通れば、本能寺の外に出られるぞ。あと一息だ。頑張れ!」
引き続き、俺の意識の中で友達ワンちゃんの声が響く。
俺たちは、本能寺の外に出ることに成功した! 辛うじて助かったようだ。
友達ワンちゃんはホッとした表情で、
「このトンネルは、俺が密かに掘ったんだ。実は、閻魔大王様から急に頼まれていたんだ。セイヤのピンチを救ってやってくれって」
セイヤとは、俺が現代で飼われている時の名前だ。
しかし、閻魔大王様が? でも、何で友達ワンちゃんが? この柴犬はただの犬じゃないのか?
友達ワンちゃんは、更に続けた。
「詳しくは話せないが、俺はセイヤと同じような種類の犬だよ。閻魔大王様は言っていたよ。セイヤを絶対に死なせるなって。だから、俺が来たんだよ。明智光秀が本能寺に来るまでにトンネルを掘るのは苦労したよ」
ありがとう、友達ワンちゃんよ。命の恩人……じゃなくて、恩ワンちゃんだ。
友達ワンちゃん前足を振って、
「じゃあな、セイヤ。俺の役目は果たせから現代に戻るよ。セイヤを連れて帰ってやりたいが、ダメなんだよ。いつかまた会おうな」
友達ワンちゃんの姿が消えていく……
最後に、彼は一言、
「セイヤの息子裕太は助かったよ」
確かに、そう言っていた! 良かった、ホッとして全身の力が抜けた。
「ヤスケ、一緒に行こう」
織田信長が俺を抱っこして、急いで本能寺を離れて、織田家が懇意にしている別の寺院に逃げ込めた。
「信長様、よくぞご無事でしたな。本能寺で明智光秀殿に襲われたと聞いて心配しておりました」
住職が織田信長の手当てをしようとした。すると、織田信長が、
「ワシは後回して良いから、この犬の手当てを手厚くしてくれないか。この犬のおかげでワシは助かったんじゃ」
織田信長の指示のおかげで、傷は深かったが俺は一命をとりとめた。
絶望的な状況から、逆転満塁ホームランだな。
こうして、歴史上屈指のクーデター、明智光秀による本能寺の変は失敗に終わった。




