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本能寺の変

俺は海で溺れてしまった息子を救う為に、戦国時代の織田信長の命を助ける使命を与えられた。そして、京都本能寺に宿泊している織田信長のもとへ送られた。


さて、どうしようかな。史実のとおりだと、織田信長はここで命を落とすわけだが、それではダメだ。とにかく織田信長の近くに居よう。


織田信長は突然現れた俺を受け入れてくれた。ヤスケという名前を付けてくれて、散歩に連れて行ってくれた。織田信長といえば、かなり怖くて逆らう者は容赦なく殺すようなイメージだが、実際に会ってみると少し違う気がしてきた。


怖いのは確かにそうだが、どこか寂しそうな瞳が印象的だ。散歩の途中でも俺に水を飲ませてくれたりもした。俺は、お礼に恐る恐る前足で、織田信長のヒザをナデナデしてみた。もし、怒ったら俺は斬られるだろうな….…


織田信長は驚いていたが笑って、

「ヤスケ、お前はなかなか人懐っこくて可愛いのう。みんなワシを怖がっているのに、お前はワシを撫でてくれるんじゃな」


その時に織田信長は、また悲しみを抱えた瞳になった。

「ワシは昔から、変わり者とも呼ばれたし、多くの人を殺してきた。しかし、戦国の世では少しでも弱みを見せたら負けなんじゃ。だから強がるしかないんじゃよ」


そうなのか……織田信長という人物は本当は優しくて寂しい男だったのかもしれない。俺は、クゥーンと小さくほえた。


「ヤスケよ、犬のお前にもきっと欠けがえのない誰かがいるのであろうよ。誰かは分からぬが、ワシがその誰かの代わりに大事にしてやろう。いつかその人とヤスケが会えたら良いのう」

そう言った織田信長の瞳はどこまでも優しくて悲しみに満ちていた….…


まるで、俺に課せられ十字架を知っているかのような瞳だった。織田信長の瞳の中に、俺は妻と裕太と浩二を見た気がしていた。


たとえ、歴史を覆すことになっても、この男を救いたい……


もちろん、裕太の為というのが第一だが、それだけではなくて、俺は織田信長の心に広がる闇を救いたくなっていた。


とは言っても、部下たちにはやっぱり偉そうにしている様子だ。みんなビクビクしているのが、犬の俺でも分かる。織田信長は不器用な男なんだな。


「ヤスケ、今日はワシと一緒に寝るか。お前が近くに居てくれると落ち着けるぞ」

織田信長は、この夜はご機嫌だった。緊張するじゃないか、イビキをかかないように、お利口に寝ないとエライことになりそうだ。でも、実はこの時は一刻を争う事態だった。


明智光秀が本能寺に攻めてくるまでに織田信長を別の場所に移ってもらおうと試みた。ボディーランゲージで伝えようとしたが、ダメだった。

俺の心配をよそに織田信長は笑って、

「ヤスケがご機嫌に舞っておるわ」

このままではマズイな……


天正10年6月1日の夜だった。俺が人間として生きた時代から400年以上昔だった。そして、歴史上の中でも屈指のクーデターが起こった日の前夜だった……


もちろん、俺は明智光秀にいつ襲われても対処できるように、本能寺から脱出できるルートも事前にいくつか確認していた。


しかし、内心は不安だった。本能寺にはそれほど多くの兵士がいるように思えなかった。これで急襲されたら逃げるヒマはあるのだろうか?


一般的に明智光秀は知将とも言われている。その明智光秀がやすやすと織田信長を取り逃がすとは思えない。きっと、入念な準備をしているはすだ。

今頃、「敵は本能寺にあり!」って言いながら本能寺に向かっているんじゃないのか?


神経を尖らせていたつもりだったが、いつの間にか俺は眠ってしまった。妻と裕太と浩二に会えた夢を見ていた。


翌、6月2日の早朝だった。織田信長が目を覚まして起き上がった。俺もつられて目覚めた。織田信長はトイレにでも行くのかな? その背中を見ながら、胸騒ぎがした。


「信長様、部屋から出たら危険だ!」

俺は伝えようと必死で吠えた。


織田信長はキョトンとして、

「どうしたんじゃ、ヤスケ。珍しく吠えているのう」

と言いながら、部屋から出て行った。


その時、歴史が動く瞬間がついに訪れた。外が急に騒がしくなった。


小姓たちが大声で、

「信長様、一大事です。本能寺の周りを軍勢が取り囲んでおります。謀叛でございます!」


流石の織田信長も慌てた様子で、

「何じゃと! 謀叛とな。誰の仕業じゃ?」


「紋章を確認したところ、明智光秀殿の軍勢でございます!」


緊迫したやり取りが交わされている。織田信長は、俺の頭を撫でながら、

「ヤスケよ、安心しろ。ひと暴れしてくるから、奥でゆっくりしておれよ」


織田信長は、弓矢を持って外に出ようとする。


「信長様、行ったらダメだ、殺される。俺と一緒に逃げるんだ!」

俺は力の限り吠えた。


織田信長は振り返らずに、覚悟を決めたような背中で歩いていった。


間もなく、あちこちで戦闘状態になった。戦火を避けながら、俺は織田信長を探した。あの男を救わなければならない。裕太の為にも絶対に織田信長を死なせない!


しかし、戦況は明らかに明智光秀が有利だった。圧倒的な兵力で次々と織田の兵士が討ち取られている。


俺も巻き込まれて、傷を負いながらフラフラになってようやく織田信長を見つけた。織田信長も傷だらけだ。


「ヤスケ、済まないな。お前を巻き込んでしまった。許してくれよ。どうやら、ここまでのようじゃ」

織田信長の目は悲しそうだった。


でも、俺はまだ諦めていなかった!

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