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あの世会議

俺は砂浜で箱の中に入った紙切れを見つけた。妻がそれを取り出して広げたが、何も書かれていなかった。これは何だろう? 根拠はないけれど、何か意味があるように思えて箱ごと持って帰ることにした。


海では息子たちが楽しそうだ。

俺も再び息子たちのもとへ向かった。


裕太が俺を浮き輪に乗せてくれた。

「セイヤ、気持ち良いね。僕ね、泳ぐのが苦手なんだ。どうしたら泳げるかな」

独り言をつぶやいている。


うーむ、犬の俺に聞かれても困るなぁ。しかし、裕太の悩みをほっておくわけにはいかない。俺は、一応見本のつもりでバシャバシャと前足を動かしてみた。


「セイヤは僕よりもヘタだねー」

裕太に笑われた……


「お兄ちゃん、こうするんだよ!」

弟の浩二がバタ足を披露した。しかし、派手に水しぶきが上がるだけで前に進んでいない。

この兄弟は、どっちもどっちのようだ。


俺は砂浜に上がって、テントでお昼寝タイムに入った。と、その時だった。海の方から大きな声が聞こえた。

「大変だ! 子どもが波にさらわれた!」


俺はその声で飛び起きた。浩二が泣いている。

「ママー、お兄ちゃんが流されちゃったよー」

妻に必死で訴えていた!


まさか、ウソだろ? 確かに裕太の姿が見えない。妻が海に向かって、裕太を大声で呼んでいる。パニック状態だ。


俺は夢中になって海に入って行った。裕太、待ってろ! 俺が助けてやるからな!


しかし、子犬の俺ではどうにもならない。溺れてしまった。


ちくしょう、俺は、何て無力なんだ。人間時代も家族を幸せにする事が出来なくて、犬になっても裕太を救う事さえできない。ゴメンな、こんな父親で本当にゴメンな……

妻と浩二にもすまない……


海の中で薄れていく意識の片隅で、妻と裕太と浩二に謝ることしかできなかった。その時、あの人物が現れた。


「セイヤよ残念だが、裕太君は海難事故で亡くなる運命が決まっていた。ワシもそれを知った時は辛かった。あの世会議で決まってしまったんだ……」


俺は懇願した、

「閻魔大王様、俺は地獄でもどこでも行きます。だから、裕太を助けて下さい。裕太を失ったら妻が生きていけません。俺を身代わりにして下さい! お願いします」


閻魔大王様は溜息をついて、

「ワシも君に課せられた運命を呪ったよ。だがな、しかしな……」


閻魔大王様は、鬼の形相になって、

「では、覚悟はいいか? 想像を絶する世界が待っているぞ」


覚悟? どういう意味だ?


「この紙を見ろ。これは君が砂浜で見つけた箱の中に入っていたものだ」


確かに紙切れが入った箱を砂浜で見つけたが、白紙だった。しかし、今、俺の意識の中にある紙切れには文字が書いている!


「織田信長を救え」

と書いていた。


何の事だ? 織田信長ってあの歴史上の人物か?


閻魔大王様は厳しい口調で、

「織田信長をあの世に呼ぶなという指令が出ているんじゃ。織田信長の命を救えたら、裕太君もあの世会議で助けられるだろう。今からセイヤは戦国時代の本能寺に飛ばすぞ! 頑張れよ」


ちょっと待って下さい! 状況が理解できません。と言おうとしたら、閻魔大王様は消えてしまって、俺の意識もなくなった。


「おい、犬。どうしたんだ、生きてるか?」

この声で、目が覚めた。目の前にいる人物は、まげを結っており昔の服を着ている。ん? ここは京都か? 時代劇の撮影でもしているのか?


俺はキョトンとしていると、もう1人やって来た。この人物もサムライのような姿をしている。

「信長様、どうされましたか?」


その人物は確かにそう言った!


信長様? まさか、あの有名な戦国時代の武将、織田信長なのか!

そう言えば、歴史の教科書で見た肖像画と似ている。


閻魔大王様が言っていた通り、俺は本当に戦国時代に飛ばされたのか。という事は、ここは本能寺なのか。

確か、閻魔大王様は織田信長の命を救えと言っていたな。それができたら、裕太を助けるとも言っていた。


まだ頭が整理できていないが、俺は閻魔大王様を信じる! それしか裕太を助ける術がないのならば。


ここが本能寺なのか。史実である本能寺の変の舞台なのか。俺は学生時代は、日本史は得意だった。まさか、有名な歴史の一コマに立ち会えるとは。


呑気な事を言っている場合じゃない。史実では、誰もが知るとおり、織田信長は本能寺で明智光秀のクーデターにより急襲され、討たれるはずだ。


あの世会議の指令で、織田信長を呼ぶなっていっても、どうすればいいんだ?


俺の混乱をよそに、織田信長は、

「なかなか可愛い犬だな。旅のお供にしてやろう」

俺を撫でてくれた。俺がホトトギスなら、鳴かなかったら殺してしまえ! だったかな。


何とか、俺は織田信長の近くで居場所を確保できた。しかし、俺の仕事はこれからだ。裕太を助けるためだったら、俺はどんな十字架でも背負う覚悟だ!

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