それでもあいつは徒歩で来た
いつも遊ぶメンバーの中に、一人、どこに行くにしても徒歩で来る奴がいる。
元々、彼がそんなにアウトドアな性格ではないことは俺らも知っていた。
だけど、本人にとってそれはあまり関係ないらしい。
本人曰く、何か一つの発見をしても、自転車やバスでは見る時間は少なくなる。
もう一度戻った時にはすでにその風景は消えているかもしれない。
それを逃さないために徒歩で来ているのだと。
それを裏付ける証拠と言えるのか、学生時代の彼はずっと空や木を見つめていたらしい。
雨の日でも、背筋が凍る寒さの日も、彼は一度も制服の防寒対策を施すことのなく、卒業したらしい。
風の子とは彼のことを指すのかもしれない。
一緒に遊ぶメンバーが増えても彼のスタンスは変わることはなかった。
彼が発見に熱中し過ぎて、遅刻することもあった。
天然なことも相まって、彼がどんな時でも笑顔で謝っているのが、余計に周りの反感を買っているのではないかと気になり始めた。
ある日、例の彼はまた遅れ、いつものように遊んだ後、俺らはある飲み屋に入った。
もう皆疲れた様子で半分気が抜けた感じで話していたんだけど、例の彼が急にシラフになって。
今日はごめん、と言った。
意外と真面目な顔して、雰囲気は一瞬お化けが通ったみたいになったけど、彼は言葉を続けて謝った。
彼は彼で、遅れたことを申し訳なく思っていたようだ。
それを面白がって笑った奴がいたおかげで、その場の雰囲気は良くなった。
後で話を聞いてみると、能天気な彼でもよく感情が交錯するというか、皆の感情が溢れ出すオーラのように見える時が見えるらしい。
オーラは色だったり、形だったり、オーラの細かな線の速さだったりその時によって違うんだと。
そしてそれが起こるのは、大抵喋っている最中だったり、気持ちが高ぶっている最中で、見えるのは嫌悪や憎悪など負の感情、だから、ハイになっていたテンションがそれで一気に滑落すると言う。
実はその現象が嫌になって、人と話したくない時期があったらしい。
彼の話はにわかには信じがたいが、そんな経験していればそりゃ不思議な人間になるな、と、どこかで納得していた。
帰る間際になって、彼はらしくもなく、ずっと遊んでくれてありがとう、お前がいなかったら今の俺は存在しないかもしれない。と恥ずかしいセリフを顔色一つ変えず言った。
俺には到底言えないと思った。
思わず笑ってしまった。
これだから俺は、いつまでも彼を嫌いになれない。