創造性トライアル Part3
「……でも、思ったように描けなくて、それが頭に残ったまま練習して、落ちて怪我をしたんです。自分がこんなにも脆い人間だとは思いませんでした」
俺は杖をギュッと握った。
「これはその時に買ったものです。ひどい腰の打ち方をして一生治らない怪我を背負うことになってしまいました」
老婆はその子供から目を離さずに言った。
「あなたに何があったのかは詳しくことは知らない。けど、絵を貰ったその子は望んであなたに書いてもらった、そうでしょ?」
俺は下を向いて考えた。
そういえば絵をあげた時、少女はどんな顔をしていただろう?
「世の中ね、結果や物そのものばかりが価値になるわけではないのよ。貰った人がどんな心情だったか、どれだけ心に残っているのか。それがきっと大事なんじゃないかしら」
難しい問いだった。
俺はたしかに実力主義かもしれないが、それは決して俺自身の意思ではなくそうしなければいけないと思ってきたからだ。
俺にそんなことができるだろうか。
「だからね、頑張りなさい。何かを成し遂げるより、何か一つ続けることの方が偉い時だってあるの。年寄りが言うと説得力増すかしら」
老婆はフフフと笑うと俺が口を開ける前にどこかに行ってしまっていた。
数年後、俺は前よりも小さなものだがサーカスを作った。
杖をつくのは治っていなかったが、今は沢山の弟子ができたために俺の意思を受け継いでやってもらっている。
俺がやることといえば最後お客さんに感謝の述べることだけだ。
俺の描く絵をせがんでくれた少女の存在だけは今でも忘れない。