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8話:【魔王】プロキオン・レリック

 飯を食べて仮眠をとったが、よくは眠れなかった。

 

 結局2、3時間ほどで目が覚めた。


 俺は『ノルン教』の教会へ向かうことにした。

 神頼みでもしようかと考えたのだ。

 


 『ノルン教』はこの世界を今の形に整えた大いなる父祖、創造神ノルンを奉じる宗教だ。


 俺の出身であるノルンフロー聖教国が発祥とされている。

 世界の各地で信仰されている宗教の総本山という事もあって、聖教国は大陸でも絶大な影響力を持っていた。



 教会の礼拝堂に行ってみるが、信徒や【司祭】どころか、人っ子一人いない。


 ビギニンの街の人々の信仰心の無さに思わず眉を顰める。

 が、よく考えずとも、今は夜中だ


 人がいないのも当たり前である。

 というか、教会自体が閉まっていてもおかしくはなかった。


 夜でも教会が解放されている。

 その事実は、ビギニンの治安の良さを示していた。


 教会に来るのはいつ以来だろうと、俺は考える。

 大体1年ぶりだと結論が出た。



 【職決めの儀式】を終えて以降、俺は教会に徐々に足を運ばなくなっていた。

 それ以前はたとえ礼拝日でなくても、数日に一度は教会を訪ね、ノルンに祈りを捧げていたのだが。


 当時を振り返ると、嘗ての俺は、中々に敬虔な信徒といえたのではないだろうか。


 熱心に祈る俺の姿を見た最寄りの教会の【司祭】が冗談交じりに、「ノルン教の【司祭】になったら、うちに来なさい」と言ってくれていたのを思い出す。


 ………いや。


 実際、エリュシオン学園の教師たちの一部は、ノルン教に携わる者の最上級職、【元老院】を俺が授かるのを期待していた。


 俺自身も満更ではなかった。


 俺は文武の両方で神童だったが、才能の天秤はどちらかと言えば武の方に傾いていた。


 その為、【聖騎士】や【竜騎士】。


 或いは文武の両方が要求される【大魔法使い】や【賢者】の方が向いている気がしていた。


 ただ。

 神が望むのならば、ノルン教の仕事に携わるのも悪くはないとも思っていた。



 ………まあ、結果は周知の通りだが。



 俺は礼拝堂の内部に設置されたベンチに座り、昔のように熱心に祈るわけでもなく、かといって神に文句を言うわけでもなくただ、ぼうっとしていた。


 一時間、二時間と時だけが過ぎていく。

 そろそろ、シンティア達の集合場所である門前に向かった方が良いだろう。



 ……そういえば、神頼みに来たんだった。


 

 折角来たのだから、最初の目的くらいは果たすべきだろう。

 俺はベンチから立ち上がり、礼拝堂の前に進む。



 

 ――――どうか、シンティア達を魔王に勝たせてやってください。



 跪き瞑目して、ノルンに祈る。

 その願いが神に届いたかどうかは明らかではない。



「おや。まだ誰かいらっしゃったのですか?」


 後ろから声をかけられ、俺はその方向を振り返った。


 教会を管理する【司祭】の方だろう。

 蝋燭の明かりを持ったパジャマ姿の壮年の男性が、穏やかな微笑を浮かべて入口の付近に立っていた。


「夜分に失礼いたします」

「構いません。神の家はいつも開かれています」


 言いながら【司祭】は俺の方に近づいてきた。


「何かお悩みがあるのですか?」

「そう、見えますか?」

「こんな夜更けに教会を尋ねる方に悩みが無い方がいますか?」


 そりゃ、そうですな。

 ぐうの出も出ない正論に俺は頷いて同意した。


 それに、と【司祭】は続ける。


「貴方はとても深刻な顔をしていらっしゃる。神に何かを問いたげだ。……どうでしょう?ここは創造神ノルン様の家です。常ならば言いづらい悩みも、神が見守るここでなら告白できるのでは?」

「ありがとうございます。ですが、今日はこの後予定が入っているので」

「そうですか……」


 本当だった。

 教会で時間を潰しすぎた。


 親切心を袖にするようで、やや心苦しい。

 だから、俺は顔に笑みを浮かべながら言った。


「大丈夫です。【司祭】様。もしかしたら、今日で悩みは終わるかもしれませんので」



 それが、どんな結果になるのかはわからないけれど。





 シンティアと合流した俺たちは馬車にのり、ビギニンの東にあるという砦を目指した。馬車はビギニンの領主が用意してくれたらしい。ありがたい。


 戦いの場所である砦は、ビギニンから馬で約2時間ほどのところにあった。


 平原の真ん中にぽつんと立つその砦は、数百年前に森から集団でやってくる虫型のモンスターを監視するために建造されたそうだが、肝心の森は200年ほど前に酷い山火事で殆どが燃えてしまった。それにより、件のモンスターも一匹残らず燃え死んだらしく、砦の意味も同時に消失。


 最終的に砦は廃棄され、今では誰も寄り付かないらしい。


 近くには村もなく、誰も住んでいない。

 よって、被害の心配をせず済む。戦いの場に相応しいだろう。



 暗闇での戦いは不利なので、俺とシンティアは魔法ライトで砦のあちこちに光源を設置する。そして、3人で砦の門の前で【魔王】プロキオンの到着を待った。


 その間、俺は気になっていたことをシンティアに質問した。


「なあ、シンティア。どうして、俺がビギニンにいるって分かったんだ?」


「ああ、それですか。単純です。人に聞いたんですよ。サンドッグ家のハッシュレイドって、……覚えてます?」


 そいつの顔は、すぐに思い出せた。


 【職決めの儀式】直前、一方的に「私を君の部下にしてくれ!」と無理に約束をさせた挙句、その後「あんな男の下に着こうなどと考えていた自分が恥ずかしい」とこれ見よがしに言ってきた、柔軟な手のひらを持った美男子だ。


「ああ、アイツか。何してるんだ、アイツ?」


「【聖騎士】ですよ。1か月前、地方での任務の最中に貴方があの酒場に入っていくのを見たそうです。実は、ラル様を警護する騎士たちの小隊の一員に選ばれていました。前の街まで一緒だったんですよ」


「へえ、なるほどな。アイツ、どうだった?」


「相変わらずです。【勇者】の私に露骨に媚びをうっていましたよ」


「うーーん。なんで奴が【聖騎士】に選ばれたんだ?あれって際立った剣の才能も必要だが、それ以上に、高い正義感や道徳観を持ってないとなれない筈じゃなかったか?」



 そんな雑談に興じていると、ラルが呟いた。


「おい、来たぞ」


 その言葉と共に、シンティアがラルの周りに半球状の結界を貼る。


 ラルの身を守るためだ。だったら、砦の奥にでもラルを隠せばいいじゃないかと、疑問に思うかもしれない。


 しかし、それは悪手だ。


 【魔王】プロキオンはモンスターを操る特異な魔法を使う。マンティコアにビギニンの街を襲わせたのが、いい例だ。


 俺たちがプロキオンと戦っている間に、ラルがモンスターに殺されない保証は何処にもない。結局、俺たちの眼の届くところに彼女を置くのが一番安全だ。



 暗がりで良く見えないが、目を凝らすと、輝く星々を背にして、一人の男が砦まで歩いてきているのが分かった。


 ……明朝って言ったのに、日の出より結構早く来たな。

 デートでは、待ち合わせの30分前に来るタイプだろうな。


 というか、意外にも【魔王】の移動手段は徒歩だった。


 いや、別に馬に跨って来られても、それはそれでシュールな光景で困るんだが。こう、飛竜に乗って天から降りて来るとか、空間を裂いて突然現れるとか、【魔王】らしい現れ方はないものか。



 《ライト》の白色の光が魔王の身体を照らす。


 2本の角に4本の腕。

 そして死人のような青色の肌。

 体躯は俺より頭2つ分は大きく、筋肉が盛り上がっていた。


 噂通りの容姿だ。


 ただ、意外にもプロキオンは理知的な顔立ちをしていた。

 もっと、怪物的な恐ろしい顔を予想していたのだが。


 服装も防具ではなく、貴族的なタキシードだった。

 プロキオンの容姿に合わせて、上着の袖が4つに分かれてはいたが。


 念のため、俺は心の内で《ジョブ・オープン》と呟く。

 プロキオンの頭上あたりに、俺だけに見える四角の板が現れる。



 そこにはこう書いてあった。




     プロキオン・レリック (ジョブ):魔王




 目の前のプロキオンが、魔法か何かで創った人形、或いは自分そっくりに整形したモンスターを遠隔から操っているという線は、これで消え去った。生身の肉体でないと《ジョブ・オープン》の魔法は発動しない。


 また、期せずして【魔王】のフルネームが明らかになる。



 プロキオンは、ラル、シンティア、俺の順に顔を確認し、満足げに頷いた。


「うむ、いい面構えだ。実に強そうではないか。強敵との戦いは吾輩の人生で、最大の楽しみでな。一応聞いておこう。そこの【巫女】、【不死王】を封ずるホルストの血族を、吾輩に渡す気はないか?さすれば、お前たちの命は助けようぞ」


「冗談も休み休み言え、【魔王】プロキオン。貴様にラル様は渡さん!ここで貴様は終わりだ!」


 シンティアが吠えた。


 それに【魔王】はにやりと笑った。


「その意気やよし!ならば、名乗ろう!我が名は【魔王】プロキオン!」


 獣のように歯を剥き出しにして、プロキオンは笑った。鋭く尖った犬歯が露になる。


 【魔王】はその4本の腕を広げた。

 その身体から、粘つく重油にも似たどす黒い魔力が漏れ出す。


 その圧と氷のような冷たさで、否が応でも理解する。

 この男はやはり、200年の時を生きる【魔王】なのだと。幾多の村や町を襲い、人々を殺した人類の敵なのだと。



「さあ、【勇者】たちよ。貴様たちの覚悟を!力を!この世界で生きる意味を!この吾輩に示してみろ!」


 シンティアが背の長剣を抜く。


 小柄の彼女にはややサイズの合っていないその剣は、聖都の城の宝物庫で長年眠っていた伝説の武具が一つ。


 【勇者】の【(ジョブ)】にしか抜けないとされる、聖剣グラム。

 それを携えて、シンティアはプロキオンに挑みかかる。


 対して、俺は僅かに出遅れていた。

 【魔王】の放った言葉が楔となって、俺の足を大地に縫い留めたのだ。



 生きる意味、だと―――?


 そんなものはありはしない。

 神は俺にそれを授けてはくれなかった。

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