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5話:モンスター襲来

 【魔王】プロキオン。


 姿を実際に見た事は無いものの、その名前と姿はとても有名だ。


 なんでも、2対の角に同じく2対の腕を持つ、青色の肌の巨漢らしい。【魔王の加護】は身体を異形の姿へと変えてしまう。まあ、そこは個体差が激しいらしいが。


 【魔王の加護】の魔力と身体能力の補正効果は【勇者】に匹敵すると言われ、また同じくらい滅多に授かることはない。更に、寿命が大幅に伸びるといった、【勇者】にはない有益な効果もある。


 しかし、【魔王】の【職】は勇者と違い人々には忌み嫌われていた。

 

 それは、【魔王】の【職】を持つ者は、程度の差はあれど、例外なく人類に対して敵対行動をとる事が原因だ。歴史を見てもそうだし、現在世界で確認されている5人の【魔王】も危険な存在として各国に認識されている。


 プロキオンは、その中でも特に好戦的な【魔王】として知られている。

 大陸を気ままに旅しながら、目についた村や町をかたっぱしから襲っていくそうだ。

 この200年、彼はそんな行動をずっと繰り返している。


 


「彼の目的は不死王の封印を解き、世界を混沌に陥れる事です。かつての屍大戦を再び起こす気なのでしょう。お願いします、ハイト。どうか私たちに力を貸してください。神童と呼ばれた貴方の力を」


 俺は一度瞼を閉じた。

 2秒ほど、考え込む。


 なにせ、相手は200年もの間、誰にも倒されずに君臨してきた【魔王】だ。


 最悪、どころか結構な確率で死ぬかもしれない。

 それを十分認識した上で俺は言った。


「分かった。引き受けよう」

「ありがとうございます。貴方ならきっと引き受けてくれると思っていました。やはり貴方は私の英雄ですね」


 シンティアは微笑んだ。

 ラルは何故か、眉間に皺を寄せた。


「ああ、謝礼はちゃんと頼むぞ」

「ええ、全てが終わった際には勿論。…さて、私たちは一度宿に戻ろうと考えています」

「分かった。もう夜も遅いしな。宿まで送るよ。ここら辺の道は入り組んでいるから」



 俺は今後の予定をシンティアと確認しながら、宿屋まで彼女たちを送る。


 街で一番高い宿屋だった。

 煌びやかさが眩しい。

 今の俺には縁遠い輝きだった。


 流石に重大な任務を背負っているだけあって、国からたんまり路銀を貰っているのだろう。


 この分なら、報奨金も弾ませて貰えそうだ。

 勿論生きて帰れたら、の話だが。



 翌朝。

 ビギニンの正門近くで俺たちは待ち合わせていた。

 ラルはいたものの、シンティアの姿はない。

 

「シンティアはどうしました?」

「……お手洗い」


 それは失礼。

 お互い無言で同じ方向を向いて並び、シンティアが帰ってくるのを待つ。


「正直に言う」


 ふいにラルが口を開いた。


「はい?何でしょうか?」


 俺はラルの方に顔を向ける。

 が、彼女は目を合わせようとはしなかった。


 嫌われてるのか?


「気づいているかもしれないが、私はお前を信用してはいない」


 本当に嫌われてるようだ。


「……おい。人格面の話じゃないぞ。それについては、奴から散々聞いたからな。お前の名前を聞くと気分が嫌になる程に。だから、そこは、まあ大丈夫だろう」


 おお、それは良かった。

 常にしかめっ面で、口調もずっとぶっきら棒だから感情が逆に読みにくい。


 というか、嫌になる程俺の話を聞かされた?

 シンティア、お前は一体何をしているんだ。


「ただ、私はお前が【魔王】との戦いで足手纏いにならないか心配している。いや、それならまだいい。私と奴が迷惑をこうむるだけだからな。だが、万が一血を流したり…」


「死なれるのは困りますか?」


「……ああ、そうだ。甘いだろうがーー」


 ラルの言葉の続きを聞くことはできなかった。

 彼女の声に被せるように、ガンガンガン!と高台の鐘が叩かれたからだ。


 日に何度かある時報ではない。

 モンスターの襲来だ。


「なんだ?」

「モンスターです。門が降ります。離れましょう」


 俺は門から離れながら、その向こう側にある平原を見る。

 一匹の真っ赤なモンスターが街に向かって駆けていた。


 サイズこそずっと大きいが、体つき時代は獅子に似ている。

 しかし、顔は獣のそれではなく人間の老人だった。



 あれはーー。


「マンティコアだ!なんでこんな平原の街に!?」


 俺の疑問に答えるように、衛兵の一人が叫ぶ。

 甲高いそれは、悲鳴に近かった。

 


「見張りは何やってたんだ!?」

「早く門を降ろせ!急げ!入ってくるぞ!」


 やがて、鉄製の門が重苦しい音を立てながら降りてくる。

 しかし、降りきる直前に、一匹の巨大な影が滑るように内側に入り込んできた。


 ガッ!とマンティコアの尾が降りてくる門に掠る音がした。


 後、コンマ一秒の時間さえあれば、門は正しく機能してマンティコアが街に入ることを阻止できただろう。


 しかし、仮定に意味はない。

 現実として、マンティコアは街の中に入ってしまった。


「まずい!はいってきたぞ!」

「逃げろ!逃げろ!」

「うわああああ!」


 マンティコアが咆哮する。

 人間のような顔だが、その声は完全に獣のそれだった。


 街はパニックになった。

 我先に、とマンティコアから人々は逃げていく。

 

 俺もラルの手をとって、マンティコアから距離をとった。


「ハイト!」


 人々の流れに逆行するようにシンティアがこちらに走ってきた。


「とりあえず【巫女】さんを、安全な所まで避難させてやれ」

「分かりました」


 住民には悪いが、ラルの安全が第一だ。

 


「ここは俺たちに任せろ!」

「戦えない奴は下がってくれ!」


 黒いローブを纏った男と、2本の剣を腰に佩いた男が、声を張り上げながらマンティコアに向かっていく。


 衛兵には見えない。

 街に滞在していた冒険者だろう。

 

 【魔法使い】と【双剣士】のコンピだった。

 それなりの修羅場をくぐってきたのか、装備は使い込まれている。


「《ワインド・テンペスト》!」


 魔法使いが『魔法』を放つ。


 人は誰しも、大なり小なり魔力を持つ。

 その魔力を現象として外界に放つ事を『魔法』と呼ぶ。

 

 『魔法』によって生み出された竜巻がマンティコアを襲う。

 竜巻は多量の砂を巻き込んでいた。結果、目くらましとして機能する。


 間髪入れず、側面から【剣士】が襲い掛かった。 

 


「食らえ!《比翼斬》!」


 

 比翼の鳥の羽ばたきのような、美しい双剣の斬撃。大地から大空に向かって繰り出されるそれは、マンティコアを捉えた。


 今のは『特技』だ。

 『魔法』が魔力を外界に出力するのならば、『特技』は魔力を己の内側に対して使用していると言える。


 先ほど【双剣士】が繰り出した《比翼斬》の威力は【加護】の上限を明らかに超えていた。『特技』によって、一時的に身体能力が強化されたのだ。



 『魔法』も『特技』も、【職】によって覚えられるものが決まっている。【剣士】が『魔法』を覚える事はできないし、逆に【魔法使い】が【剣士】の『特技』を覚える事はできない。

 


 よって、冒険者はチームを組んでお互いの長所を生かし合い、短所を打ち消す。


 あの2人も中々、いいコンビネーションだった。

 

 しかし、浅かった。


 マンティコアが苦悶の声をあげながら、【双剣士】を睨む。


 マンティコアの死角に微妙ではあるが、入りきれていなかったのだ。マンティコアは顔面が人間に近いだけあって、視野もそれに順じている。肉食の獣よりも、視界が横に広いのだ。


マンティコアは身体は捻ることによって、《比翼斬》の威力を殺していた。【双剣士】の斬撃はマンティコアの肉を切り裂きはしたものの、骨までは絶てなかった。


 マンティコアは【双剣士】に向かって、腕を振るう。

 巨体から繰り出された一撃をまともに食らい、【双剣士】は吹っ飛んだ。


「がはああっ!?」


 【剣士】の身体はなんと俺の所に転がってきた。


 相棒の【魔法使い】が悲鳴をあげた。


「なっ!レックスが!?【双剣王】だぞ、アイツは!?」


 期せずして、【双剣士】の男の名前が判明する。

 そして、【双剣士】ではなく上級職の【双剣王】だったか。


 レックスは才に溢れているんだな。

 【剣士】の上位互換である【双剣王】は、それだけ才能と努力をノルンに認められた証だ。


 マンティコアは唸り声をあげながら、地面に転がるレックス、そしてすぐ側にいる俺を見てきた。次の標的を俺に定めたらしい。


 こうなっては仕方がない。

 ここらで、自分自身の錆落としをしておくのもいいだろう。


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