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24話:【不死王】オルファン

 長い階段を下りきる。

 俺たちがたどり着いた場所。


 そこは、鉄さび匂いで満ちたドーム状の赤い空間だった。その赤は、きっと過去の【巫女】たちの血肉であり、魂の欠片だろう。


 幾つもの死体が床に転がっていた。何百人もの死体が折り重なり、まるで丘のようになっている。不思議と腐臭は感じなかった。


 彼らは過去にオルファンに挑んだ者たちだろう。封印されたオルファンを倒そうと考えたのは、何も俺たちが最初ではない。あらゆる時代、数えきれない人々がそれを為そうとし、失敗してきた。


 そんな死体の丘の頂上に。


「……奴か」


 ボロ衣を纏った白髪の男が蹲っていた。


「ジョブオープン」


 オルファン・エヴァ―ド (ジョブ):不死王


 かつて世界を屍で満たそうとした、人類の敵がそこにいた。オルファンは下を向いたままぴくりとも動かない。


 不気味なまでの沈黙が流れる。

 数秒にも数分にも感じられる静寂。


 そして。

 ゆっくりと。


 彼は顔を上げた。


 端正な顔だちをしていた。外見の年齢は20の半ばあたりか。肌が死人のように白いのは、もう何百年も陽の光に当たっていないからだろう。腰には装飾の無い武骨な剣を差していた。



「あ」


 オルファンの唇から声が漏れる。何百年もの間、声を発していない掠れしわがれた声。


「あ、ああああああああああああああああああああaaaaaaa!!」


 それは言葉にもならぬ獣のような絶叫。


 とうに正気を失っていた。

 とうに狂っていた。


品位を無くし、言葉も忘れ、最後には理性すらも消えさった。


 ―――――これが世界を破滅させようとした男の成れの果て。


最早哀れさすら感じさせる。

ここまで堕ちても死ねないのか。


その【(ジョブ)】は安息すら許さないのか。


 オルファンの叫びに呼応したように、周囲の死体たちが蠢き始める。あとで吊るされた人形の様に歪な動作で、死体たちは立ち上がっていく。


「死体たちが!?」

「これが【不死王】の力、か……」

 

 ルーク・へブレス 職:ゾンビ

 アゼナト・ケノール 職:ゾンビ

 ハスティン・ワークス 職:ゾンビ

 アンナ・ウーゼル 職:ゾンビ

 ナラム・ロッカーダイン 職:ゾンビ………。


 ジョブオープンで視てみたが、どいつこもこいつもゾンビ、ゾンビ、ゾンビだ。死の後に、オルファンによって【職:ゾンビ】に変えられた憐れな者たち。その数、少なく見積もっても数百体。それを前にして、俺は口の端を釣り上げる。


「大した数だが、この神童相手にはすこし数が不足なんじゃないか?」


 そう言った次の瞬間、


 ボゴ、ボゴ、ボゴォ!

 土中からゾンビ兵が這い出てきた。その数、数百。合計で千体はいる。


 数が不足とは流石に言えない。

 

「………いいだろう」


 俺たちは剣を構えた。


 死者を操る、不死身の王。その伝説を、今日殺す。


「………行くぞ、シンティア」

「ええ」


 オルファンは緩慢な動作で腕を掲げた。

 そして俺たちは死者の軍勢目掛けて駆けだした。



 何よりも物量が問題だった。


 こちらはシンティアと俺の2人だけ。

 対するオルファンは、何百人ものゾンビ兵を操っている。



 大規模な魔法を放って一網打尽にしたいところだが、断続的に押し寄せるゾンビ兵たちに妨害されて、その隙を中々生み出せない。


 そもそも、此処は地下だ。

 下手に威力の高い魔法を放てば、オルファンやゾンビ兵と共にそのまま生き埋めになる可能性も否定できなかった。


 いや、生き埋めになるだけなら、まだいい。犠牲者は俺とシンティアだけですむ。


 しかし、この塔を破壊した結果オルファンを封じる結界まで壊してしまえば、元も子もない。それは最悪の結末だ。よって、俺たちは魔法も禄に使用できず、白兵戦でオルファンに挑む事になった。


「くそ! 殺しても殺しても! キリがない!」


 ゾンビ兵を肩からなで斬りにしたところで、俺は思わず悪態をついた。


 このゾンビ兵を切り殺すのも、もう何度目だろうか。全身を切り刻まれ、動くたびに骨が折れる音が聞こえる。明らかに動けるような身体ではないだろうに、それでもゾンビ兵は俺たちに襲い掛かる。


「しつこいんだよ!」


 俺は声を荒らげながら、とあるゾンビ兵の頭を切り落とす。ゾンビ兵は糸の切れた人形のように、俺の足元に倒れこんだ。俺は別のゾンビ兵を切り裂きながら、やがてくるであろう復活に備えて身構える。


 が、


「あん?」

そのゾンビ兵はぴくりとも動かなかった。いつまでたっても復活しない。



「ジョブ・オープン!」


 

 俺はその躯のステータスを視ようとする―――。


「何も見えない、か」


 何の反応もなかった。

 死者のステータスは見る事はできない。


 つまり、

 

「頭を切り落とせばゾンビも殺せるって事、か?」

「いえ、それは貴方だけです!」


 背中合わせで戦う、背後のシンティアが言った。シンティアも俺を真似てゾンビ兵の頭を切り落とすが、奴らは首のない身体で構わず向かってくる。


 やはり【職】の無い俺は、相手の【加護】を無効にすることができるようだ。その後、何度か試してみたがやはり俺が致命傷を与えたゾンビは復活しない。



「……まずは第一関門突破か」


 ゾンビの【加護】を突破できるなら、オルファンのそれだって突破できる可能性は高い。勿論、絶対とはいえないが、試してみる価値は十分にあった。



 しかし、


「これでは、オルファンに辿り着つけません……!」


 シンティアの言う通りだ。状況は膠着している。俺たちは戦闘のはじめから殆ど動けず、ずっとその場でゾンビたちと戦っている。


 ゾンビ兵一体一体の力は正直大したことがない。


 動きも遅いし、身体も脆い。

 物量は問題だが、俺とシンティアならなんとか捌くことはできる。


 しかし、ゾンビ兵は幾ら切り刻まれようが殺されようが、何度でも起き上がり俺たちに襲い掛かってくる。疲れとも無縁だ。



「だが、少しずつゾンビの数は減っている」


 俺が致命傷を与えたゾンビは復活しない。よって少しずつではあるが、ゾンビ兵の数は減少していた。このまま何事もなければ、俺たちはゾンビ兵を殲滅し、オルファンのもとにたどり着けるだろう。


 この戦い、勝てるぞ。


 俺がそう思った矢先。


 

「――――ま、ほ、ウ《リ、ビ、んguデッ……と》」


 オルファンがひび割れた声で、何かを呟いた。


 すると、今まで沈黙していた俺が殺したはずのゾンビの身体がびくんと跳ねた。


 ギギギ、と壊れたゼンマイ人形のような動作で立ち上がる死体たち。俺は一応その【職】を確認するが、やはり【ゾンビ】と表記されていた。




「はっ。やってくれる」


 俺は苦く笑った。

 これで状況は振り出しだ。


 ……いや。違うな。



 俺とシンティアは戦闘の初めより明らかに消耗している。手傷こそ追っていないが、その動きは僅かに、しかし確かに精彩を欠き始めていた。


 ゆっくりと、動けない身体が指の先から鼠に齧られるように、俺たちは追い詰められていく。



 ラルは一人、封印の間へ続く階段の前で蹲っていた。

 胸の前で、手を組んだあたかも神に祈るように。


 彼女はただ、2人の帰りを待つことしかできない。


 そんな少女の耳に、誰かの声が届いた。



 ――――……ル……


 誰かが自分に囁きかけているような気がして、今代のホルストの【巫女】は顔を上げた。周囲を見回すが、誰もいない。ここにいるのは自分だけだ。


 ――――……ラル


 しかし、やはり声は聞こえる。

 幻聴なんかではない。


 その声には確かに感情が籠っていた。

 申し訳ないさ、嬉しさ、決意、といった様々な感情が乗っていた。


 だけど、それ以上に。

 ラルはその声に母の面影を感じた。未だ一度も会ったことのない、母の温もりを。


「お、かあ、さん?」


 その声は、階段の下から、正確には結界そのものから聞こえていた。


本当に長らくお待たせしました!申し訳ありません!


最終決戦のはじまりです!!

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