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2話:元神童は学園を去る

 15歳の誕生日を迎えた者。

 つまり成人となった者は【神官】の手助けの元【職決めの儀式】を行い、己の【(ジョブ)】を授かる。


 これには個人の性格や能力が反映されると言われている。

 創造神ノルンがその者の資質や努力、その時点での能力を見抜き相応しい【(ジョブ)】を授ける訳だ。


 他人よりも優秀な人間は上級の【職】に。

 劣っている人間は下級の【職】にしかつけない。


 おまけに、一度決定した【職】は原則変更することができない為、儀式の結果によって、その後の人生の殆どが決定するといっていい。


 だから、人々は16歳の【職決めの儀式】に向けて、己の能力を出来得る限り伸ばそうと考える。



 それを目的とした教育機関も多数あり、俺が通うエリュシオン学園もその一つだ。


 エリュシオン学園は良く言えば貴族的で華やか、悪く言えば差別的で傲慢な生徒が通う場所だった。具体的に言えば、金の無い平民や上級職以外の人々をあからさまに見下していた。


 エリュシオン学園に通う生徒の殆どは貴族や豪商の子弟だ。

 己の家柄や財力に自信と誇りを持つ生徒が大半を占めれば、そんな校風になるのも頷ける。


 そもそも、【職決めの儀式】に向けて、努力を重ねる事の出来る子供は、それが許されるだけの環境が必要である。毎日を生きる事で精一杯な一般の平民は【職決めの儀式】に向けて、努力を積む暇などありはしないのだ。きっとエリュシオン学園だけでなく、大抵の学園はこんな感じの雰囲気なのだろう。



 ちなみに、俺は学園でも大層珍しい平民出身だ。


 別に大商人の息子というわけでもない。

 どちらかといえば貧しいだろ家庭の出だろう。


 とてもじゃないが、エリュシオン学園に入学できる環境ではない。


 エリュシオン学園は入学試験の難易度も有名だが、学費の高さでも有名だった。


 ただ、エリュシオン学園は200名の定員の内特待生枠を5つ設けている。


 特待生枠は順位に応じて学費の免除があり、首席はなんと学費を全額免除される。


 特待生枠は1年ごとに、試験の成績よって変化するが、俺は入学から卒業までずっと首席であり続けた。俺は入学からこの方、1コルたりとも学園に払っちゃいない。


 平民出身が主席の座に座る事も初めてなら、4年連続で首席など創立者は考えもしなかっただろう。貴族や商人の子たちは、その学習環境からして平民の子どもとは大きな差がある。


主席としてエリュシオン学園にした俺に対する、貴族の子弟たちは良い反応は良い顔はしなかった。


 そりゃ、平民出身のどこの馬の骨とも分からない子供が、伝統ある学園の主席の座をもぎ取れば、誰だって癪には障るだろう。


 面と向かって暴言を吐かれたこともあるし、校舎裏に呼び出され、行ってみるとニヤニヤ笑いの貴族たちが集団で待ち構えていたこともあった。勿論返り討ちにした。



 俺は天才だった。

 神童だった。


 俺は一度も負けなかった。

 誰にだって負けなかった。


 負けないという事はそれだけで、一種のカリスマを生むのだろう。


 入学して1年がたつ頃には、俺をあからさまに罵する奴はいなくなった。


 2年が過ぎる頃には、俺に媚びた視線を送ってくる奴さえいた。



 そして、3年目。


 【職決めの儀式】で創造神ノルンは俺に何も言ってくれなかった。






 ーー【職決めの儀式】で職を授かることができない。

 こんな事は世界でも確認されている限り、前代未聞だそうだ。



 それによって俺の環境は大きく変化した。

 とても悪い方向に変化した。



 具体的に対比してみよう。



 これが【職決めの儀式】一か月前の会話。

 俺が廊下を歩くだけで、生徒たちは騒めき立つ。


「見て!ハイト様よ!今日もお見目麗しいわ!」

「学園創立以来の神童!」

「昨日の【剣王】の講師を招いての授業を見まして?」

「勿論、上級職の【剣王】と互角に打ち合っていましたね。流石は神童!」

「……実は私、卒業後に彼の元で働かせてもらえる約束を取り付けたのだ。勿論、私と彼の【職】によるが…。しかし、彼ならばまず間違いなく国の中枢に近い栄誉ある【職】を授かるだろう」

「なに!?汚いぞ、貴様!」



 そして、これが【職決めの儀式】を終えて、数日がたった後の会話。

 俺が廊下を歩くだけで、生徒たちは騒めき立つ。



「……ねえ、見て。元神童のハイトよ」

「まさか、何の【職】も得られないなんて」

「主席の座も、きっと裏で何かしらの手を回したに決まっている…!」

「この学園の恥だわ。所詮は卑しい平民ね」

「堕ちた神童か。ふん、無様なものだ。あんな男の下に着こうなどと考えていた自分が恥ずかしい」


 奇麗な手のひら返しをありがとう。



 お前らの手首の柔軟さに、俺はびっくりだよ。


 ただ、これみよがしに囁かれる陰口に対するショックは意外と小さかった。


 心のどこかで、こんなものだろうという人間に対する諦観があったのだろうか。それとも、【職決めの儀式】で何の【職】も得られなかったことによる衝撃で、諸々の感覚がマヒしていたのか。


 いや。俺という人間は元から他人からの評価に対して興味はないのだろう。


 まあ、これくらいの誹謗中傷は問題ないと言っていい。

 まだ、彼らは直接的な武力に訴えてはいない。その時はこちらも然るべき対処をさせてもらうが、……今のところはその兆候はないし、問題ないだろう。

 


 しかし、俺のこれからの進路については問題が山積みだった。


 【(ジョブ)】を得られなかったなんてことは、世界広いしといえども初めての例だ。


 俺の存在によって伝統ある学園の名誉を傷つけられたと騒ぐ教師もいるし、俺にこれまでの学費を請求しようとする案も出ているらしい。当然俺に払える金なんてない。



 そもそも、この先の身の振り方をどうする。


 俺の就職先はいまだ定まっていない。

 【(ジョブ)】がないのだ。当然だろう。


 それに、この学園は【職】を得ようとする生徒を補助する目的で設立された。【職】を授けられなかった者をいつまでも、在籍させるわけにはいかないだろう。



 俺はため息を吐きながら首を振る。気づけば、廊下を過ぎ去り中庭に出ていた。馬鹿みたいに晴れた青空だった。俺は歩きながら読んでいた本から目を離し、空を仰ぎ見る。


「どうしたもんかな……」


 

 結局、俺は卒業を前に学園を去ることに決めた。中退だ。


 教師たちもその方がいいと勧めた。半分以上は厄介払いの目的があるだろう。だが、俺の金銭的事情を心配してその提案をしてくれた人もいた。


 いつ難癖をつけられて、退学にされるかわかったものじゃない。

 退学は学費の返還を要求される。首席であってもだ。


 だから、学園側に退学にされるより前に前に自分から学園を去った。

 俺自身もこの学園でできる事はもうないと思っていた。



 何かに追われるように聖都を去り、聖教国の各地を転々とした。

 気づけば、学園を去って2年近くの時間が流れようとしていた。



タイトルが被っていることに気づきました……。

近いうちに変えると思います……。

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