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13話:ラルのこれまで

 シンティアの悲鳴のような声に、ラルは呆れたような顔をつくって突っ込んだ。


「……お前、私の生い立ちは大体知ってるだろ」


 ふむ。

 ラルの生い立ちか。


「俺は気になるな。俺はまだまだラルの事、全然知らないし」


 俺の言葉にラルは頬を掻きながら言う。


「聞いて楽しい話でもないぞ。…ド田舎の小さな村の生まれだからな。近くに学校どころか、そもそもまとも店すらない。月に一度くる行商が唯一と言っていい楽しみだった」


 それは中々辺鄙な土地で育ったようだ。


「そもそも、ラルはどこ産まれなんだ?」


「バルド王国のミトラ村」


 …答えて貰って何だが、さっぱり分からん。


 バルド王国はノルンフロー聖教国の東側に位置する国だ。

 そこまでは分かる。逆に言えば、そこまでしか分からなかった。自分の産まれた国以外の地理なんて、殆どの人間が大して知らないだろう。


 というか。


「…アンタ聖教国の産まれじゃなかったのか」


  聖教国領土内のホルスト神殿の巫女だから、てっきり産まれも聖教国だと思っていた。


「まあな。聖教国には最近来たばかりだ」


「どんな所なんだ?アンタの産まれたミトラ村って」


「どうって言われてもな。…さっきも言ったように、まともな娯楽もない小さな村だよ。住民の殆どが親の後を追って【農民】になる。偶に【剣士】とか【商人】とかが出ると、村中が騒ぎになるくらい、本当に何もない。つまらないところだ」


 そう言いながらラルは肩を竦めた。


 【職決めの儀式】は、個人の才能や能力、性格にあわせて相応しい【職】が授かる。故に人々は、儀式に向けて、出来得る限りの努力を積み、より良い【職】を授かろうと考える。しかし、実際にそんな事ができるのは、時間と金に余裕のある一部の人間だけだ。


 エリュシオン学園の生徒の殆どは商人か貴族の子弟で構成されていた。


 世界の大半の人々は【職決めの儀式】が迫っても、何の準備もできずその日を迎え、自身の親と同じように【農民】の【職】を授かるのだ。世界全体の割合的に見れば【農民】以外の【職】の方がむしろ少数派だろう。


「半年前に【巫女】に私が選ばれると、もうお祭りみたいになってたよ。あんなに皆んなが喜んでくれたのは初めてだった。別にそんなに騒ぐことじゃないのになぁ」


 その時の騒ぎを思い出したのか、ラルは苦笑した。

  何だかんだ故郷を好いているのだろう。

 ミトラ村での生活は退屈だったのかもしれないが、同時に穏やかで満ち足りたものだったのだと俺は思う。


 そういえば、


「ラルは最近まで自分がホルスト神殿の【巫女】の血族だって事を知らなかったんだよな?」


 ラルは頷く。


「ああ。母は先代の【巫女】だったんだ。大変奔放で、おまけに好奇心にあふれた人らしくてな。【巫女】の【職】を授けられてからも、聖教国中を旅してたらしい。……まあ、その旅の主な目的が男あさりだっていうのが、娘の私としては何とも反応に困るところなんだが。いや、そのお陰で私が産まれたんだから、感謝すべきなのか?」


 顎に手を当て、ラルは唸る。

 【巫女】が男あさりの旅…。


 貞操観念強い女性が選ばれるんじゃなかったのか?

 ……いや、それは【聖女】の方だった気がするな。


「その旅の中で、私の父と出会って結婚。というか、私ができてなし崩し的に結婚したらしいな。父が責任をとらされて。…ああ、父は元は西の国の出身だ。私の容姿はここらじゃ結構珍しいだろう?」


 ラルの言う通りだった。


 褐色の肌に銀の髪の組み合わせ。

 彼女の容姿は聖強国では中々見ることができない。


 異国の血が混じっていると、一目でわかる。

 きっとラルは父親の特徴を強く受け継いでいるのだろう。


「といっても、母とは産まれてから一度も会ったことがないんだがな」

「……亡くなったのか?」


 俺は声を落として言った。

 ラルは特に気にした様子も肯定する。


「ああ。私が産まれてすぐに、ホルスト神殿に【巫女】の役目を果たしに行ったらしい。そこで結界を貼り直したはいいものの、はやり病でポックリ逝ったらしい。……だから、私はつい半年まで自分を【巫女】の血族だなんて知らなかったのさ」


 それは可愛そうに。

 母親も成長する娘の顔を見たかったことだろう。


 後、こいつ年下だったのか。

 半年前に【職決めの儀式】を終えたってことは、ラルは15歳くらいだよな。


 だからなんだという話だが、歳の割に結構落ち着いて見える。


「ホルストの【巫女】は十数年おきに血族の女性から一人選ばれるらしい。詳しい条件は幾つかあるらしいが、私は覚えていない。そして、本家の血筋には上手い具合に女が産まれなかったんだと。……そうでもなきゃ、外国に住んでなお且つ役目も何も知らなかった私が、ここまで連れて来られる筈もない」


「なるほどな」


 これで、色々と謎が解けた。

 異国の血が混じっているであろうラルが、どうして500年間ずっと続く大切な儀式の【巫女】に選ばれたのか。


 そこはずっと頭にひっかかっていた。


「シンティアとの付き合いはそれからって事か?」


「ああ。聖都で【巫女】としての魔法やら特技を、まあ付け焼刃ではあるが一通り学んだんだが、その時に初めて会った」


「懐かしいですねえ」


 シンティアは感慨深げに言う。

 次いで発せられた質問は、僅かに低い声だった。


「……ラル様はどう思ってらっしゃいますか?」


「うん、何がだ?」


「ノルン様に授けられた【職】についてです。【巫女】に選ばれる事がなければ、貴女は今も故郷で穏やかに暮らしていた筈です。【巫女】の【職】を授けられたが故に、貴女は父や友人、育った土地から離れる事となった。そして、避ける事のできない役目を背負わされた。……それについてどうお考えですか?」


「まあ、な。正直最初は色々と思ったが。今は仕方ないと、これが私の役目であり生きる意味なんだと、受け入れているよ」


 そう、ラルは微笑した。


「そう、ですか」


 シンティアはそれきり、その話題には触れなかった。 


 【職】を授けられたが故の悩み、か。

 俺には縁の無い話だな。

申し訳ありません。

区切りの問題で、今回はかなり短いです。

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