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助けてくれませんか?



取り敢えず、状況だけは理解した裕也は次いで質問をする。

「次の質問には誤魔化さずに答えて欲しいんだけど、なんでお偉いさんに会いたいんだ?」

「それは・・・」

言葉を濁す。重要な事なのかそれとも一般人には言えない事なのか?と考えるが意を決した顔を向けて来るメアリーをみて考えを捨てる。


「この世界でも異世界の事を知っている人間は少なからずいるの。それはどの世界でも王族や権力者が秘匿しているのが常識だからよ。」

「秘匿している理由は?」

「それは言えない。と言うより私自身もそこまで情報を持ってるわけじゃないの。ただ、私にはもうこれしか方法が無いのは間違いない。」


裕也には次から次に質問したい事が頭の中にあった。しかし、メアリーの切羽詰まった顔を見て、最後の質問にしようと決める。


「次が最後の質問。メアリーは時間が過ぎるとどうなるの?」




「存在が消えて無くなってしまう。」

酷く頭に残る声音で、聞こえたその言葉は裕也の胸にストンと落ち、決意させるだけの意味を持つ。


「この世界にとって私は異物でしか無い。それを排除しようとする世界の理には私みたいな小さな存在は抗う事は出来ないの。」

「そっか。まだ聞きたい事沢山あるけど、取り敢えずそれで良いや。それで一番有力なのは総理か?」

永田町の方向を向く。(目の前は壁だが。)そしてよし。と言い


「ちょっと作戦があるんだが?」


ニヤリと口元を歪めてメアリーに話しかけた。






金髪のセミロングの髪を靡かせ、白いノースリーブの服と黒の長ズボンを履く人物が歩道を歩く。その異様さは人目に付きやすく、通行人が二度見する程だ。


青い瞳と相まって日本ではまず見慣れない格好をしたその人物を通行人は恐ろしげに見つめる。


裕也の作戦とは

詰まる所変装だ。本当はメアリーだけを変装させるつもりだった。女性が男装していればまず間違いなく敵を欺けると考えたのだ。そこまでは良かった。しかし、メアリー曰く裕也も抹殺の対象になっていると言うのだ。メアリーだけのつもりだった裕也は断固拒否していたが、裕也が殺されてしまえば巻き込んだ自分が責任を感じてしまうと言うのだから折れるしかなかった。


「だからってこの格好じゃ悪目立ちしちまうじゃねぇか!」


流石に女性物の服を調達するリスクを考えればカツラとカラーコンタクトを買ったほうがリスクは低い。それに裕也でも買える。悪目立ちも目的が目的なので問題ないのだが、通行人からは恐ろしげに見られると共に女装癖のある変態として認識されている事に裕也は気付いていない。


「つうか服がメアリーのだからなんか恥ずいわ。」

というより背丈がピッタリなのには裕也も男として肩を落として然るべきなのだが。


少し俯き遠目からならメアリーに見えるように歩く。あの黒服の男達をこちらに引き付けられればメアリーが動きやすくなる、そう考えて変装をやるならメアリーに似せる事にした。


「メアリーの心配より自分の心配だな。よし!作戦開始だ。」

頬をパシンと叩き気合を入れる。メアリーの目的の場所は永田町の国会議事堂或いは皇居。ならば自分の役目は陽動だろうと考えた。メアリーは危険だと言っていたが、自分の地元だ。地理はこちらが有利の筈。それに裕也には一つだけ特技がある。背が低い事が自身の劣等感を助長させているが、その背の低さのお陰で、身軽な動きが出来る。


その身軽さで三階程の建物ならば突起物を足場に登ることも出来る。これを使えば時間は稼げるだろうと思っていた。


後は作戦通り目立つだけ目立って黒服の男達の注意をこちらに向ければいい。


一番居そうな場所と言えばやはり永田町だろうか?と考え女装した格好のまま永田町を目指し走り出す。何故走るかって?恥ずかしいからに決まってるじゃないか!




もう後1キロ弱で国会議事堂に着いてしまう。だが、黒服の男達には会う事もなかった。裕也にとってそれは不安になる事柄だった。


「まさか総理じゃなくて天皇?もしかしたらそれ以外の人物?」

そもそも、黒服の男達がメアリーを狙うのは話を聞いて分かる。お偉いさんを手に掛ける理由も分かる。だけど、異世界大戦を起こそうとする奴らがそんな安直に行動するのか?


・・・違う。前提が間違ってるんだ。異世界大戦を始めるにしても、まずは、この世界の人間が異世界の存在を知る必要がある。なら、手っ取り早い方法は?


「実際に異世界から来た人間を全員が見てる目の前で存在が消える光景を見せてやればいい。」

そうする事で、異世界の事も信憑性が増す筈。


「くそっ!メアリーを一人にするべきじゃなかった!」

裕也は悪態を吐くと元来た道を引き返す。なりふり構っている場合ではない。通行人が裕也の気迫に驚き道を開けるのを利用して先程よりも早く走る。


パァン!と乾いた音が街中に響き渡る。裕也の足元のコンクリートが弾け飛ぶ。


「なっ!」

今のは銃?けどどっから?

どこから飛んで来たのかわからない。突然の事だし、何より今はメアリーの方が危険な可能性があるからだ。


「よう、小僧。女装は楽しいかい?」

クックックッと笑いながら登場するガタイのいい坊主のおっさん。

手には拳銃が握られている。


「おいおい、善良な一般人に向けて銃撃つとか正気かよ。」

「なんだこの世界にも銃はあんのか。誰も持ってないみたいだから知らないもんだと思ってたんだがな。まあいい、てめぇはあの女と一緒にいたガキだろう?奴はどこ行った?」


『なんだ?メアリーの行き先が分からねえのか?』

「教えると思うか?」

『路地裏をショートカットしてて良かった。拓けた場所じゃなきゃ弾除けは出来る・・・筈』


「そうかい。別に良いんだがな。奴を捕まえるなら転移装置を見張れば良いだけだしな。時間制限タイムリミットは後三時間程だ。必ずそこに現れる筈さ。」


『やっぱり捕まえるのが目的か。』

「そんじゃ、俺は見逃してくれんのか?」

「バカ言うなよ。計画を知られたんだ、はいそうですかで見逃せるわけねえだろ?」


『ですよねー、理解してたとも。なら!』

「逃げるが勝ちってね!」


踵を返し、路地裏の曲がり角を曲がる。パァンと乾いた音が響くが、なんとか当たらずに済んだ。


裕也は曲がると、直ぐに建物の突起物を利用して壁を登る。タン、タン、と軽やかにその突起物を蹴りながら登っていく。


二階程の建物の屋上に着いた瞬間怒号が聞こえたが無視して、隣の建物へ飛びなんとか捲った。


「あぶねぇ、銃持ってるなんて聞いてねぇぞ!なんとか映画の真似事で乗り切れたから良かったものの。」

ニ、三棟の建物を飛び越え、路地裏に降りる。さてどうしたものかと思案するが、今は取り敢えずメアリーと合流するのが得策かと考え、行動に移す。


メアリーの行き先は皇居。つまり、天皇のもとへ向かっている筈。作戦通りならば。


国会議事堂か皇居か。作戦を立てた時どちらも可能性があった。どちらかに絞るか二手に別れるかという考えになり、結局二手に別れる事にした。もし、国会議事堂であれば裕也が騒ぎを起こして黒服の男達を誘き出し、その隙にメアリーが総理のもとへ向かう。もし、皇居の方であればメアリーが偵察して黒服の男達が居るかを確認後裕也が来るまで待機、二人同時に行動に移す手筈となっていた。


ならば、メアリーは待機場所に指定した所にいるだろうと裕也は駆け出した。

服を着替えてからだが。




「確かこの辺りだよな?」

メアリーが居るであろう待機場所に着いた裕也は辺りを見回しメアリーを探す。裕也が待機場所に選んだ場所は劇場と裁判所のすぐ近くだ。

そこならば国会議事堂と皇居どちらにも行けるだろうと言う理由だ。


「まだ偵察してるのか?」

時間的には別れてから一時間も経ってはいない。メアリーもそんなに早く偵察できるはずもないかと、一人納得する。


・・・メアリーを待って三十分程経った所で流石におかしいと勘付く。もしかしたら"捕まったのかも知れない"と。

そして、その予想を確証付ける出来事が起こる。


「居たぞ!紙に書いてある場所に男が一人居る!間違いない!あいつの仲間だ!」


複数の黒服の男達が姿を現わす。一番前に居る男が持っている紙に裕也は見覚えがある。というより、その紙は裕也がメアリーに渡した紙だ。地理に詳しくないメアリーの為に簡易的に書いた地図を持ったその男を見て、裕也は最悪の予想が当たった事に落胆すると共に逃げる算段を立てる。


『相手は六人か、さっきの奴は銃を持ってたからこいつらもきっと・・・』

懐に右手を入れ何かを取り出す仕草をする黒服の男達。その動作を見て、映画にある銃を抜くシーンと重なり、裕也は即座に踵を返し黒服の男達に背を向け走り出す。


『ヤバイ!ここは登れる程低い建物が少ない!どっかに隠れないと!』

走りながら隠れ場所を探す裕也の後ろから黒服の男達が追いかけて来る。拳銃を裕也に向け、二度、三度乾いた音がビルに反射して木霊する。


殺すつもりが無いのだろう、足下に銃弾が炸裂しコンクリートが弾け飛ぶ。死なないと分かっていても、足を撃たれれば激痛だ。そんな痛みに耐えられるとは裕也自身思ってはいない。それに、銃なんてこの日本では持ち歩く事すらも禁止されている物だ。今の銃声を聞いて警察が動くかも知れないと少しだけ希望を持つ。


『メアリーはどこに捕まった?皇居の中って事は無いだろうし・・・つか、今はメアリーの事よりも自分の心配だ!』

この捕まったら終わりの鬼ごっこを何とかやり過ごさなければ自分の命が無い。先ずは、生き残る事に全霊を掛けるべきだと頭を切り替えた。


「すばしっこい奴だ!」

「的が小せえな!」

「中坊見てぇなナリで生意気な!」


後ろから怒号が聞こえる。が、その殆どが身体的特徴を、裕也の劣等感の元である身長に対しての暴言を黒服の男達は口にした。


「てめぇら!人の身長バカにすんのやめろ!コレでも19だっての!」

身長の事になると血が上りやすい裕也は黒服の男達に向かって声を張り上げ叫ぶ。

すると、黒服の男達は一瞬ポカンとした後


「マジかよ!」

「年上だったのか!」

「牛乳飲めよ!」


と、イジリながら銃を撃ってくる。

『年下が居るんかい!つか大きなお世話じゃボケェ!』

と、逃げながら頭の中で叫んだ。



どれ位走って逃げただろうか、皇居から離れるわけにもいかなかった裕也は皇居の近くを地理に詳しいという優位さを利用して何とか逃げているが、この鬼ごっこが終わるとは思えなかった。


「しゃーない、こうなりゃ皇居の中に突っ込むか!」

丁度、皇居の中へ入る為の橋が見えてきた所で裕也は意を決してそう小さく声に出し、一か八かの勝負に出る。皇居の土地内へ入れば迂闊に撃つことも無くなるだろうし、森林があるから隠れやすい。もしかしたら、警備の人に助けを求める事も出来るかもしれない。本当はメアリーを見つけてからにしたかったが仕方がない。メアリーよりも自分の命が大事だ。これは仕方がないんだ。


「待たんかいこらー!!」

「ちっせぇから弾が当たんねぇ!」

「ヤバイ・・脇腹が・・ックハ!もう限界!」

「クソ!コレで三人も追いかけられなくなっちまった!もっと根性見せろや!」


いつの間にか走っている間に三人も脱落したらしい黒服の男達。一々あいつらの状況を見ている暇が無かった裕也はそんな事も知らずに橋を目指して駆ける。直線の道路を今出せるだけの速度で走る裕也。撃たれれば当たる可能性の高い直線を出来るだけ避けて来たが、橋を渡るにはこの道を真っ直ぐ行くしかない。黒服の男達が三人になっている事を知らない裕也にとっては自殺行為なのだ。


「うっ、くぅあ!もうちょっとぉぉお!」


最後の力を振り絞る。橋を渡り門を潜ればどうにかなる。車が行き交う道路を横切る。あわや追突という寸での所で車が止まり、運転手から怒声を浴びるが、そんな事に構ってる余裕のない裕也は見向きもせずに道路を走る。


後ろを振り向かずただ前だけを、門だけを見つめひた走る。橋を渡り、門の守衛に呼び止められそこで初めて後ろを確認すると、黒服の男達は道路の反対側でこっちを睨みつけていた。


ホッと一息入れ、守衛に助けを求めた。


「すみません!あの黒服の男達に追われてて、助けてください!」

「助けを求めるなら警察に頼みな。こっちも緊急の用事があるんだ。俺ら守衛も駆り出される可能性がある。申し訳ないが・・・」

「こっちもヤバイんです!殺されちゃいます!拳銃持ってる人達から命辛々逃げて来たのに!」


とにかくこの守衛に助けてもらえなければ先程の鬼ごっこが再開されてしまう。

『つうか、あんなに銃声を響かせていたのになんで、この守衛達は危機感を持ってないんだ?』

普通は銃声なんて聞いたら限界態勢を取ってもおかしくないのではないだろうか?それもこんなに天皇の近くでの銃声には。


「すみません。銃声聞こえてませんでした?」

「聞こえてたに決まってるだろう!銃声が何度も何度も聞こえてきたわ!だがそれよりも重要な事だからここを離れるわけには行かなかったんだよ!」

「なんすかその重要な事って!?俺の命が掛かってるんすよ!それよりも重要ってなんすか!今は俺を助けてください!」


予想は出来た。メアリーがこの皇居に来たのは間違いないのだ。何たってあの黒服の男達が持っていた紙と話を聞けば大体察しが付く。

間違いなく、メアリーが関係しているだろうその重要な事に裕也が力になれるかもと考えた。


「本当は口外しちゃいかんのだが、子供を見捨てる事は俺には出来ん。言っとくが小僧、絶対に口外するなよ?」

「はい、了解です!」

指示に従う事を綺麗な直立不動の姿勢とハキハキとした声で伝える。

「良いだろう。あのな皇居が襲撃されて、まだその襲撃した奴が皇居内に居るとの話だ。どこの言葉なのかわからんらしくてな、話が出来なかったそうだ。」


あぁメアリーなんて残念美人。ピンチをチャンスに変えるどころかピンチを死地にしてしまうなんて。


額に手を当て、汗を拭う振りをして目元に溜まった雫を払った。

何をしたら偵察が襲撃に変わるのだろうと思うが、起こってしまったものはしょうがない。このまま、置いていこうかと思考を切り替えようとして、その守衛の言葉に絶句する。


「名前を叫んでいたらしい。なんでも"ユウヤ"と言っていたらしいぞ。」

マジかあいつ!と少しだけ顔を歪ませるが、守衛の視線が向くと同時に元の顔に戻す。若干引きつってはいたが。


「では、俺はコレで・・・」

「待て待て、あの連中から助けてくれと言って来たのはお前だろうが。皇居に入りたいんだろ?」

「いや、まぁ、そうなんすけど・・・」

「なら特別だ。本当はこういう事態の時は入れないように言われてるんだが、お前をほっとく訳にもいかん。お前学生だろう?学生証は持ってるか?」


あ、ハイ。と言われるがままに学生証を渡す。

「お前19には見えんな。良くて高校生だろうに。名前は、と・・・シガラキ、"ユウヤ"!?」


裕也の名前は別段珍しい訳ではない。しかし、状況が状況だ。襲撃して来た奴と黒服の男達から逃げて助けを求める男。襲撃した奴が叫ぶ名前と助けを求める男の名前。皇居を襲う者と皇居に入りたがる男。たかが守衛、されど守衛。この世界で最も護らなければならない方々の居る場所の守衛である。状況を見て、思考し、最善を選ぶ。


「お前、黒服の男達に殺されるか、俺の指示に従うかどっちを選ぶ?」


裕也、四面楚歌。




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