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怪異との戦闘は楽じゃない  作者: 三三五五
8/8

第8話



ドゴォォ!


夜独特の不気味な静けさをかき消すように、爆発音のようなものが響き、地中の音の正体が姿を現した。

音の正体……まぁそれは今回のターゲットである牛蒡種なんだろうけど。

牛蒡種の登場、しかしそれが僕の初の怪異との戦闘の始まり……とはならなかった。

本当はそうなるべきだったんだろうけど、牛蒡種のダイナミックな登場のせいで、不測の事態が起こってしまったからだ

それは……、


刻「ゴホッ、ゴホッ……土煙すごっ……。それにさっきので口に土が……ってうわ……服すごい汚れてるんだけど……」


牛蒡種が登場時巻き上げた土によって、二次災害のように僕が被害に遭っていた点である。

被害に遭ったといっても、肉体的なダメージはほとんど無い。しかし、精神的には、泥だらけになったことでかなりのダメージを受けていた。何しろ衣服、それも数少ない私服が汚されたのだ……いやっ、友達と遊ぶことがほとんどないから数が少ないとかそういうわけじゃないからね!?



それはさておき、

牛蒡種に特別恨みのなかった僕も先程の出来事で少し……というかかなりイラついている。

枯山さんから渡されたこの刀で今すぐ切り刻みたいくらいに、


そんな僕をよそに牛蒡種は服を汚したことも謝らずただただ無言で空中浮遊している。

まぁ石だから口が無いし喋れないのは当たり前か。

それにしても……、


刻「想像してたより、でかいな……」


僕は道端に転がってる少し大きめの石程度だと思っていたが、目の前にいるのは直径30cmくらいのゴツゴツした奴で、石というよりは岩に近かった。

それに重量も相当なものだろう、5kgは超えてそうだ。もし体当たりとかして来たら骨折しそうだな……。

まぁ石だろうが岩だろうがどっちにしろ切ってしまえば同じ、そんなものでビビるような僕ではない。

じゃ、とっとと終わらせよう……。


と気楽に考えていると、牛蒡種が急に僕の顔を横切って地面へと突撃した。

まるで地面をハンマーで思い切り叩いたような音がして、慌てて振り返ると、牛蒡種は砂煙を上げ地面にほんの少しだけだが体を突き刺していた。


……えっ?

今なんか牛蒡種がすごい速度でこっちに向かって来たんだけど!? それに想像してたのより威力強くない!?


枯山「ゾンビ君、ゾンビ君」


刻「……何ですか枯山水さん? 今戦闘中なんですけど……」


枯山「でもまだ話せる状況だから大丈夫でしょ? それに戦闘にもなってないし」


刻「そうですけど……で、何ですか? 戦闘中にも関わらず伝えたい要件っていうのは?」


枯山「もしかしてさぁ、ゾンビ君が少し牛蒡種のことを甘く見てるんじゃないかなぁ?」


刻「えっ……」


……もしかしてこれ叱られてる?


枯山「一つ言っておくけど……牛蒡種は確かに石のようだけど、そいつは怪異なんだからね?」


刻「そっ……それはわかってますけど……」


枯山「なら少し本気になりなよ。雑魚の怪異でもその気になれば人なんて殺せるんだよ。特にゾンビ君みたいな初心者は油断して殉職なんて毎年のように起こってるんだから」


刻「…………」


いや、そんなガチで説教されるとは思わなかったけど本気を出しなよって……。

怪異の戦闘方法を数時間前に教えられたやつにそれ言う?

そんな風に説教に対する愚痴を心中で呟いていると、再び牛蒡種は僕に向かって体当たりをしてきた。といっても初見で驚いたさっきと比べて避けるのは簡単だったが。


刻「……ってやばっ、あの方向確か枯山さんが……」


瞬間後ろから、ドガッ! と何かに思い切りぶつかったような衝撃音が聞こえた。

慌てて振り返ってみると、そこには牛蒡種の突撃によって吹っ飛ばされた枯山さんの姿があった……のではなく、何故かは分からないが少し離れたところに転がっていった牛蒡種がいた。


刻「だっ、大丈夫……みたいですね」


枯山「まぁね、もしかして吹っ飛ばされてるとでも思ってたのかい?」


刻「いや、頭カチ割れてるんじゃないかなと思ってました」


枯山「それもう死んでるよね!?」


刻「冗談ですよ。 何で吹っ飛ばされてないんですか?」


枯山「その言い方は吹っ飛ばされて欲しかったみたいに聞こえるけどまぁいいか。僕が吹っ飛ばされなかったのはね……特殊な力を使って牛蒡種を逆に吹っ飛ばしてやったからだよ!」


刻「ダウト」


枯山「少しは信じて!?」


刻「特殊な力なんて言葉、胡散臭過ぎて信じるほうが無理な話です」


それに本当のことなら特殊な力などとあやふやにしたりする訳がない。嘘にしてももうちょっと上手くついた方がいいんじゃないか。

と呆れているとふとあるものが目についた。


刻「ん? なんだこれ? 空中なのにこの部分だけ汚れてる……」


見た感じ砂のようだが、空中で砂によってこんな限定的に汚れるような現象なども聞いたことない。

気になってそこに触れてみると、そこには壁のような何かがあることがわかった。

…………壁?


刻「枯山水さん……これって……」


枯山「気づいた? これはね、怪異用の結界なんだ。怪異を見つけたはいいけど逃げられたりするのは困るでしょ? そういうのを防ぐために開発されたんだけど……」


いや、それはわかってる。そんなことより、


刻「何で僕にもこの結界反応するんですか!? これじゃあ僕閉じ込められてるようなもんじゃないですか!」


枯山「だってそうしないと周囲に被害出るし……」


刻「そうですけど! 僕怪異相手にするの初めてなんですよ!? さっき、死ぬかもしれないんだよ? みたいなこと言ってたくせに何で死ぬかもしれない状況作っちゃってるんですか!?」


枯山「大丈夫だよ。牛蒡種はそんな危険な怪異じゃないし……」


さっきと言ってたことと違うじゃないですか!

そう返そうとしたとき、僕達の言い争い(争っていたのは僕だけだが)に反応したのか、静か牛蒡種がゆっくりと動きだしていた。

そのことに気づいたのか、


刻「ほら、ゾンビ君。まだ戦いは終わってないよ? さぁ、集中集中」


とあからさまに話を逸らしてきた。

まぁ依頼が達成できてないのでそのように話を逸らすことは正しいと言えば正しいのだが……。

よし、まずは牛蒡種を倒そう。その後に枯山さんに問いただせばいい。


それにしても、先程からの攻撃二回から、牛蒡種は突進、それも相手に向かって直線的にしてくるみたいだ。回数が回数なだけにまだ他に攻撃方法があるかもしれないが、少なくともビームを放つとかそんなことはしないだろう。

そうなると、牛蒡種は勝手に僕の攻撃の間合いに入ってくれると考えられる。速度は速いが避けられないほどではないし、僕は刀を牛蒡種の突進方向に刃先を向けて置いておけばいい。牛蒡種の突進に当たりさえすれば止まっている牛蒡種に突進と同じ速度で刀を振るったことになるし、日本刀は切れ味が良いのでスパッと切れるだろう。

問題は体の正面で刀を当てると切れた牛蒡種に激突してしまうことだが、サイドステップで避けながら刀を当てればそれも解消される。

初の怪異との戦闘だから難しく考えてはいたが、攻略法を見出せたことだし、倒すことも不可能ではないのかもしれない。


さて、牛蒡種を迎え撃つ準備もでき、あちらもこちらに気付いたみたいだ。

第2ラウンド開始といこう。


僕は牛蒡種がどのように動くか、そう様子を見ようと考えていたが、牛蒡種はその様な事をすることもなく再び突進、結果的に僕の不意をつくかたちにはなったが、だからといって当たりはしない。真っ直ぐ突進することは分かっているんだ。避けようと思えばこれほど避けやすい攻撃もない。

先程結界に激突した時に学習でもしたのか、結界に再び激突する様なことはなかった。

石でも学習するのか。

いや、感心している場合じゃない。今は考えついた攻略法が実際に使えるのかどうか確かめないと。

多分牛蒡種は次も突進してくる。そこが実践できるチャンスだ。


僕は改めて牛蒡種の様子を伺う。

先程の突進で分かったことがあったからだ。

牛蒡種は浮遊していて、通常時は少しだけだが上下左右に動いている様子が見られる。だが突進するときは、狙いを定めるためにその動きが止まり、その2、3秒後には突進を開始し、相手の方向に向かっていく。

要は牛蒡種の動きが止まった2、3秒後に攻略法を実践すればいいのだ。2秒か3秒、どちらかなのはまだ少し分からないが、だったら2.5秒後に動き出せばいい。分からないときは中間を選んだいた方が一番誤差が少ないし。


しばらくして牛蒡種の動きが止まる。

……1、2……今!

牛蒡種が突進を開始した瞬間に僕は左へとサイドステップ、そして刀を突進の軌道に合わせ、刀を握る手に力を入れる。


ガンッ!!

そんな金属と石がぶつかる音が聞こえ、手に手応えを感じた時にはもう、牛蒡種は僕の間合いを通過して行き、その体は真っ二つに切れて地面へと落ちていった。

そして僕は、


刻「うっ……。手がっ……痺れ……!」


痛みを必死に堪えていた。

同時に、自身が考えていた攻略法のデメリットを思い知らされる。

避けながら刀で斬るところまでは攻略法なかなか良かったのかもしれない。だが、斬る過程が間違っていた。刀を置きにいくのではなく、振るべきだったのだ。

刀、特に日本刀は物を斬る点においては武器の中でもトップクラスの性能だろう。しかしそれは、大抵振ることによって行われる。置くことで斬ることが出来るものはせいぜい紙くらいのものだ。

しかし今回斬るものは石、それも5kgを超えてそうな岩レベルの石なのだった。それもかなりの速さで突進してくる。

そんなものを置いておくだけで斬ろうとするなど、剣術も備わっていない僕がやるには愚行とも言える行動だった。牛蒡種の衝突のエネルギーが刀を通じて僕の両手に伝わるとなれば、そりゃあ痛いし、手も痺れるはずだ。


とはいえ、どのような形であろうと牛蒡種を真っ二つにすることはできた。怪異とも言えども流石に退治することはできたはずだ。

そう思って切られた牛蒡種の方を向くと、

そこには切られたことなどまるで無かったように牛蒡種が元通りの形で存在していた。


刻「…………えっ?」


牛蒡種は確かにこの手で斬ったはずだ。斬った感触は手に痺れとして残っている。なのに何故?


枯山「……ゾンビ君、ちょっといいかな?」


刻「……今話を聞ける状況じゃないんですけど」


枯山「なら戦いながら応えて」


刻「……分かりました。それで、何ですか?」


枯山「まずさっき君がしていた攻撃だけど……」


次の言葉を遮るように牛蒡種が突進してくる。それを避けて聞こえる声に耳を傾けながら、僕は枯山さんの問いかけを返す。


刻「それは……日本刀で斬っただけですけど……」


正確には置いた、だが……。


枯山「その時君は武器に妖力を込めたのかな?」


刻「…………はい?」


妖力を込める? この日本刀に?


刻「いえ……していませんけど……」


枯山「やっぱりか……だからあんなに早く……」


刻「妖力を込めることに何の意味があるんですか?」


突進してきた牛蒡種を再び斬りかかる準備をしながら、枯山さんに問いかける。牛蒡種を倒すヒントとなりうるかもしれない。


枯山「そりゃあ妖力を込めてない通常の攻撃じゃあその怪異は倒せないからね」


刻「通常の攻撃じゃあ倒せない? なら妖力を込めた攻撃なら倒せるんですね?」


枯山「そうだけど……驚かないんだね?」


刻「生憎、状況が状況なだけに驚いている暇なんて無いんですよ。」


そう言って牛蒡種の突進を避ける。

というか今は避けることしかできない。攻撃が効かないのが分かっているのにわざわざ斬るなんて無駄な事しても体力を浪費するだけだ。


刻「それで、妖力を込めるってどうすればいいんですか?」


枯山「それは妖力をその刀に付与させて……ってこれ前も話さなかったっけ?」


刻「あれ? そうでしたっけ? 聞いた覚えがないですけど……」


いや、覚えている。というか今思い出した。

車から降りた時にさりげなく言ってたなそういえば。


枯れ山「いやでも絶対言った気がするんだけどなぁ……」


刻「とっとにかく! 刀に妖力を付与すればいいんですね! とりあえずやってみます!」


枯山「ちょっと、まだ話は……」


という枯山さんの声から逃げるように牛蒡種の方へと僕は駆けていった。その間に刀に妖力を込める。

多分形大きさは手や妖固石とは違くても付与の仕方は同じはずだ。要は車内で練習してたようにやればいい。というかそうでないと困る。

そう思いながら妖力を刀に込めて数秒、すると少しではあるが刀の光沢が増し、いかにも何か付与されましたよ感が出てきた。

牛蒡種も妖力に反応したのかはたまた偶然なのか、刀に付与を施すのと同時にこちらへと突進を仕掛けてくる。

丁度いいタイミングだ。すぐに付与による攻撃がどれほど効果があるのか試せる。

僕は刀の切っ先を牛蒡種の方向へ向け走る速度を上げる。

1度目の攻撃でもうどのように切ればいいのかはおおよそわかった。もうわざわざ立ち止まって斬る必要もないだろう。それにまた同じやり方でやったら手首痛めそうだし。

僕と牛蒡種の距離が徐々に近づいていき、衝突しそうになる少し前、その瞬間にサイドステップで横移動。刀を牛蒡種の高さと同じ所へ調整し、


ザン!!

と僕は再び横向きに真っ二つに斬った。切れた牛蒡種は地面へと落下、また動いたりしないかと確認してみたが、牛蒡種はピクリとも動かない。僕は地面に座り込む。

それにしても……

なかなか今のはいい切断音だったのではないか。

ザン!!なんてまるでバトル漫画みたいで、少し興奮しちゃったよ。

と、戦闘が終わった安堵からか僕は実にどうでもいいことを考えながら身体を休めていた、のでは無く、


刻「さて、休憩も終わったことだし……本当、どうやって倒せばいいんだか……」


次に起こる戦闘のために身体を休めていた。

首だけ牛蒡種の方に振り返ってみると、案の定今にも動き出そうとしている。


刻「確かに妖力は込めたはずなんだけどな……切ってもダメってことか? なら次は……」


倒し方を考えながら僕は身体を牛蒡種の方へ向ける。そして改めて見てみると……予想外の光景が飛び込んできた

いや、動くのは予想していたんだ。牛蒡種が倒れていたから。倒れていただけで倒してはいなかった。

考えてみたら牛蒡種は存在するだけで被害を与えるタイプの怪異だ。なのに倒れていたら……存在していたら意味がない。だから僕はまだ牛蒡種を倒していないということは明白だった。

だから動いたことには驚いていない。予想外だったのは……数だった。


刻「何で……何で両方動いてるんだ……!」


そう、動いていたのは真っ二つにしたうちの1つではなく両方だった。

でもそれはおかしい。初撃で再生しているときに動くのはわかる。妖力を込めてない刀で切っても石を斬っているだけで牛蒡種本体には無意味だから。切れた石を身体で繋げることはできるはずだから、一応両方動かせることはできる。

しかし今回はちゃんと妖力が帯びてあるんだぞ? 牛蒡種が斬られないようにするためには石の片方を犠牲にして避けなければならないはずだ。なのに両方動いてるってことは……。

と、何故両方動いているのかと考えていると、2つの石は僕に向かって突進してきた。大きさこそ半分だが、スピードは以前と変わらないし、当たりどころが悪ければ致命傷になる。しかも……


刻「くそっ! 避けづらい!」


攻撃が1つと2つの違いは大きく、攻撃の範囲が大きくなっている。避けようにも以前のような単純な動きで避けることが出来ない。

それでも、なんとか2つの攻撃を避けて、避けたために崩れた体勢を立て直そうとすると……攻撃を避けられた2つの石はUターンしてすぐさま突進を繰り返してきた。


刻「なっ!? ……くっ! …………がっ!!」


まさかすぐさまに攻撃に転じるとは思わず、1つ目は避けれたものの、2つ目は避けられず、僕の脇腹に直撃してしまった。

威力こそ半減してはいるが、十分な威力であることは確かで、僕は脇腹を抑え膝をつく。

それにしてもUターンしてくるなんて。そんなこと今までしていなかったのに……。もしかして、半分になったから多少小回りが効くようになったのか? そうならば以前よりも遥かに厄介だ。

その厄介になった牛蒡種は再び突進をしてくる。

僕は急いでそれを避けようとする。しかし、脇腹に鈍い痛みが走り、僕は動きを止めてしまう。これは避けることができないと判断し、僕は咄嗟に両腕でガードをする。

しかし、2つの突進を受け止めきれず、僕は後ろへと吹っ飛ばされてしまった。そして結界の壁へと激突する。

痛みを堪え立ち上がると、突進の準備をしている2つの石が目に入る。

それを見て突如僕は恐怖に襲われた。

多分次の攻撃は避けられない。さっきのガードで腕も痛いし、次はまともに食らってしまうだろう。まともに食らったら……最悪死ぬかもな。


刻「…………怖い」


死ぬのは怖い。痛いのも怖い。でも何より……自分の功績が無いまま人生を終えることが怖い。口に出てしまうほどに。

僕が恐怖に駆られているなか、2つの石はとどめを刺しにこちらへと向かってくる。

その最中、僕はこれまでの人生を走馬灯のように振り返っていた。

怪異が見え、それを理解されなかった日々を。

そして僕は目を瞑る。



……しかし、来るはずの衝撃は来なかった。

いや、確かに終わり良ければすべて良しっていう諺もあるくらいだし痛みとか無い方が良いんだけど触れた感触すらなかったぞ?

どうして痛みがないのか不思議に思って目を開けてみると何やら2つの石は痺れているのか僕の少し前くらいのところで動けずにいた。

何が起こったのか混乱していると、


枯山「動きは一時的に止めたから、こっちに来てくれないかな?」


と、枯山さんが呼びかけてきた。

痛みを堪え、僕は枯山さんの方へと向かう。


刻「手助けありがとうございます……それにしても何をしたんですか?」


枯山「何、怪異に効くスタン弾みたいなのを打ち込んだだけだよ。まぁそれはともかく、何で呼び出したんだと思う?」


刻「それは……ピンチだったからじゃないですか?」


枯山「それもあるけど、もう一つ伝えたいことがあったから」


刻「何ですか? それは」


枯山「まぁわかってるとは思うんだけど、あの牛蒡種は切っても倒せない」


刻「それは身をもって経験しましたよ。それにしてもあの2つの石は両方とも牛蒡種だったんですね」


枯山「その通り。じゃないと動くはずがないからね。あと、砕いても、割っても、貫いても、あの2つの牛蒡種は倒せない」


刻「……怪異だからですか」


枯山「それはちょっと違うかな。あいつは怪異だから倒せないんじゃなくて、牛蒡種だから倒せないんだ」


刻「それは……どういうことですか?」


枯山「それは教えられない」


刻「どうして……」


枯山「この先、君は怪異と1人で戦う時が来るだろう。もしその怪異の情報が無かったら、君は自分で倒し方を模索するしかない。そんな状況に対応できる力を身につけて欲しいんだよ。これでも一応君には期待してるんだからね?」


刻「…………」


意外とまともなことも言えるんだなぁこの人。ゾンビ君から君に呼び方を変えてるあたり。


枯山「最後に僕からアドバイスだ」


刻「アドバイス……ですか……」


枯山「そうアドバイス。ゾンビ君さぁ、さっきすごいビビってたでしょ?」


刻「うっ……」


ズバリ言い当てられ、僕は冷や汗を書いた。

それにしても、側から見ても分かるくらい怯えてたのか、僕。


枯山「いや、別に怒ってるわけじゃ無いよ。怪異や死に対して恐怖を抱かないなんて普通ありえないからね」


刻 「……まぁ確かに怯えてはいました。じゃあどうすればいいんですか? 怯えるなとでも言いたいんですか?」


枯山「そんな無理強いはしないよ。別に怯えてもいい。ただ、恐怖で戦闘を放棄することをするなと言いたいんだ。特に、走馬灯のように人生を振り返ったりなんてしたら最悪だね」


刻「うっ……」


枯山「そんなことをしてるなら、勝つために手を考えろ。弱点を見つけろ。勝つためだったら非道でもなんでもいい。とにかく思考を止めるな……というわけだ。まぁ、だからって勝てるとも限らないんだけどね」


刻「……わかりました。とりあえず、やれるだけやってみます」


枯山「それでいい。じゃあ、そろそろ牛蒡種も動き出すと思うけど……」


刻「……? 何ですか?」


枯山「たった2回の攻撃で戦意喪失しないよう頑張ってね」


刻「…………」


最後の最後で悪意ある言葉を投げかけるな! とツッコもうと思ったが事実は事実、しょうがない、今は許してあげよう。

そのかわり、この戦いが終わったら……わかるよね? と目で枯山さんに伝えたあと、僕は牛蒡種の方へと振り返る。

見た感じ、まだ完全には動けないようなのでなるべく後ろから攻撃されぬよう壁の近くで、牛蒡種との距離が開いている場所へと移動し動くのを待つ。

それにしても……やっぱり怖い。突進を経験したのも原因だけれど、まだ残ってる痛み。これが1番だろうな。

この調子だとまた恐怖で押しつぶされそうだ。じゃあどうする? アドバイスは貰ったけど溢れ出る恐怖に負けぬよう戦闘に集中するのは結構難しい。さっきの会話で割りかし恐怖は減らせたが戦闘を続ければまた恐怖は増える。そうなると、また減らすしか…………減らすねぇ……。

まぁ無理だと思うけどやってみるか。 今のところ打開策はないわけだし。

とりあえずイメージだけでもやってみよう。気休め程度にしかならないと思うけど。

僕は目を瞑って自身の恐怖を一つの塊としてイメージする。さて、この塊をどうするかだ。1番簡単にそして多く減らせる方法は……いや、減らすだけじゃ駄目だ。自分の中から出さないと恐怖の量は変わらない。

そうなると……この塊を捨てるのが1番いい方法か。ゴミ箱に入れるみたいにポイっと。

そうと決まれば早速イメージしてみよう。

まず自分の中にある恐怖を一点に集中して、集まった恐怖をゴミ箱へと放つ感じで……。


刻「いや、これどこのバトル漫画だよ!」


そう思ったところで目を開けイメージを終わらせる。

いやいやいや、大丈夫なのか? 今の捨てるって感じより気弾を放つ感じだったんだけど!?

……まぁ自分の中から出す点においては同じだから多分大丈夫だろう。

心なしか体が軽くなったような感じもするし痛みも少しは引いている。

単に時間が経ったことによる自然回復だと思うが。

気休めも終わったところで牛蒡種の方を見ると、ちょうどこちらに気づいたみたいだ。不思議と恐怖は感じない。


刻「……それじゃあ、打開策でも探そうかね」


意識を牛蒡種に集中させる。

少し経った後、2つの牛蒡種は突進をしてきた……のではなくゆっくりとこちらへ向かってきた。

距離を縮めるためなのかと思ったが、牛蒡種達はそのスピードのまま僕の攻撃が当たるところまで接近する。

突然の行動の変化に驚きながらも、警戒して僕は牛蒡種達を避けると、避けられると思わなかったのか僕のすぐ後ろにある壁に激突した。

落ちていくときも何故かスローモーションのようなスピードで落ちていく。

フリにしては下手すぎるだろと思いながらも落下していくのを見ていると……

刻「…………は?」

と呆然としてしまうような光景を目にした。

牛蒡種達は地面に触れ砂埃が舞う。

しかし、その「自然現象」は、ゆっくりと起こった。


次の話でバトルらしきものが終わります

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