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怪異との戦闘は楽じゃない  作者: 三三五五
3/8

第3話


 蓮香という危険生物からの腹パンから五分後ーー

 僕は腹の痛みをこらえ立ち上がるととりあえず自分の骨が折れてないか確認した。蓮香……いやあいつのことはもう暴力女とこれから呼ぼう。あの暴力女は容姿の割にパンチの威力はそこらへんのボクサーにも負けないんじゃないくらい強力だった。人生の中でボクサーに腹パンされる経験などない僕が折れたと感じるには十分な威力だ。

というかまた敬語で話しかけたらこれよりさらにひどいことになるのか……。多分次は粉砕骨折かな。

 そんなことを考えながら僕は殴られた箇所を確認し、何も異常がないことをがわかると、一度家に帰ってお詫びの品を準備し、「枯山さん」の家に向かった。


刻「あの暴力女が言ってたのは二階の一番右の部屋だっけ。とりあえず一回家に戻ってお詫びの品は持って来たけど……いるかな?」


 部屋を探すために腹パンまで食らったんだ。いてもらわないと困るのだがあちらにも都合というものがある。いなかったらまた明日出直そう。

 そんな気持ちで僕はインターホンを押した。


 ……30秒……1分……1分半……

 一応2分まで待ってみたが応答なし。今は出かけているのか。仕方ない、また明日出直そう。

 そう思って帰ろうとすると、2分間全く動かなかったドアノブが動いてこの部屋の主「枯山さん」が顔を出し、


枯山さん「えっと……僕に何の用かな?」


と少し僕のことを怪しく思いながらも尋ねてきた。


刻「すいません。今日からここに住むことになりました。『尸 刻』です。漢字は……」


枯山さん「いや、漢字はわかる。一応これでも大家なんでね。住んでる人や引っ越してくる人の名前くらいわかるさ。引っ越してくる人の場合顔はわからないけどね」


刻「そうですか。それで、今回は挨拶が遅れてしまったことと引っ越しで騒がしくしてしまったことがあったのでお詫び兼友好の品をと思いまして」


枯山さん「それは嬉しいねぇ。ありがたく頂戴するよ。実は僕も少し君と話したいことがあって引っ越し中に訪ねようと思ったんだが、用事ができてね、そのせいで行けなくなってしまったんだよ。あ、そうだ。丁度よかったし今からその話をするのはどうかな? 立ち話も何だから僕の家で」


刻「構いませんけど……いいんですか?」


枯山さん「別にいいよ。元々僕がしたかったことだしね。じゃあそうと決まれば入った入った!」


刻「では、お邪魔します」


 枯山さんの部屋に入るのは想定外だったがこのまま家に帰っても近所の人に挨拶するくらいしかすることないし、枯山さんと一緒に話をしていた方がいいだろう。それに挨拶はまた明日にでも出来る。

 僕は枯山さんに誘導され客間であろう場所へと向かった。

 ただその途中、妙な寒気がしたのは何故だろうか?




枯山さん「じゃあ、いくつか質問するけど、いいかな?」


刻「いいですよ」


枯山さん「まず、一人暮らしするっていうことは、自らの意思かい?」


刻「はい。そうですけど……」


枯山さん「それはまたどうして?」


刻「……前の家での生活が嫌になったんですよ」


枯山さん「それはなんで?」


刻「……ちょっと見境なく色々と質問しすぎじゃないですか? こっちもいろいろと事情があるんですよ」


 質問と言ってもしていいものとしてはいけないものがある。ましてや家庭事情のことなど、あまり話したくはないものだろうに。


枯山さん「ごめんごめん。さすがに家庭のことはまずかったよね。じゃあ質問を変えるね」


 まだあるのか。いや、まだ三回しかしてないじゃないか。質問の内容のせいで即座にこの会話を切り上げたあと思ってしまった。それに一応この人はこのアパートの大家さんなんだ。それに高校生で一人暮らし、しかもアパートを借りる人なんてあまりいないだろう。

 そのことで心配になってあまり聞いてはいけないような質問をしてしまったのかもしれない。とりあえずできるだけ心配させないようにできるだけ質問に答えることにしよう。


枯山さん「このアパート、『枯水荘』をどんな方法知ったのかな?」


 このアパートを知った方法?  そんなもん聞いてなんの意味になるんだ?

 でも、特に答えて自分に不都合が生じるわけでもない。ここはこの人の質問に答えるとしよう。


刻「ネットでですけど……それがどうかしました?」


枯山さん「いや、ちょっと確信を得たくてね」


確信?  なんのために?


枯山さん「なるほどねぇ……じゃあ最後にもう一つだけいいかい?」


刻「いいですけど……」


枯山さん「君はさ、他人に見えないものが見えたりするかい?」


刻「えっ……」




 いきなりだが、ここで僕の過去の話をしよう。そこまでも重要ってほどでもないし、聞き流してくれても構わないが。

 僕は幼い頃から他人には見えないものが見えた。その正体がなんなのかそのときは分からなかったが、大きくなるにつれて、それは怪異、つまり妖怪や悪魔など空想上の生き物であることが分かって僕は大いに喜んだ。僕の目は特別なんだと。

 なぜそんなものが自分に見えるのか分からなかったが、そのときの僕は空想上にいた生き物がこの世界に実在して、それが自分には見えることを友達や家族に教えまくったものだ。

 今思えば迂闊だった。その行動は、気味の悪い子供というレッテルを押されることになる原因となったし、そのせいで僕はクラスメイトからいじめられたりと悲惨な日々を送ることになったのだ。一人暮らしすることになったのもそれが原因の一つである。



 なので僕はこのことを絶対に知られないよう気をつけていた。

 だがこの人はたった数分の会話でそのことを見抜いてしまった。当然焦る。だがそのことを気取られたらまずい。なんとか誤魔化さないと。


刻「いや、急にどうしたんですか……そんな質問して……そんなことあるわけないじゃないですか」


枯山さん「……君はこのアパートをネットで見つけたって言ってたよね?」


刻「えっ?  そうですけど……それが何か?」


枯山さん「一般人にはね……その方法じゃこのアパートの情報を見つけることができないんだよ」


刻「なっ……!?」


 情報を見つけることができない!?


刻「そしたら、どうやってその怪異が見える人たちはその情報を見ることができるんですか!」


 そう言うと枯山さんはニヤリと笑って


枯山さん「なに、ちょっとした細工をしただけさ。僕はこのアパートのサイトにね、『妖力』を使って文章を作ったんだよ。『妖力』っていうのはそういった他人には見えないものを見るための力のことでなんだけど、それをキーボード及びパソコンの情報端末に流し込んで文字を打ったんだ。情報っていのは大体ネットで手に入れるものだからそこを押さえていればまず一般人に見られることはない」


と言った。


枯山さん「それに君はさっき『怪異』と言ったよね。僕はその他人には見えないものを『怪異』と言った覚えはないんだけど……なんで君はそんな風に思ったのかな?」


刻「そ、それは……」


枯山さん「その反応、決まりだね。やっぱり君は『怪異』が見えるんだね」


 ……さすがにここまで決定的な証拠を出されたらもう誤魔化さないか。


刻「……はい、そうです。でも、そんな『妖力』? を注ぎ込むなんて方法ができるってことは、あなたもそうなんですか?」


枯山さん「うん、僕にも見えるよ。」


 初めて出会った……。僕と同じように見える人なんて。


枯山さん「多分一人暮らしをすることになったのもそれが原因なんじゃないかな。この能力は気味笑がられることもあるからね」


 バレてる。さすが同じ体質なだけ、そういった苦労や災難はわかるようだ。


枯山さん「それにしても大変だったね。その体質のこと、誰にも言えなかったんだろう? でもこれからは大丈夫」


 まあ確かに長年気にしてたことだ。同じ体質の人と出会っただけ、少しはマシになっただろう。


枯山さん「このアパートの住民は全員君と同じ体質だから」


 ……は?


刻「それって……」


枯山さん「言葉の通り、このアパートの住民全員が『怪異』を見れるってこと。大体このアパートに住んでる時点でそれは当たり前じゃないか」


刻「確かにそうですけど……」


枯山さん「別にいいことじゃないか。住民全員が同じ悩みを共有できるなんて」


 つまり、このアパートでは今まで気にしていたことは全てなくなるということである。それは、とてもよかった。でもあの暴力女と同じか……なんか嫌だな。


刻「じゃあ引越し業者の人たちも?」


枯山「そうだよ。ここにアパートがあることは一般人には知られてないからね。だから彼らがいて本当に助かってるよ」


 なるほど、だから引越し業者を指定していたのか。


枯山さん「で、君が『怪異』を見れると分かったことで注意事項に書いてあった手伝ってもらう仕事のことなんだけど……」


 そう言えばそんなこと書いてあったな。


枯山さん「それを説明する前に君に来て欲しい場所があるんだけど、いいかな?」


刻「構いませんけど、何処ですか?」


枯山さん「それは来て貰えばわかるよ。じゃあ『ゾンビ君』、行こうか」


刻「『ゾンビ君』!??」


枯山さん「うん、『しかばね』なんて苗字なのに今生きてるから『ゾンビ君』」


 そういえば言ってたな。この人、人をあだ名つけて呼ぶって。でも確か自分をあだ名で呼ばせるともいってたな。


刻「じゃあ枯山さんはなんて呼んだらいいですか?」


枯山さん「僕のことは『枯山水さん』と呼んでくれ」


刻「それはまたなんで……。」


枯山さん「僕名前が枯山(こやま) 水樹(みずき)っていうんだよ。水樹は海水の水に大樹の樹で水樹ね。その中で名前に『枯山水』って入ってるから『枯山水さん』」


刻「へぇ……そうなんですか」


 この人あれだ。全くネーミングセンスがない。


刻「すいませんけど、『ゾンビ君』ってあだ名、やめてもらえませんかね」


枯山さん「えっ、なんで?」


刻「なんでって……そのあだ名、悪口になりかねませんからね!?」


枯山さん「でもそれ以上思いつかないし、別にいいじゃん。『ゾンビ君』で」


刻「そんな……」


 そんなあだ名、生まれてこのかた一度も呼ばれたことない。絶対に改名させないと。あと、僕は枯山さんと話すとき以外、「枯山水さん」とは呼ばないでおこうと思った。


枯山さん「まぁあだ名の話は置いといて、早く行こうか」


刻「……はい」


 僕らはその後、枯山さんの家を出て、二階建てのアパートにあるには不自然なエレベーターの前に立った。


刻「階段で降りないんですか?」


枯山さん「うん、その場所はエレベーターじゃないと行けないんでね」


 エレベーターの中に入ると枯山さんは地下一階のボタンを押し、扉を閉めた。

 なるほど、確かにここはエレベーターじゃないと行けない。しかし、こんなアパートに地下があったとは。住民と同じく、このアパートもまた不思議である。


 エレベーターが地下一階に着くと、扉が開いた先には光の漏れた一つの扉があった。


刻「あれがそうですか?」


枯山さん「うん、そうだよ。みんな集まってるだろうし僕たちも早く行こうか」


 少し暗い廊下を進んで扉の前に立つと、中から賑やかな音が聞こえた来た。


枯山さん「この扉は君が開けてくれないかな? きっとびっくりすると思うから」


刻「えっ? はい、わかりました」


 枯山さんに開けるよう言われたので扉に手を掛け開けてその先の光景を見ると、


蓮香「あんたいい加減にしなさい!」


⁇?「グハッ!」


 暴力女が男性に飛び蹴りを食らわせている光景が飛び込んで来た。

 びっくりすると言われたがまさかいきなりこんな光景を見せられるとは……。

 この時の僕は枯山さんが言ったびっくりとは逆ベクトルでびっくりしていた。

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