第1話
死人A「ハァ……ハァ……。どんだけ歩かせんだよ。おい、まだ着かねえのか。……返答なしかよ。全くなんで死んでからこんな疲れなくちゃなんないんだ」
ここは死後の世界。だが地獄でも天国でもない。そこに行く前の長い長い道の途中で俺は現在進行形で疲れました発言しているわけである。
なぜ俺がこんなところで疲れました発言しているのか不思議に思う人も多いかと思うので説明しといた方がいいだろう。
まず俺が死後の世界にいることについてだが、その理由は簡単、俺が死んでしまったからである。
原因は……まあ俺が何も考えないで行動したからなんだが……。とりあえず死んだことについては言及しないで欲しい。
次に何故そんなに疲れているのかについてだ。
その理由は、死んでからずっとある場所に向かって歩いているからだ。死んでから……多分もう3日経ってる。その間ずっと休まず歩き続けてるんだから疲れるのも無理はない。
死んだんだから疲れたとかそういう感覚ないんじゃないの? と思う人もいるかもしれないがそれは大きな間違いである。死んでいても感覚は生きた状態と同じ状態である。第一、そういった感覚がなければ、地獄などあっても意味はない。痛みや苦しみも無くなってしまう。ただ、睡眠欲だけは無くなってるようである。そのおかげで休まないで眠らないでおけるだけマシだが、疲れるものは疲れるのである。
それはさておき、今重要なのは俺がこんな辛い思いをしてまで行く必要のある場所である。多分そこは地獄か、もしくは他の場所に行くための採決を行う場所だろう。何を告げられても動じない精神力は持ち合わせてはいるが、できるだけいい場所に行きたいものである。
???「あの……」
でも俺生前に何かいいことしたか? 特に記憶にないんだが……。
もしかしてまだガキだった頃とかの行動もそれを決めるにあたって重要になるのか? 俺ガキの頃やんちゃしてたことしか記憶にないぞ。
???「あの……すいません……」
ていうかどこに行くか決めるのってどんなことで決まるんだ? どれくらいいいことを行ったか、もしくはどれだけ悪いことをしてたのかのどちらか一つか? もしくは両方か? どちらにしろ俺にとっては悪い結果になる未来しか見えないな……。
???「あのっ!! すいませんけど話聞いてもらいませんか!」
死人A「……なんですか? 急に大きい声出さないでもらえますか?」
???「それはあんたが何度も呼びかけてんのに何も反応しないからだろ! なんで僕が悪いみたいになってるんだ! 」
えっ……? そんな何回も声かけてたか? まったく聞こえてなかったんだが……。
???「大体あんたがぶつぶつと独り言喋ってるのこっちに聞こえてるんだからな! 僕から見てみればそっちの方がおかしいと思うんだけど!」
一人称僕のくせに言うことはなかなか失礼だなこいつ。多分こいつより年上だろうしここまで言われたらさすがに腹立つな、少し言い返してみるのもいいが反論したって何かいいことがあるわけでもないんだからここはおとなしく聞いといてやるか。
死人A「はいはい、わかったわかった。で? 話聞いてもらいたいと言ってたけど何話したいんだ?」
???「なんか明らかにめんどくさいと思ってる感じがダダ漏れですがまあいいでしょう。話を聞いてもらうと言いましたけど少し間違えました。話を聞くんではなく質問をしたかったんです」
言葉遣いが丁寧になった。どうやらこいつ、キレたりしたときは言葉遣いが荒くなるらしい。
死人A「で? 質問の内容は?」
???「まあ聞くほどのことでもないんですど……」
だったら聞くんじゃねえよ。
???「さっきあなたが喋ってた独り言の内容を知りたかったんですよ」
死人A「へぇ……。でもなんでそんなこと聞くんだ?」
???「あなたが喋ってた独り言、部分的ですが天国とか地獄とかそんなこと喋ってたんで。もしかしたらそのことについて何か教えることもできるかもしれませんし」
死人A「詳しいのか?」
???「はい、少しは」
なんでそんなことに詳しいんだよ? と少年を怪しんだがどうせ1人ではこの独り言の終わりを見出すのに時間がかかりそうだし、聞いてみるとしよう。もしかしたらいい情報をもらえるかもしれないし。
死人A「じゃあ話すけど、絶対に笑うなよ」
???「はい。でもそんなこと聞くなんてそんなに恥ずかしいこと言ってたんですか?」
死人A「いや、ただこのあと俺は天国か地獄のどっちに行くのかなあみたいなかんじの独り言だよだよ」
???「なんだそんなことですか。あなたがどこに行くかはわかりませんが一つわかってることはありますよ」
死人A「なんだ? それは?」
???「あなたは天国には絶対に行けませんよ」
……は? ちょっと待て。それじゃあ唯一の希望が今の話だと完全に消え失せたってことじゃないか。
完全にいい情報じゃなく悪い情報じゃないか。
死人A「いや、なんでそんなことがわかるんだよ?」
少なくとも理由を話してもらわないと納得できない。
???「突然ですけど、あなたは生きていた時に善行をしましたか?」
死人A「いきなりなんだよ?」
???「答えてください」
死人A「なんなんだよ本当、そんなもんしたことがあるに決まってんだろ」
???「それは本当に善行ですか?」
死人A「は?」
???「その行動が正真正銘、紛れもなく誰から見ても善行だと言えますか?」
死人A「いや……それは……」
???「言えないんですね? これがあなたの天国に行けない理由です。 というか生まれてきた時点で行けないことが確立してるんですよ。 天国って場所は死ぬまでに完全な善行をしたもの、もしくは生まれる前に死んでしまって何もできなかったものにしか入らないんです。 赤ちゃんが生まれたとき、それを持つ人にかかる重さとストレス、このことを考えたらある一方では悪行になります。 この時点でもう行けないんですよ。天国には」
死人A「随分とひどいな、生まれるなってことかよ」
???「そういうことです。 まあ天国ってのは神が住む世界でもありますからね。 そう簡単に神と同じ領域に立つことはできませんよ」
死人A「そうか……だったらなぜ神はそこに入れるんだ? 神だとしても全ての行動が善行になるとは限らないだろ?」
???「その通りです。 だから神は何もしないんです。」
死人A「何もしない?」
???「はい。 何もしません。 人を助けたり作物を実らしたり動いたり喋ったり現れたり聞いたりもしません。何か行動したら悪が生まれてしまう。 だからそれが起きないように行動しないのです」
死人A「でも行動しなかったら善行とは言えないんじゃないか?」
???「それは大丈夫です、神というのは存在自体が善なのです。 だから何もしなかったら善だけが残るということです」
死人A「それずるくない?」
つまり神頼みが全く意味がないってことか。
まあそんなもんわかってんだけど。
死人A「ということはお前も天国に行けないんだな?」
???「そうですよ」
死人A「じゃあ俺らの一番いい判決は人間界にまた転生するってことか」
???「そうですね。六界の中では人間界は二番目ですし」
死人A「なるほどね、それにしてもよく知ってるな。どこでそんな情報手に入れたんだ?」
???「それは僕たちと一緒にいる看守の人に話を聞きました」
死人A「よく聞けたな!?」
???「いやなんか天国に行きたいって独り言言ってたあなたのこと見て憐れむような顔して見てたのでどうしたのかなと思って」
よし、地獄行きでもいいからその看守絶対に殺してやる
???「無理だと思いますよ」
死人A「お前心読めんの!?」
???「あなたの考えてることが表情にめちゃくちゃ出てるんですよ」
確かに考えてることわかりやすいってよく言われるけどそんなにか?
???「それにしても随分と喋っちゃいましたね」
死人A「まだ1時間も喋ってねえよ」
???「それはそうですけど随分と濃い話をしたじゃないですか」
死人A「俺的にはあまりいい話じゃないけどな」
唯一の希望が消えたのだ当然である。
???「まあいいじゃないですか。それは僕も同じですし」
死人A「いやそうだけど……」
???「わかってたことなんですからしょうがないですよ。そんなことより、もっと重要なことあるんじゃないですか?」
死人A「重要なこと?」
???「僕たちがまだお互いの名前も知らないってことです」
死人A「そんな重要なことか?」
???「重要ですよ! あなたとか呼ばれるのあまり好きじゃないんですからね?」
死人A「確かに堅苦しい感じはしたけど……」
???「でしょ!? それに物語的にもけっこうやばいですからね?」
死人A「今のお前の発言の方がヤバイわ」
そんなこと言ってると消されるぞ本当。
???「とりあえず! 名前教えてもらいませんか?」
確かに名前を知ることはコミュニケーションをとるにあたっては必要不可欠だろう。しかし……。
死人A「断る」
???「どうしてですか!?」
死人A「いやだって名前なんてこの世界で使うこともないんだし教えたって意味ないだろ? それにこのままでもなぜか会話できてるわけだし」
???「僕がいやなんです!」
死人A「いや、そう言われてもね……」
???「そうですか……だったら僕だけ名乗ります」
死人A「いや、どうしてそうなる?」
刻「僕の名前は尸 刻。 部首の尸に時刻の刻で尸 刻です」
俺のこと無視かよ? でもそれよりも……
死人A「『しかばね』なんて随分物騒な名前だな。なんで『屍』じゃないんだ?」
刻「それだと縁起が悪いとかで随分前に変えてもらったみたいです」
死人A「つまり前までは『屍』だったということか。でも今はその名前お似合いじゃないか? もう俺たちは屍なんだから」
刻「……だっさ」
さっきめっちゃ失礼なこと言ったような気がするけど気のせいだろう。
刻「じゃあ名乗ったことですし。またお話でもしてましょうか」
死人A「えっ、俺はやだよ」
刻「なんでですか!」
死人A「いやだってもう話す内容もないし……。それになんかお前と話してると疲れるし」
刻「サラっとひどいこと言いますね!? でも確かにそうですね……」
死人A「だろ? じゃあ俺はこの辺で……」
刻「じゃあ僕の昔話でもしましょうか」
死人A「なんでそうなる? それに他人の昔話なんか聞いても特に面白くもねえよ」
刻「そんなこと言わずに、それに僕、生きてた頃はちょっとばかし奇怪な人生を送ってましたから多分退屈しないと思いますよ」
死人A「いや、でも……」
刻「それにまだ着くまでに時間があるのに歩いてるだけじゃつまらないでしょ? だったら聞いてった方がいいですよ」
死人A「……ハァ、わかったよ。聞けばいいんだろ」
このとき、俺は押しにことごとく弱いなと思った。
刻「そうと決まれば、早速話しましょう。この物語は二年くらいから僕が死ぬまでの話なんですけどね、これが僕の人生の中で一番濃い二年間だったと思います。まあそのせいで死んじゃうんですけどね」
死人A「前置きはいいからとっとと話せ」
刻「せっかちですね……。 まあ前置きはこのくらいにして本題に入りましょう。でもこの物語の結末は期待しない方がいいかもしれません。僕が死ぬというバットエンドですから」
……そういうこと言って恥ずかしくないのだろうか? まあそれは後で聞くとしてこいつの話を聞いておこう。暇つぶしにはなるかもしれないしな。
こうして、尸 刻が語る人生譚を俺は聞くのである。
刻「まずは二年前のある春の日のこと……」
始めまして!三三五五です。この小説が自身の書く初めての小説になるんですが上手くかけてるかどうか不安でたまりません。連載小説なので連載するにつれて徐々に修正できたらいいなと思っています。投稿は不定期になるのでもしかしたら長い間投稿できないこともあるかもしれません。そのことを踏まえてこの小説を見てくれたらなと思います。