私の値段
あなたの値段教えます
郵便受けに入っていたチラシに書かれたその一文がどうにも頭から離れない。
私はしがないサラリーマンだ。三十路を過ぎ、独身で、職場では万年平社員。こんな私の値段はいったい幾らなのだろうか?くだらない好奇心が勝り、私はチラシに記載された住所へと赴いてしまったのだった。
「いらっしゃいませ。」
汚い小さなビルの三階に上がり中に入ってみると、いかにも怪しげな男がニヤつきながら受付に座っていた。
「あなたの値段、知りたいんですよね?」
「ええ、まあそうですね。」
ニヤつきながら話していることは少しむかつくが、それよりもこの男が妙な迫力を持っていることの気味の悪さの方が気にかかる。
「参考までに。日本国の総理大臣は現在830億円でございますよ。」
薄気味悪い笑い声をあげながら男は言った。830億なんて想像もつかない金額だ。それが人の価値として高いか安いかもわらない私には何の参考にもならなかった。それでもきっと総理大臣というからには日本人の中でも高額な方なのだろう。
「本当にあなたの値段をお教えしてよろしいのですか?後悔はありせんか?」
「大丈夫です、教えてください。」
初めに何か質問やアンケートがあるのかと思ったけれど、どうやら何も無いらしい。わざわざ来たことを半ば後悔しながらも自分の値段を聞くことにした。
「あなたの値段は2,000円です。」
「は?」
想像以上に安い値段で思わず声が出てしまった。呆気にとられる私には御構い無しに男は続けて話だした。
「あなたは生涯独身ですので子孫という有益な資源を残す可能性がありません。したがって、より正確な値段が割り出せました。あなたの寿命は丁度80歳です。そして、あなたの生涯年収と寿命までに行った社会にとって有益な行為からあなたに掛かる諸経費を引きますと、きっかり2,000円という結果になりました。よかっですねマイナスにならなくて。よくいるんですよ早く死んだ方が利益になる人間が。でも、あなたも中々に価値が低いですねぇ。最後の最後まで平社員でしたしね。47歳の時に事故現場であなたが救急車を呼ばなかったら92万円のマイナスになる所でしたよ。」
終始ニヤつきながら男は語っていた。