番外編2 パラドックス
「大体、新暦の七夕に雨が降ろうが降るまいが、彦星には関係ないじゃないですか」
2014年7月17日。
台風も過ぎ、暑くなってきた地球(というか日本)にて、天ノ川のほとりで生まれた僕はアイスを食べていた。
「いや、そうだけどさ? なんと言いますか、気合い? 気持ち? テンション? ……そんな感じのなにかに関係があるんだよ」
まだ梅雨も明けていない(であろう)7月上旬に七夕、なんてふざけているにもほどがあるよ。
いやぁ、良かった。僕との約束が旧暦の話で。助かった助かった。
「毎年毎年、意味も無いのに苦しむのに?」
うぐ。
「毎年毎年、無駄にトイレにこもるのに?」
ぐは。
「……千可? 僕を苛めて楽しい?」
「いえ別に」
だったらやめて貰えると、精神衛生上はとてもよろしいのですが。
とは思っても、口にするのが恐ろしくて言えやしない。
約一ヶ月後に控えた、旧暦の七夕に向けて、僕は好感度を稼がなければならないのだから。
「それにしても、なんで日本人は七夕に願い事なんてするんだろうね?」
「? 唐突ですね」
「だって、御伽話には一切関係ないじゃない?」
「まぁ、それはそうですが」
僕の幸せを願うのでは無くて、自分の幸せを願う。
そんなことが許されるのはあの人だけだと言うのに、日本人はみんな贅沢だなぁ。
「願い、と言えば、『皆の願いが叶いませんように』なんてことを短冊に書く人っていますよね」
「? 確かにいたけど、どうかしたの?」
「いえ、その人は『パラドックス』と言う言葉を知っているのかな、と思いまして」
「……あぁ」
2014年7月17日。
暑い空の下、涼しい家の中、二人はアイスを口に運ぶ。
今年の七夕。
僕が自分の願い事を短冊に書いて吊るして数日後。その短冊の裏には知人の字で『がんばれです』と書かれていました。
そんなノンフィクションにほっこりしていたら、『皆の願いが叶いませんように』と書かれた短冊を見つけて。
そこから、この番外編2が生まれました。




