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番外編 とある年の7/7

「雨なんて滅びちゃえば良いのに雨なんて滅びちゃえば良いのに雨なんて滅びちゃえば良いのに雨なんて滅びちゃえば良いのに雨なんて滅びちゃえば良いのに……」

 とある年の、七月七日。

 月曜日。

 休日、と言うわけでは無いにしろ、イベントがある日として人々に多く知られている――であろう日に、彼は部屋の隅で体育座りをしていた。

 彼の名は、牛飼彦星うしかい ひこぼし

 日本人なら多くの人が知っている――であろう、七夕の伝説。

 その伝説にも出ていた、天ノ川のほとりに住んでいる若人。

 否、天ノ川のほとりに住んで『いた』若人。

 伝説の終幕から時は流れ、今の彼は地球に住んでいた。

 伝説の終幕から時は流れ、今の彼は日本に住んでいた。

「雨の日には橋を架けられない、なんて制約さえなければ良かったんですけど……、ごめんなさい」

「いや、千可が悪いわけじゃないのは分かってるんだけどほんともうなんなの雨とか。雨なんて滅びちゃえば良いのに雨なんて滅びちゃえば良いのに……」

 千可、と彦星に呼ばれた少女――本名、鵲音千可しゃくね ちか――は、申し訳無さそうな顔を浮かべていた。

 黒パーカーと白短パンを着て、黒い野球帽をかぶった、外見年齢十四歳ほどの少女。

 美少女か否か、と問われれば大多数は『無愛想だが可愛い』とでも言うであろう、黒髪ショートの少女。

 そこまでなら普通なのだが、黒髪ショートの毛先数センチだけが短パンと同色。

 そんな風貌の少女が、彦星の背中を眺めながら溜め息を吐く。

「どうせ寿命なら腐るほどあるんですから、今から来年の予定でも立てておくのはどうですか?」

「ここ数年、七夕に雨が降らなかった例があったかい千可さんや!」

 さっきまでの暗さから心機一転。逆ギレとでも言える怒号を千可へと放つ彦星。

 キラリ、その眼に光るのは涙。

「……悪かったですよ。だから猫みたいにシャーシャー威嚇しないで下さい。猫は苦手なんですから」

「? なんで? そういう属性だから?」

「属性ってなんですか。……猫って、鳥を襲うじゃないですか」

 さて。

 この鵲音千可と言う少女、その正体は人ではない。

 ではどんな正体なのか、と問われれば、まぁ苗字の一文字目でも見て頂ければ分かることだろう。

「神直々に指名された監視役が猫嫌い、ってのも変な話だよね」

「いや、可愛いとは思うんですよ? でも、どうにも苦手意識が……」

「ハッ!? これを利用すれば、一年に一度と言わず、何度でも会いに行けるのでは!?」

「口に出してる時点でアウトなんですけどねー」

「ハッ!?」

「……大体、『七月七日に、晴れていたら会わせてやる』って話なんですよ? 破ったりしたら、その話すら流れますよ?」

「『流れます』、か。やっぱり水は、って言うか雨は忌々しい。水分なんて消えちゃえば良いのに」

「干からびたいんですか?」

「僕には彼女さえ居れば良いんだ! だからモーマンタイ!」

「流石に無理でしょう」

「いや、こんな風に無理矢理にでもテンション上げないと、心がブロークンしそうで」

「なるほど」

 ちらり、と千可は窓の外へと視線を向ける。

 ぎろり、と彦星も窓の外へと視線を向ける。

「次に彦星が会えるのは、いつなんでしょうねぇ」

「来年だよ! 必ず来年だよ! だから不吉なこと言わないで!」

 川のほとりに住む青年と、川に橋を架ける鳥。

 今年も、川向こうに渡ることは無い。

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