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ファンシフル  作者: あーにゃ
新たな出会い・異世界
9/14

過去・辛い別れ

 幸せだったそんな時、学校が終わりいつも通り公園に向かった、そこには空意外に憂李をいじめていたいじめっ子達が遊んでいた……。いや違う、空を、いじめている?


「お前あいつの彼女なのか?」


 男子は楽しそうに問いかける。それに対し空は困った表情で地面を見る。


「俺前見たんだー、太陽……大好きって、アハハハ」


 馬鹿にしたように笑う男子を見て苛立ちと恥ずかしさで頬を赤く染めた。そんな場面を見ていた憂李は公園に入ることができなかった。今入ればどうせやられて空に格好悪い所を見せてしまうと思ったからである。だが、空を助けたいという気持ちもあったため、まだ様子を窺った。


「あいつ、いじめらてるんだぜ知ってた?」

 やめてよ……。


「かなり弱いんだぜすぐ泣くし」

 空にそれ以上変なこと言わないで……。


「あいつは大事な時、お前……捨てるよ」


 その言葉を聞いて空は体を震わせ怖い表情変わり自分を抱えるように座り込んだ。


「また、私は捨てられるの、もう嫌だよ……お母様、いつ戻れば許していただけますか」


 それを聞いた男子達が「なんだこいつ」という目線で空を見た。

 空はオレンジ色の輝く綺麗な空を見上げ涙した。

 そんな時憂李は公園に入り一番前にいた男子に飛びかかった。


「それ以上空に近づかないで!」


 いきなり飛びかかって来た憂李に皆驚き呆然とする。


「僕は空とずっといる捨てたりなんか絶対しない!!」


 それを聞いて空の顔色が変った。涙は止まらず零れるが顔はいつもの笑顔に戻っていた。「ありがと」とそっと呟かれ顔を赤くしながらいじめっ子の男子を睨みつけた。その意外な行動に男子は驚き、なにもしなくただ立っているだけ。


「次、空に近づいたら僕、もう許さないよ」


 今までにない初めての怖い表情に男子は唾を飲み公園を後にした。空は力がぬけたのか地面に座り込み両手で顔を隠しながら泣いた。


「うぅ、大好き、大好き私太陽大好きだよ」


 そう言いながら泣く空を軽く抱きしめた。

 そのまま公園に哲也が迎えに来て憂李と空は別れた。


 僕、明日またいじめられるかもな……。


 家に帰りお風呂場でそんなことを考えていた。


 次の日となり目覚まし時計が鳴り響く。昨日のことを思い出し少し学校へ行くのが嫌だったが行くしかないわけで渋々服に着替え、ご飯を食べて家を出た。

 悲劇と言うものは一度だけではなくこれからそれ以上の悲劇が待ち受けていることに憂李は知らなかった。


ガラガラ~。

 学校のドアを開きひっそりと教室に入った。何故か昨日あんなことがあったのに男子は何もしてこなず、ただ友達同士で話をしているだけだ。憂李は少し安心し「はぁー」と小さくため息をしながら椅子に座った。

 普段なら授業中ノートをまとめる憂李だが珍しく今日は寝てしまった。


『私は知らないっ! 近づかないで』


 頭に声が聞こえてきた何となくそれは空の声にそっくりだった。その声に驚き目を覚まし授業中にも関わらず教室を飛び出した。空が危険、それしか頭になかったのである。とっさにいつもの公園に向かった。そこには空の姿はなかった。いつもこの場にいるとは限らないと思ったが、焦っていたため余計怖くなってきた。


「ねー君」


 後ろからスーツを着た男に声をかけられた。あまりにもいきなりだったため怖い顔で振り向いてしまった。


「おっ、どうしたんだい」


 優しくその男は頭を撫でてきた。だが一瞬にしてその場で意識を失った。


 寒い、暗い、動けない……。

 意識が朦朧とする中ゆっくりと目を開けるが周りが薄暗く場所を特定することはできなかった。ただわかったのが、倉庫らしき場所に誘拐され縛られていることくらい。


「ここは……」

「目を覚ましたかい、君は悪くないんだけどねここに来てもらいたい人がいるもんでな」


 その男の人の笑顔がかなり怖く背筋がゾッと冷たくなった。


「お嬢様? いいかげんにしてください、早く来ないと君の大事な太陽君が消えちゃいますよ」


 何も持っていない状態で手の平を耳に当て電話をかけている様子だ。携帯を持っているわけでもないのにどうやって電話をしているのかとても疑問だ。

 その透明な電話で誰にかけているかすぐにわかった。なぜなら太陽という名を知っているのが空しかいないからである。だが、何故この男は空を探しているのか不思議に思った。


「あの……」


 憂李は恐る恐る声をかけた。するとすぐに振り向き「どうした」という目線で首を軽く横に傾けた。


「空の知ってる人ですか」


 怯えているのかとても小声で話す憂李にまた笑顔を見せた。


「そうだね、空ちゃんね、知ってるよ、親に捨てられた貴族のお嬢様だよ」


 親に捨てられた? 貴族?


 どういう意味か理解できなかった。そんな時「バンっ」と大きな音と共に倉庫の扉が開いた。そこに息切れをしながら立っていたのが空だった。


「太陽から離れて」

「空―!!」

「よかった太陽、巻き込んで本当にごめんなさい」


 その場で崩れるように地面に足をつけそのまま男を睨みつける。


「お嬢様、今すぐ異世界ファンシフルにお戻りください」

「……私を実験台にでもするつもりなの、それは時間の無駄。お母様が言ってた力のないあなたは現世界クレットワードに行きなさいって、邪魔だからって言ってたもん」


 怖い表情で男を見つめ、空は悲しさで溢れていた。その場にいた憂李はまた、何もできずただそこで見てオドオドしていることしかできなかった。


「あなたは強力な力を持っている」

「嘘だよ、能力もあるかもわからない、妹だって水の結晶作れたのに、私には水を掴むことさえできないのに、能力があるっていうの、可笑しいよ……」


 泣きながら叫ぶ空の姿を見て憂李は一粒の涙が流れた。

 能力とか、強力な力とか何を言っているのかわからなかったが辛そうに叫ぶ空の姿が悲しく思えた。


「ではしかたない」


 いきなり男の人は憂李を抱えた。すると憂李にナイフを斬りつけてきた。憂李はそのナイフの先を見るなり怖く何も話せなかった。


「止めてっ」

「なら、私と一緒に異世界ファンシフルに来てくれますね……無能なやつを殺すのは相に会わない」

「うぅ、わかったよ…だから太陽を離して」

「空……」


 ゆっくりと降ろされた憂李は縄も解いてもらった。とっさに空の元に走り抱きついた。


「空、行かないで」


 そんな言葉を聞いて涙を流した空は笑顔で言った。


「必ず……かッならず、ま、また会えるよ……」


 空も憂李に抱きついた。男はただそれを見ているだけでなにやらいろいろ準備をいていた。

 空は力強く抱きしめてきて耳元でそっと呟いた。


「太陽……離れたくないよ」


 そう言うとすぐに空の腕を掴みその倉庫から飛びだした。


「あっ、待て!!」

「太陽っ!」


 逃げたことに気づいた男は全力で追いかけて来た。足が速い憂李だが大人にはやはり勝てない。


「おい、無駄な努力はしなくていい」

「空は、空は僕が守るって決めたんだ」


 憂李達は走るのを止め振り返り、その真っ直ぐな瞳を見て男も言い返してきた。


「お前ではその子を守れない、逆に傷つけるだけだ」


 その男が言ったことは当たっていたため何も言い返せない。確かにいじめられていた憂李は最後まで空を守ることができるとは考えにくい。だがどうしても空の腕を離したくなかった。


「嫌だ。嫌だ。僕だって空とずっといたい」

「わからないやつだなーッ!」


 男は憂李達の目の前まで走て来て憂李を殴り、そのまま地面に叩きつけられた。


「やめてっ、太陽! 太陽……」


 僕は、何をしてるんだ、守るって決めたのに。ずっとそばにいるって言ったのに。


 痛いのも我慢してフラフラになりながら地面に足をつけて立った。


「空……」

「もう、いいよ、太陽、もう大丈夫だから」


 男に捕まった空は大きく腕を伸ばし憂李の首に手をやり顔を近づけ二度目のキスをした。


「ありがと太陽、すごいすごい大好きだよ、本当に大好き」

「僕も僕も空が好き……」

「そうだ、これ……」


 空は首にかけていた指輪のついたネックレスを憂李に渡した。


「これは?」

「私の大切な物……いつか、いつかッ……返しに来てね」

「うぅ……わかった……いつかまた会いに行くから」


 二人の涙は地面に零れる。


「そろそろ行くぞ……オ―プス」


 男は自分の腕に噛みつきそこから出た血を地面に垂らし手の平を地面に向けそう言葉を放った瞬間地面が光り出し、そのまま辺りも眩しくなった。その光が消えると同時に男と空の姿も消えていた。


「空――――――」


 涙が止まらなく長い間その場を離れなかった。



 あの日から年月が立ち中学生となる。

 そこでは、小学生の時の面影はなく雰囲気全てが変わり、よく言う不良などと呼ばれるようになった。


「憂李てめーいつもいつも、なめてんのか?」

「あぁ? 誰だよお前、しらねーな興味ねー」


 凄く荒れてしまった。

 あの日以来弱い自分が嫌で、空手と剣道を習い昔から運動神経がよかった憂李は反射神経もよくなりどんどん強くなっていった。

 ある時は、授業中寝ていた憂李は先生に教科書で頭を叩かれ叱られた。


「何、寝てんだお前は」


 呆れた口調で話す先生。


「いて、眠いから寝る。なにが悪いんだよ」


 先生に睨みつけまた寝ようと机に頭を伏せる。


「では、この問題を解いてからにしろ、しかたないできたら寝ることを許す」


 先生は黒板に問題を書き始めた。しかたなく憂李は顔を上げて先生が書く問題を見つめ、考えた。


「あれ、まだ習ってなくない」

「憂李、先生に目つけられてるからしかたないんじゃね」

「あれ高校レベルだよ。解けるわけないじゃん」


 コソコソと小声でクラスの皆がざわつくその問題はまだ習っていない難問だ。


「なーそれ……習ったか?」


 憂李は問題を見て目を細める。


「習ったぞ、お前は寝てたけどな」

「まーどうでもいいんだけど、簡単な問題をどーも」


 憂李は黒板に向かいスラスラと問題を解く。


「なっ、正解だ。お前予習でもしてるのか」


 先生が戸惑う。


「予習? それ可笑しくない、先生、習った問題って言わなかった?」

「あ・・・あ習ったんだったな、アハハハ・・・」

 先生は苦笑いをする。

「俺・・・寝るから」


 こんな適当な毎日がすぎてやっと入試試験が終わり、無事高校に入学することができたのである。



「憂李君、憂李君!!」

「……ん?」


 声が聞こえる……。これは誰だっけ?えっと……。と考える憂李。

 ぼんやりする意識の中、目を開けるとそこには鈴の姿があった。そう、必死に憂李の名を呼ぶ鈴の姿が……。


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