過去・初めての思い
「ここは……」
見覚えのある部屋のベッドの上で目を覚ました憂李はふと外を見た、それは日が差し明るく時計を見ると針が一三時をさしていた。「イタッ」と声に出しながらゆっくりと体を起こす。体中にはしる痛みはなんなのかを考え、昨日体育館で起きたことを少しずつ思いだすがその後の記憶が全く思いだせない、何故部屋で寝ているのかも分からなかった。
「母さん……」
ゆっくりと階段を下りてリビングに向かうとテーブルに肘をつき何か悩んでいる母さんの姿があり、それが気になり声をかけた。
「どうしたの?」
「あら憂君! 具合はどう」
「うん、大丈夫だよ」
「そおよかった、昨日はビックリしたのよ、哲君が憂君抱えて帰ってくるんだもの」
それを聞いて驚きと焦りの状態になった。それはいじめられていることがバレてしまったと思ったからである。気付いて見ると頬、首、腕、背、足にシップが貼ってあることがわかった。「どうしよう、見つかっちゃった」思わず涙が浮かんだ。
「また、どこか痛いの」
「……ごめん、もう少し眠ってくるね」
心配する母の顔を見たくなかったため、部屋まで走って向かいベッドに飛び込んだ。枕に顔を伏せ泣きながら、悔しい悔しいと布団を蹴飛ばす。そのまま眠りに着いた。
ガチャ……。
「おい、憂李大丈夫なのか」
哲也が学校から帰りベッドの横に座った。憂李は今誰とも話をしたくない状態でもありたぬき寝入りをする。
「お前、体育の授業の時こんな怪我なかっただろ? 何かあったのか」
何も返せなかった。いじめられているから……なんて言えないのである。きっとバレているとは思っていたが自分の口で言うのは嫌だった。ただただ瞳から涙が枕元に零れていった。
「なー憂李、もっと自分に自信を持てよ、お前は俺より才能あるんだぜ?
その才能を生かさねーでどうすんだっつの」
そう言って憂李の頭を軽く二回叩いた。少し嬉しかった。
哲兄は僕の方が才能あるって言ったけど全然違う、だって敵わないもん。友達の中心に立って笑顔で笑い、いつも輝いている。たまに意地悪で口も悪い時はあるけど、僕にとっては憧れの兄ちゃんなんだ……。
「あ、それとな憂李が倒れたこと知らせてくれたのあの公園にいた女の子だ、今度礼言っとけよ」
哲也はそのまま部屋を出た。そのことを聞いた憂李は驚きのあまり声が出なかった。体育館の後の記憶がなくなっていた憂李だが今、その哲也の言葉を聞いて公園で倒れてしまったことを思い出す。助けを呼んでくれた人があの女の子と知って少し頬を染めながら微笑んだ。
『……ごめんなさい』
意識が朦朧としている中公園で女の子がそう言っていたことを思い出し心配になった。
朝になり、昨日は一日学校を休み体の痛みもだんだんと治ってきている。その上女の子にお礼もしたく元気に玄関を飛び出し学校へ向かった。
いじめられていることを忘れていなかった憂李はおそるおそる下駄箱を開けた。そこには普通に何も仕掛けがなく綺麗にシューズがおいてある。なんだか逆に恐ろしくなった。
教室に入ると、いつも通り一瞬皆に見られるが挨拶もなしに普通に空気のように扱われる。だが、本当に妙だった、いつもなら何か仕掛けてくるはずの男子が今日は大人しく友達と話をしているだけ。そうやって時間が立ち帰りとなった。そのまま不思議な気分で公園にむかった。するとそこには女の子が一人で逆上がりをしている姿があり憂李は笑顔で走り向かった。
「おーーい」
「あッ!! えと、怪我大丈夫?」
「うん、君のおかげだよ、ありがとう」
その憂李の笑顔を見た途端女の子から笑顔が消えた。それに気付いた憂李は頭の中で話題を探した。
「そだ! 君の名前聞いてもいいかな」
「……私の名前、ごめんね、お母様に誰にも言うなと言われているの」
お母様?
その言葉を聞いて耳を疑った。なぜならだいたいの人は「お母さん」や「まま」などと呼ぶ。確かに探せはもっといろいろな呼び方をしている人もいるだろう、でも「お母様」と呼ぶのは漫画によく出るお嬢様の言葉だと思っていたため凄い違和感に感じたのだ。
「そっか、う~んでも呼び方がないと……空」
「え?」
「そうだ! 君を今度から空って呼ぶね」
女の子はキョトンとした顔で憂李の顔を覗き込んだ。
「だって僕には君があの綺麗な空に見えたんだ」
そう言いながらまた日が落ちていなく綺麗に光る空を指さした。それを聞いた女の子はいつもの笑顔に戻り喜んでくれた。
「なら、私は太陽って呼ぶ、私にとって君は太陽くらい輝いているんだもん」
その時の笑顔は今までにないくらい、一番輝く綺麗で可愛らしいものだった。そのせいかついとっさに空の顔に近づき唇を重ねた。それに驚く空だったがそのまま目を瞑った。
ずっとこんな日が続けばいいと思っていた。
毎日毎日の学校の帰りはとても楽しみだった。それ以外にも最近というもの学校でもイタズラや嫌がらせがなくなった。何故急になくなったのかよくわからなかったが結果それは嬉しかった。
「おーい空―!」
笑顔で手を振る憂李に空も返して大きく手を振る。
「学校お疲れ様太陽」
とても幸せだった。
「ねー太陽」
「ん?」
「大好き」
空は照れながら憂李の頬にキスをした。そんなラブラブな二人がまさか別れることになるとは誰も思っていなかった。
傍にいたい。
守りたい。
好き。
そんなことばかり考えて幸せな時間が流れて行く。
逆に幸せすぎると思った憂李は次とんでもないことが起こるのではと少し不安になった。
結局何故嫌がらせが無くなったのかまだ謎のままである。
神様、僕を空と会わせてくれてありがとう……。