謎の隠れ家
「きお様……ごめんなさい」
「既羅様!申し訳ありません、ご迷惑を……」
髪をツインテールの赤いリボン縛るリマと腕にリストバンドをしたルマは振り返り既羅の前で膝を地面につけ謝っていた。そんな二人を見た既羅は「はぁー」と一つため息をしながら座り込み、二人の頭をそっと撫でた。
「次はないからね」
ニコッと軽く微笑みながら呟くと二人をようやく顔を上げた。
「既羅様、この人ランクCです。僕たちでは手に負えないです……」
ルマは苦しそうに拳を顔の前で強く握った。弱い自分が情けなく、迷惑かけてしまったという気持ちも重なり瞳から一粒の涙が流れた。リマもそれを見て顔を両手で隠しながら泣いていた。
「フッ、何を泣いているのかしら? まぁ既羅専門奴隷と言っても9歳の子供だものね」
奴隷……?
その小夏の言葉に憂李は耳を疑った。それはこの現世界ではありえない言葉だったからである。奴隷と言うと、なんでも言うことを聞かせ言いなりになるそんな者のことを言うと思う、だが既羅の二人の接し方を見ると普通の兄弟、家族のように見える。少し見方を変えても奴隷と言うより二人が既羅を守りたい、そう思っているように見えた。
「……ハッ! きお様! 腕から血がッ」
小夏のことは後回し、顔を上げたリマは既羅の腕から流れる血に気付き、腕を掴み自分の髪を縛ってしたリボンを外し既羅の腕に巻きつけた。
「リマ、リボン汚れちゃう……これは大切な物でしょ」
「いいんです、それよりきお様の血を止めなくちゃ」
憂李は必死になってリボンを巻くリマの姿、ルマは既羅とリマの前に立ち敵である小夏が襲ってこないよう睨みつけるように見張っている。それに比べて状況が未だよくわかっていない憂李はただそんな姿を見つめていることしかできなかった。
俺は、何やっているんだ? やっぱ、あの時とかわらねー俺は呆然と立っているだけ、役にも立てない落ちこぼれ……。
そう思いながら悔しんでいると既羅達の背後に黒影らしき影を見つけ振り返る。すると剣を振り落とそうとしているのを目撃し、とっさに体が動き庇った。それにより既羅と同じように腕をかすられてしまった。その衝撃で地面に一瞬だけだが横たわってしまい、それに気付いた既羅は焦ったような表情で憂李を見た。それは、前憂李を睨みつけた恐ろしい表情とは全く違ういつもの優しそうな、でも心の奥で憎しみや、いろいろな感情が混じり合った、そんな顔をしていた。
と既羅の腕をリボンで縛り終わったリマはもう片方のリボンも外し憂李の腕を掴んだ。
「じっとしてて、別にこれはきら様を守ってくれたからそのお礼……」
既羅への態度とは違かったが一生懸命リボンを縛る姿を見て軽く微笑んだ。自分のことでそんなに必死になってくれているのが嬉しかったのである。それ以外にも少しでも役にたてたことが嬉しいと思えた。
すると既羅は小夏に聞こえない小さな声で「今から家まで走るよ」そう呟いた。
「何をコソコソしているのよ、いいかげんにッ」
一斉に憂李、リマも立ち急いで走りだした。既羅が先頭になりただそれの後をついて行く。
「ちょ、逃げるなんて卑怯よ」
小夏は叫んでいるがお構いなく走り続ける。そんな憂李の後ろに一人だけ遅れているリマの姿があった。それは鏡の中で走り続けていたせいか体力に限界がきていたのである。それに気付いた憂李は怪我をした方と別の左腕でリマを抱え走りだした。
「な、何するのッ!」
抱えられながら足をバタつかせるリマを見て軽く微笑む。
「ただのお礼だ」
その言葉を聞いておとなしくなったリマを連れて既羅に追いつこうと思い切り走った。すると目の前で普通の家に入りこむ既羅の姿を見て憂李もそこに急いで入った。
「はぁーはぁー」皆息切れをしながらげ玄関で倒れこむ。そこに一人の男が近づいてきた。
「何をしている?」
それは同じくらいの歳で驚きながら既羅の腕を掴みゆっくりと立たせた。
「……既羅腕」
「大丈夫だよ、リマに応急処置はしてもらったから」
「たくお前はありがとリマ、それとルマも」
「……私達はなにも、捕まってさえいなければこんなことには」
とても辛そうにまた泣きそうな顔をする二人に男を微笑む。
「何があったかは後で聞こう、それより……」
男の視線は憂李に向けられた。今にも「誰だこいつ?」といいそうな目線である。それはあたりまえ、見知らぬ男が急いで走りながら急に家に入って着たら誰もがそう思うだろう。
怪我をした腕がジンジンと痛くなり始め押さえる力だ強まった。
「わり、急でたからかってに入っちまった、今出る」
そう言って玄関の扉に手を伸ばした途端目まいがおきてその場で倒れこんでしまった。意識が朦朧としてよくわからない。ただ部屋の奥からもう一人の女の人が走ってきて体を揺すり意識があるのか確認しようとしている。「大丈夫だ」そう言てやりたいが目は霞み口は開かない。そのまま憂李は完璧に気を失ってしまった。
誰なんだろう、あの女? それにここは既羅の家なのか?
既羅は気を失い目を瞑っている憂李をチラリと見て、そこで目を見開いて驚いた。それは片方の瞳から涙が流れたからである。それに気付くその場にいた謎の男陰日澪摩も、謎の女幹野鈴もリマとルマもつられ悲しい顔をした。
澪摩が、憂李を運び、既羅は力尽きて来たのかフラフラとし、鈴の肩を借りて部屋の奥にある大きな扉に向かい入って行った。
……ごめんな空、まだこんな俺じゃお前を守ることはできない……。
弱く落ちこぼれな俺だけど、またあの時みたいに笑顔で「好き」って言ってくれないか。