雨の日の夜
あれから時間が立ち次の日となった。今日もいつも通り珠樹に起こされ毎度のこと兄である哲也と洗面所争い、また、変らない一日が始まろうとしていた。
霧ヶ丘高校一年二組教室。
ガラガラ~。
学校に着いた憂李は教室のドアを開けた。一瞬クラスがザワッっとなり、空気が暗くなってしまう。もちろん「おはよう」なんて言ってくれる友達は存在しない。そんなことは憂李自身が分かりきっていたことでなんとも思ってませんオーラで静かに自分の机に向かい椅子に座った。
「憂李君、おはよ」
そこで昨日褒めてくれた女が笑顔で言ってきた。驚いて目を大きく開いたまま返事を返せなくそのまま女は友達の方へ走っていた。
「既羅~今日遊ぼ~」
「ごめーん用事あるー、しかも今日夕方から雨の予報だよ」
友達と仲良く話をしている女の姿を見て少し羨ましいと思った。ニコニコと笑って一人の女に頭をグシャグシャにされているが嫌がる動作を一切せず「このー」と言いながらやり返す。そんな友達がいたらと憂李は机に肘をつき眺めていた。
名前、既羅って言うのか……。
また眠くなる先生の授業もやっと終わり、帰りとなる。また次々と教室から生徒が出て行く、やがて時間が立った後憂李も帰ろうとバックを机の上に置き帰る準備をし、そっと外を見てみると雲は黒く雨がチラチラと降っていた。風も少し強くなっている。傘を持ってきていない憂李は帰るか、雨宿りをするか考えたが結局しかたないので濡れて帰ることを決意した。
教室を出て急ぎ決めに昇降口へと向かった。雨はどんどんと強さを増している。「はあー」っと大きなため息をしながら下駄箱に手を伸ばすと靴の上に一つ折りたたみ傘が入っていた。誰のだかわからないので少し抵抗はあったが雨は強くなり濡れて帰るのは避けたいと考えその傘を使わせてもらうことにした。開いて見ると絵柄は書いてなくただ透明の傘であり、誰の者かわからないが持ち主に感謝した。
「憂兄おかえり~雨大丈夫だった」
心配してくれているのか珠樹はタオルを持って来てくれた。憂李はその優しさにフッと微笑んだ。
傘はあったとはいえ風も吹いていて少し濡れてしまい、すぐにお風呂に入った。上がってすぐに携帯を充電しようとバックに目をやつとそこには携帯が入っていなかった。
「なー母さん俺の携帯知らない」
母は何も知らないと首を振る。可笑しいと思い哲也に自分の携帯に電話してくれと頼み、かけてもらったが音楽は全然ならない。
あれ? もしかして忘れたのか? マジかよ……。
「憂李まさか忘れたのかよ取りに行くのかー」
哲也は馬鹿にしたように憂李を見て笑った。その顔に苛立ち頬を膨らましムスッとしている。その姿を見てまた哲也は笑う。
この暗い時間に、こんな雨の日にまた学校へ行こうとは思わない。明日学校で探せばいいと考えた。渋々と部屋は向かいベッドに横になり電気を見つめる。
『既羅様ッ……』
急に頭に流れて来た言葉にハッと驚き体を起こす。頭に響くその言葉、それにでてきたのはどこかで聞いたことのある名前。すぐにはっきりとわからずその名が誰だったかを考えていた。
『既羅様! 気をつけて』
また流れてきたその言葉でやっと思い出したのである。その名は同じクラスの女の名前。なぜ頭に言葉が流れてくるのか分からなかったがとにかく既羅が危険だと思い急いで階段を下り、玄関へと向かった。
「あら憂君? どこ行くの?」
「わり、携帯取ってくる」
焦りながらシャツの上にパーカーを着て家を飛び出した。理由はどうあれ外は暗く雨が降っている、そんな状態の中外に出る憂李の行動に家族全員不思議そうに見つめ心配していた。
……ってどこにいんだよ!
飛び出したのはよかったが場所も分からず探しようがなく、少し濡れてしまったせいか肌寒く暖かい物を買おうとコンビニに向かっていると一人の女が傘も差さずに空を見ながら立っていた。
その女は雨のせいか瞳の方から頬へ顎へと水が零れ、それが憂李には泣いているように見えた。
「な、風邪引く……」
とっさに女に傘を傾けた、すると女は憂李の方に振り向いた。その女は探していた既羅であり、何故こんな所に一人で立って雨に濡れているのか理解ができなかく、既羅も驚いて目を大きく開き憂李を見た。
少しの間沈黙となりザーザーという雨の音が大きく響く。既羅の髪から水が滴り今にも風邪をひきそうな状態でそんな時「くしゅん」と可愛らしいくしゃみをした。
「お前何やってんの、女が一人でこんなとこ居んじゃねーよ、送ってく」
「いいの気にしないで私友達を探しているの」
笑顔で憂李に言うと傘から出てまた空を見上げた。雨が顔、髪に降り注ぐ。憂李はその既羅の行動に少し苛立ち傘を既羅に傾け睨みつけた。
「どうでもいいけど、この傘使え、俺今から帰るから」
そう言って傘を渡そうとした瞬間に雨がピタリと止み、向こうから一人の着物を着た女が現れた。その女はどうやら憂李達の方へ前へ前へと近づいてくる。
……幽霊?
それはまるで幽霊のようにゆらゆらと歩いている。不気味になった憂李は顔色を変えてジッと見ていた。
「既羅~わかっているね」
不気味に微笑むその女は既羅の名前を知っていた。憂李は既羅を見てみるとニコニコといつもの笑顔で女を見ている。この状況についていけない憂李は傘をたたみそのまま何もなかったかのように帰ろうと、後ろに振りかえるとそこには黒いスーツを見た集団が二人を取り囲んでいた。
「黒影その男を捕まえて」
その命令を聞き黒影は憂李に向かってふわふわと宙を浮き向かってくる。黒影に捕まった憂李は身動きを取れなくただボケーとこの状況をどうすればいいのかを考えた。
混乱している憂李を見て女は自己紹介をしてきた。
「私の名は厘坂小夏。エヌオーフォーに属するもの、既羅早くしないとその男、それに双子も殺しかねないわよ」
既羅の目が一瞬小夏を睨む。一瞬だったが既羅が睨む顔を初めて見た。だがすぐに笑顔に戻りやっとにことで口を開いた。
「小夏……早く二人を返してほしいなそれとその人を巻き込まないで」
とニコニコと微笑むながら言う既羅に一枚の大きな鏡を出してきた。その鏡には少年少女が走り続けている姿が映った。
どうしていいのかわからない憂李は捕まったまま既羅と小夏を交互に見た。