貴棟家
守りたかった……。
そばにいたかった……。
弱い自分が憎すぎる。
誰かを守れるくらいの力が欲しい。
あの日あの場所初めて君とあったあの場所でもう一度、俺に好きだと言ってくれないか。
高校一年生の貴棟憂李はベッドに横たわりながら首にかけてある綺麗な指輪のついたネックレスを顔の上に持っていき強く握りしめた。
「待ってろよ、絶対に見つけ出すから……」
歯を食いしばり悲しく、辛い表情をしている。
バンッ!
と部屋のドアが思い切り開けられた。そこから髪をポニ―テールに縛った小学五年生の少女貴棟珠樹という憂李の妹が入って来た。
「憂兄! もう朝だよ、起きなさーい」
そう言ってカーテン、それに窓も開けられ眩しい太陽の光が部屋中を明るく照らし、やわらかな暖かい風が入って来た。憂李はその眩しさに目を細めすぐさまネックレスをシャツの中へしまった。
「おい、珠樹いつも言ってんだろ? いきなりカーテン全開すんじゃねーよ」
目を擦りながらゆっくりと体を起こす。
「だってそうでもしないと起きないでしょ、後もうご飯の用意できてるからね」
ニコニコと微笑みながら部屋を出て行った。階段を下りる足音は何かのリズムのように聞こえ、憂李はとっさに微笑んだ。
何で朝からあんな元気なんだ? ま、いーけど。
憂李はベット、そして階段を下りて洗面所へと向かい鏡を見つめた。そこに映る自分は、寝癖がついていてとてもダサいかった。
そのまま髪全体を濡らしドライヤーで丁寧に乾かし、ワックスで髪を整えていた。
「おーい、いつまでそこ占領してんの? いいかげん俺使いたいんだけど」
一人の男貴棟哲也は、珠樹、憂李の兄である。今は大学一年生として勉強をしている。とは言ってもそんなに頭がいいわけではない。勉強、スポーツ、料理、全てにおいて憂李より下である。
「起きるのおせーのが悪いじゃん」
凄い嫌そうな顔で哲也を見て、手を止めることなく髪のセットをしていた。それに少し苛立ったのか憂李を肩でグイグイと押し、自分が鏡に映る範囲まで入って来た。
それにまた嫌そうな顔で哲也を見ると、何もなかったかのように歯ブラシを取り歯磨きを始めた。
やっとのことで髪のセットが終わりリビングへと向かう。
「あら、憂君おはよう」
「おぅ憂李! 今日も元気に行くぞ」
そこにはお弁当を作っている母と珠樹の姿と、ご飯を食べながら騒ぐ父の姿があった。
貴棟家はとても個性的な家族で毎日毎日がとても疲れる日々。
「はよ」
今日も憂李は面倒くさそうに呟いた。
そんなそっけないあいさつに皆が微笑んだ。