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四話

 結果的にいえば、古賀先輩の写真は渡すことができなかった。


(だって、試合や練習の写真じゃないし。ほぼ隠し撮りみたいなものだし)


 そうやって自分に言い訳しているということを千菜は分かっていた。結局、あの写真を人目に触れさせたくないのだ。あの表情を知っているのは自分だけ。やや後ろめたくも優越感に似た感情に千菜は薄々気づいていた。

 目を逸らしたくても逸らしてはいけない負の感情。


(でももうちょっと、きれいな恋をしていたい)


 この恋がどう育っていくのか、千菜は少しの不安とたくさんのドキドキが待つ流れの中に身をゆだねたのだった。



* * *



 榎本に頼まれ、翌日大量の写真を持っていくと彼は驚いた表情を見せた。確かに多いかもしれない。でもデータに保存しておくのならばいくら撮っても邪魔にはならない、と思うとついつい写真は増えていってしまう。基本的にはその中から気に入ったものだけを現像しているのだが、今回サッカー部の写真全て、ということで現像したら150枚を軽く超えてしまった。

 その中からさらにアルバムに入れるものを選んでいくのは結構な作業になる。一応、1、2年生で相談してみると榎本は持っていったが、案の定収集がつかなくなったようで、選別作業は榎本に一任されたようだった。


 そして数日後の今日はキャプテン容認のもと、千菜の力を借りながらアルバムに入れる写真を選ぶことになっていた。それなのに、なぜこの人がここに来るのだろう?千菜の頭の中は予想外の人物の出現に思考が停止してしまった。



 ほんの1分前のこと---


 ガラガラと教室のドアが開き机の上に写真を並べていた千菜が振り返ると、そこにはサッカー部副キャプテンの古賀の姿があった。予想外の人物の出現に、思わず動きがぴたりと止まる。


(夢?えっ、なんでこの人が来るの!?)


 内心パニックになりながら、外から見れば体はぴたりと固まったままだ。


「吉野千菜?」

「は、はいっ!」


 名前を呼ばれ、現実だとようやく悟る。次いでカァっと赤くなった。自分ではどうにもコントロールできない気持ちに振り回されているのがわかる。古賀がどうしてここに来たのか聞きたいが、言葉が全く出てこない。


「榎本が急に来れなくなったから、代わりに手伝いに来た」

「え、あ、はいっ!すみません、お忙しいのに」

「いや、面倒かけてるのはこっちだから気にするな。何をすればいい?」

「じゃあ・・・写真を並べるのを手伝ってもらえませんか?」

「わかった」


 おずおずと手伝いを頼むと、古賀はさっと千菜から写真を受け取り机に並べていく。とりあえずまずは全部に通しナンバーを打って、その中から先輩それぞれが写っている写真を中心に選んでいくことになっていた。

 写真を並べ終わると番号を書いた付箋を貼っていく。しばし静かに時間が流れるがその逆に、千菜の心臓はドキドキとうるさく鳴っている。古賀がいる右側が熱い。そんな中---


「・・・この前は悪かった」

「え?」


 古賀がぽつりとつぶやいた。突然の謝罪に何のことかと千菜は戸惑い、思わず古賀の方を向いてしまう。彼は、あの写真のようにこちらを見ていた。その視線に千菜の心臓がドクリと大きく音を立てる。


「この前、写真に興味がないと言っただろう。悪かった、あんなことを言って」

「そんな、謝ってもらうことじゃありません」


 あわてて頭を振ると、古賀は真剣な顔で話を続けた。


「もともと、そんなに写真を撮る方じゃなかったんだが、断るにも言い方が悪かったな。あの時は少し気が立ってて、八つ当たりしたようなものだ。吉野には悪いことをした」

「えっと、あの・・・」

「榎本が写真を持ってきたときも、興味は全くなかった。だけど、見て驚いた。なんというか、どの写真も今にも動き出しそうだった」


 「いい写真だった」そう言った古賀のまとう空気が、気のせいか柔らかくなった気がした。

 

「ありがとうございます」


---誉められた


 ふわふわと足下が浮き上がる気持ちになって、思わず千菜の頬が緩む。

 古賀がピタリと固まった。


「古賀先輩?」


 怪訝に思いきょとんと首を傾げて古賀を見上げる。はっと我に返り「何でもない」と答えた古賀は、その後最低限の会話しかすることはなかった。 





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