「フフフ、奴は我が課の四天王のなかでも最弱!」……ん? 課って何だ?
少し遅くなりましたが、小説を書き始めて五周年&なろうで公開している作品200作目記念として書きました。
よろしくお願いします。
勇者パーティは長旅のなかで数々の魔物を倒し、やっと最終目的地に辿り着いた。
どんよりとした曇り空を突き破るように堂々とそびえ立つ魔王城。
その一階の正面入口の大きな両扉を、勇者と戦士との二人がかりで押し開ける。
丁寧な装飾があしらわれた重い扉がギギギギィ……と断末魔のような叫びをあげた。
中に入るとそこは漆黒の絨毯が敷かれた縦長の部屋だった。玄関ホールだろうか?
ギャアギャアと耳障りな声を上げながら、蝙蝠の羽を持つ小さな魔物が頭上に何匹も飛んでいる。だが奴らは侵入者である勇者パーティーには目もくれず、右往左往しているのだ。白くて丸いものを両腕に抱えて。
「早くそっちの照明も替えろ! あっ、落とすな! そのLDE電球高いんだからなァ!!」
ホールの奥に、小悪魔たちに向かって口角泡を飛ばし指示を出す者がいた。身体も大きく身に着けた衣服も立派で、大きな二本の角を頭に抱いた魔物だ。どう見てもその辺の魔物とは一線を画す実力者である。
(くっ、強そうだ。これは多分……)
(中ボスってやつか?)
(中ボスね!)
(うん、魔王城の入口を守る中ボスに違いない)
勇者、戦士、僧侶、魔法使いがそれぞれに確信したその時。
魔物も勇者パーティに気がついた。
「はっ、侵入者!? ……いっ、卑しいニンゲンめ、こんなところまで来おったか。この双角のゴートンが相手になろう!!」
双角のゴートンとの闘いは厳しいものだった。彼はその巨躯に似合わぬ軽快なフットワークの遣い手であったのだ。
勇者と戦士は後衛を護りながらゴートンの猛攻を凌ぎ、反撃を積み上げる。その繰り返しの末に漸く勝利をもぎ取った。
「メ、メェ……無念」
ドォンと派手な音を立てて床に倒れるゴートン。その音を聞きつけたのか、新たな魔物がホールの奥に現れた。手には書類をファイリングしたらしき冊子を5冊も抱えて。
そしてこれまた大きな身体にぐるりと曲がった二つの角を持つ、ただ者ではない雰囲気の魔物である。
「フフフ、ゴートンを倒したか……だが奴は我が課の四天王のなかでも最弱!」
「四天王だと!?」
勇者、戦士、僧侶の中で焦りと高揚感が同時に湧き上がる。
(やっぱり中ボスだったのか! しかし、四天王ということは……)
(あれだけの強さを持つ……いいや、それ以上の魔物があと三体もいるということだ!)
(でもっ、その四天王を全て倒せばいよいよ魔王に挑戦できるんじゃないかしら!?)
そのなかでただひとり、魔法使いは小首を傾げた。
(ん?「課」ってなんだ?)
「我が名は歪角のシープァス! いざ参る!!」
歪角のシープァスとの闘いは壮絶であった。彼はその巨躯に似つかわしくない、こまかいところに気がつく目と、攻撃を受け流すフワフワの毛皮の持ち主であったのだ。
少しでも勇者パーティの動きにミスがあれば、そこを容赦なく突かれる。彼らは一糸乱れぬ完璧な連携を続け、なんとか勝利をもぎ取った。
「メェ……後は頼みましたぞ係長……」
ドドォンと派手な音を立てて床に倒れるシープァス。その音を聞きつけたのか、さらに大きな魔物が現れる。
「おお。シープァスを倒すとは、ニンゲンのくせになかなかやるな。だが奴は我が課の四天王の中で下から二番目! この鋭角のディアードは一筋縄では行かないぞ!!」
鋭角のディアードとの闘いは難儀をきわめた。彼はその巨躯にもかかわらず、素早い動きと多彩な音波攻撃、そしてその合間に鋭い角での体当たりを繰り出す強者であったのだ。
だがゴートン、シープァスとの連闘で、素早い動きや細かい攻撃への対応をしていた勇者パーティも短期間でレベルアップしている。
激しい戦いの末、勇者たちはなんとか勝利をもぎ取った。
「キュウー……か、課長、申し訳……ござ、いませ……」
ドドドォンと派手な音を立てて床に倒れるディアード。その音を聞きつけたのか、とんでもなく大きな身体に、豪華な装飾品を身に着けた魔物が現れる。
装飾品とは、顔に金縁の眼鏡、身体にはピシッと糊とアイロンの効いた白いシャツと黒いスラックス。腕には汚れ防止の黒いフワフワカバーである。
読者の皆様方にはここでひとつ、説明させていただきたい。
ここは異世界なので、勇者達は金縁とかアイロンとか腕カバーが何かわかっていない。ただ、とても質が良いので豪華で高級品だということだけは見てわかるのだった。
「くらえ! スーパーソードアターーーック!」
「モオォォォォォ!!」
おっと、説明の間に大きな魔物……剛角のカウズは勇者パーティによって倒されてしまったようだ。彼はかつては「総務課四天王」と言われ、その四名の中でも最強だったはずなのだが……。
長年管理職に就いていた為、現場でちょこまかと動くことが少なかったので体力や攻撃力が落ちていたのだろう。
「モォ〜無念……しかし緊急アラートだけは……」
剛角のカウズは倒れる前に手にしていたタブレットを操作した。魔王城内の全員の連絡先が入っているメーリングリスト宛に「緊急事態! 危険な侵入者に玄関ホールにて遭遇。総員対応すべし」と送信したのである。
流石は総務課長。
「よし! 四天王を倒したぞ!」
「これで次は魔王ね!」
「一気に進もう!」
「待って、何かがおかしいんじゃ……」
魔法使いの制止を無視し、三人は意気揚々と先に進もうとする。しかしホールの奥に、たった今駆けつけた者が立ちはだかった。手には不審者対応用のサスマタを持っている。
「何ッ!?」
「まだこんな大きな魔物が……っ!?」
「四天王を倒したはずじゃなかったの!?」
「ヤバい予感がする……」
動揺する勇者パーティと、地面に倒れた総務課四天王を見て、その魔物は雄叫びをあげた。
「ツピイイィィィ! 何やってんのよアンタたちィ!! この飛燕のスワローヌ様が許さないんだからねぇ!!!」
濃紺の美しい燕尾服を身に纏い、頬を真っ赤に膨らませた飛燕のスワローヌはサスマタを振り回す。
「人事課四天王のアタシを倒してみなさいっ!!」
「なっ!?」
「四天王だと!?」
「どういうこと!?」
「……あぁ、なんかわかんないけど、多分簡単には終わらないやつだこれ……」
飛燕のスワローヌは大変に手強かった。
だが勇者パーティはからくも勝利をもぎ取った。
「ピョェ……でもアタシは人事課四天王のなかでも最弱……アンタたちなんか主任と係長と課長がいれば……グフッ」
スワローヌがドォン! と倒れたのと入れ替わりに新たな魔物がやってきた。どうやら噂の人事課四天王、主任と係長と課長らしい。
「おのれニンゲンめ! この嘴で八つ裂きにしてやる!!」
しかし勇者パーティも連戦に次ぐ連戦のなかで相当にレベルアップしている。
死線をくぐり抜けながら、かろうじて勝利をもぎ取った。
「はあ、はあ……でもこれで漸く魔王に会える……」
「グフッ……憎きニンゲンよ。お前が魔王様に会うなど百年早いわ……」
「なに!?」
息も絶え絶えになりつつも、魔物はニヤリと笑う。
「わ、我らが時間を稼いでいる間に、経理課四天王が得意の計算で鉄壁の防御陣を敷いておる……外回りの営業課四天王も至急戻ってきているはずだ……挟み撃ちにしてくれる、わ……」
「な、なんだと!?」
「四天王どれだけいるのよ!?」
「駄目だ勇者! 俺も僧侶も魔力を使い切ってるし、もうこれ以上は無理だよ!」
「くっ……」
魔法使いに泣きつかれ、勇者は唇を噛み、そして苦渋の決断をした。
「ここは一度撤退する!」
★
一度はボロボロになり戦略的撤退を余儀なくされた勇者パーティだったが、すぐに直近の街で体力と魔力を回復し、体勢を立て直した。
更には今までの旅や今回の魔王城突入で得た金銀をすべて換金し、装備や薬、アイテムなどに惜しみなく金を使って戦力を強化する。
万全の態勢で再び魔王城へ向かった。
この作戦が見事に功を奏したのである。
総務課と人事課の四天王達はまだ傷が完全には癒えておらず簡単に征することができた。
「くらえ! ダイヤモンドソードアターーック!!」
「グアァァァァァ!!」
戦力を強化したことによって経理課四天王の防御陣も打ち破り、営業課四天王の攻撃の激しさにはかなり苦戦させられたが、どうにか勝利をもぎ取った。
その勢いのまま、奥の魔王の部屋に飛び込んだ勇者パーティ。
「魔王、覚悟!!」
「ククク、ニンゲンたちよ。私の魔力で消し炭にしてやろう!」
魔王は流石は魔王を名乗るだけあった。彼の手から放たれる魔法の炎は強大で、少しでも触れれば本当に消し炭になりかねない。
しかし経理課との闘いで敵の防御陣を解析した僧侶が、それを応用して聖属性の防御陣を展開することで何とか凌ぎ、死線の綱渡りではあったがパーティ全員が全力を尽くすことで勝利をもぎ取った。
「遂に魔王を倒したぞ!」
「やったな! 魔王軍壊滅だ!」
「これで遂に王宮に帰れるわね!」
「長い旅だったなぁ〜」
「ククク……愚かな」
「!?」
勝利の喜びに浸る勇者パーティの四人を嘲笑うものがいる。他ならぬ、床に倒れた魔王だった。
「ク……この私を倒しただけで魔王軍が終わりだと?……随分な間抜けどもだ……」
「何!?」
「どういうこと!?」
自らの命の灯火が弱まりつつあるのを確実に意識しながらも、魔王はその心までは屈せずに嗤った。
「ククク! 我は取締役会四天王の中で最弱! まだ大魔王と大々魔王と超魔王がいる!! 奴らに塵にされるがいいわ! ククククク……ぐはぁッ」
魔王は意識を失ったのか、倒れたまま黙ってしまった。勇者パーティもしばらく呆気にとられたままで、魔王の部屋は静寂に包まれる。
少しして、戦士がポツリとこぼした。
「……どうなってんだよ。また四天王って」
勇者が気を取り直したのが、元気づけるように言う。
「だ、大丈夫だ! その四天王を全部倒せば今度こそ魔王軍は壊滅だ!」
と、気絶していたはずの魔王がムクリと頭をもたげる。
「あ、言い忘れていたが魔王四天王の上に、会長と名誉会長もいるからな」
そしてまたパタリと倒れた。
★
勇者パーティは再び戦略的撤退を余儀なくされた。
そして借金をしてまで最高級の装備を買い込み、更なるアイテムと薬によるドーピング強化を施して、三度の魔王城突入をしたのである。
「くらえ! オリハルコンソードアターーック!!!」
「ギャアァァァァァ!!」
この作戦も功を奏し、死後の世界に片足を突っ込みながらも何とか魔王四天王の残り三体と、会長、名誉会長から勝利をもぎ取った。
「今度こそ、魔王軍壊滅だ!!」
「俺たちの勝利だー!!」
「ううっ、嬉しい……やっと帰れる」
「はぁ、死んだおばあちゃんの顔が見えた時はどうしようかと……」
ボロボロになりながらも、勇者パーティは王宮に戻る。謁見の間で王に報告をした。
「勇者たちよ、よくやってくれた」
「はい。それで約束の褒美を……」
「あ、ああ……それか」
途端に王の顔色が悪くなり、目線を明後日の方向にやる。
「悪いがちょーっとだけ待ってくれんかの」
「? 何故ですか!?」
「我らがこの王宮を出る前に褒美は用意済みだったでしょう?」
そう、魔王軍壊滅の命を受けた時に、王は宝箱に詰まった金銀宝石を見せ「これが褒美だ」と約束していたのだ。その宝箱は、今も王座の横にちゃんとある。
「そ、それがなぁ。お前達、何度も魔王城から逃げ帰ってはまた挑戦して、敵の壊滅までにかなり時間がかかったじゃろう? 本来ならお前達が帰ってくるのはもっと早い計算だったから……」
王は額の汗を拭き拭き言い訳をした。
「その、今日が株主総会の日で……ワシ、王様を解任されちゃうかもしれないんじゃ」
「は?」
王の言い訳を理解できず呆然とした勇者パーティの隙を突き、王は宝箱を抱えて後退りして逃げだした。
「大丈夫……大丈夫! 株主総会で魔王軍壊滅の成果を発表すれば、ワシのクビは繋がるから!! だからちょっと待ってて!! ね?」
なんてことを言いながら。
なお、LDE電球はわざとでして、誤字ではありません。
Long-lasting, Demonic Energy(長寿命悪魔的エネルギー)の略なのです。
これを考えるのにめちゃくちゃ時間がかかり、執筆が滞っていました。多分、全体の執筆時間の5割を占めています(アホすぎる)。
お読み頂き、ありがとうございました!
近年は異世界恋愛ジャンルの投稿が多めでしたが記念作ということで初心に帰り、短編コメディーにしてみました。
こんな感じのお話が気に入って頂けましたら、
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