野村雄―4
親友である高木惣吉の言葉を聞いて、改めて野村雄は考えざるを得なかった。
流石、自分の親友の高木惣吉だ、実際に自分がそういった運命を歩んだ場合について、かなり言い当てていると言えるだろう。
だが、それだけでは済まない事態が起きたらしいのだ。
らしい、になるのは、自分が経験した訳では無く、生まれ変わって来た彼女達、岸忠子、篠田りつ、村山キク、ジャンヌ・ダヴ―の異世界体験を聞かされたことからの推測だからだ。
もし、自分が陸軍士官になっていたら。
その世界に赴いた篠田りつ、現世では土方鈴は、自分に告げた。
貴方は、私と結婚して暖かい家庭を築いて、陸軍で順調に出世していった。
更に、千恵子を始めとする複数の子にも恵まれた。
だが、第二次世界大戦で、私達の間の子は、全員が戦死し、更に自分達に孫を遺さなかったのだ。
そして、私と貴方は、第二次世界大戦後、支え合って二人で老後の生活を過ごすことになった、と。
(野村雄と篠田りつは、1892年生まれなので、第二次世界大戦終結時、既に50歳代でした)
何で千恵子まで戦死したのだ、と自分が尋ねたら、鈴は自分から目を反らせて答えた。
「千恵子は、お父さんの傍で戦いたい、と言って、軍医士官になって、戦死したの。千恵子は、あの世界では、本当にお父さん子だったわ」
鈴は、それ以上は、どうにも言えなくなって、無言で涙を暫く零し続けた。
他の3人、岸澪や村山愛、ジャンヌ・ダヴ―の目が痛くてならなかったが。
僕は鈴を抱きしめ、鈴は僕の胸の中で暫く泣きじゃくったのだ。
更に鈴は、その世界について、僕に驚くべきことを告げた。
岸忠子は土方歳一(土方歳三の孫)と結婚して、3人の息子に恵まれたが、息子全員が戦死したこと。
その為に土方家は断絶してしまったこと。
村山キクは、横須賀一の芸妓として名声を遺したが、生涯独身で、一人寂しく孤独死したこと。
ジャンヌ・ダヴ―はユニオン・コルスの大首領の愛人兼大幹部となって、殺人等の罪を犯して、ギロチンで死刑になったこと。
それを横で聞いていた3人も、それは充分にあり得た、と肯定した。
岸忠子は、一時、土方歳一との縁談があったらしい。
村山キクにしても、幸恵を妊娠しなければ、生涯、芸妓を貫くつもりだったとか。
ジャンヌ・ダヴ―に至っては、自分から目を反らせて言った。
「両親も早く死んで、唯一の肉親の兄も戦死したからね。捨て鉢になって、街娼をしていたの。でも、貴方に抱かれて、アランを妊娠して、それで改心して、真っ当な人生を送れたの。件のユニオン・コルスの大首領だけど、子種が無かったようなのよね。だから、あいつの愛人になったら、妊娠できなくて、私は改心せずに、犯罪に奔って、死刑になってもおかしくないわね」
それを聞いた他3人は、何とも複雑な表情を浮かべて、ジャンヌ・ダヴ―を睨む事態が起きたが。
自分、僕は改めて、自分の選択肢が、彼女達4人に与えた影響力の大きさに驚いた。
だが、これは、まだ序の口と言えた。
「貴方が陸軍士官になった世界では、アラン・ダヴ―は存在しなかった。その為でしょうね。フランスは、1958年に内乱状態になって、パリで核兵器が炸裂することになり、第三共和政は崩壊したの。私は考えたわ。私が望んだ世界で、何でこんな事態が起きてしまったのか。私は幸せを望んではいけなかったのか。子どもをすべて失い、フランスを崩壊させるなんて。私は知らなかった、で済む話かしら」
土方鈴は、そう自分に更に語ったのだ。
勿論、これは偶々といえることなのだろうが。
だが、僕にしてみれば、余りにも重過ぎる話だった。
僕が、海軍ではなく陸軍に入ったら、そんな影響が起きてしまったとは。
フランスの核兵器ですが、1960年前後のアルジェリア紛争時にアルジェリア駐留軍が核兵器を確保してパリを破壊する、とフランス本国政府を脅迫する事態が、史実で警戒されたのを参考にしています。
だから、全く荒唐無稽な話では無いのです。
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