高木惣吉―2
そんなことを、目の前の親友、野村雄が考えていること等、高木惣吉にしてみれば、思いも寄らないことだったのだ。
そうしたことから、野村雄にしてみれば、何とも言えない問い掛けが為されることになった。
「アラン・ダヴ―が、フランス救国の英雄になるとはな。アラン・ダヴ―がいなければ、フランス第三共和政は崩壊した気がするぞ。更に言えば、アランはお前と街娼(のジャンヌ・ダヴ―)の間の息子だな。街娼の息子が、祖国を救うと言うのも皮肉な話だな」
自分、高木惣吉は酔いに任せた体を装って、そんなことを言った。
「確かにそうだな」
野村雄は、(後述するが)自分の子孫の史実等の様々な運命の違いもあって、そんな返しをした。
アラン・ダヴ―は、1958年のフランス第三共和政の最大の危機だった、と言われたあの時に。
「私はダヴ―の名に懸けて、祖国フランス(第三共和政)に忠誠を誓う。それこそ皇帝ナポレオン1世に対して、ダヴ―元帥が最後まで忠誠を誓ったように。心あるフランス軍の面々よ、今こそ私と同様に祖国フランスに忠誠を誓って欲しい」
そうラジオ等でフランス軍の将軍であるアランが獅子吼したことから、フランス軍の多くが、クーデターに反対することになり、フランス第三共和政は護持されることになって、フランスは救われたのだ。
「英雄の父に成れて嬉しくないのか」
「嬉しいさ。でも、それ以上に子ども5人が、母親同士の仲は未だに微妙だが、仲良くしているのが、自分としては嬉しくてならない」
「確かにそうだな」
二人はやり取りをした。
高木惣吉は、改めて親友の子ども5人のことを考えた。
それこそ1度に4つ子が産まれたようなものだったのだ。
親友曰く、
「給料の9割が、その日の内に消える始末だった。子どもの養育費の支払いに追われてな」
最も、そんな日々も、それなりに落ち着くものだ。
海兵隊士官として、順調に出世したこと、更に周囲からの金銭等の援けもあったことから、徐々に貧しいながらも、楽しい我が家という形になっていった。
そして、こいつなりに姉弟間の仲を良くするのに努めたことから、母親が全員違う4姉弟は仲の良い姉弟として育つことになった。
遂には長姉の村山幸恵の異父妹、美子が、義兄妹(?)になる岸総司と相思相愛になって結婚し、家庭を築く事態が起きた程だ。
(最も母親同士の関係は、ずっと微妙では済まないままだった。
特に正妻である忠子とそれ以外の3人の関係は、険悪に近いモノがあった。
親友の弁解を信じれば、更に周囲の話によれば、村山キクは別の男性と結婚したし、篠田りつとの関係も断っていたのだが、妻の忠子にしてみれば、夫の元彼女(?)は、どうにも許せなかったようだ。
そんなことから、親友と妻の忠子との仲は微妙としか、言いようが無かった。
親友としては、忠子を正妻として立て続けたし、子どもを気に掛けない訳には行かない、として子ども4人に関わり続けただけなのだろうが。
忠子にしてみれば、何時、焼けぼっくいに火が付くか、気が休まらなかったようだ。
そんなことから、忠子は2人目を産むのを拒絶する有様だった。
そういったことが、結果的にスペイン内戦時に、ジャンヌ・ダヴ―と親友が再会した際、親友の歯止めが効かない事態を引き起こしたのだろう。
親友は、5人目の子となるファネットを、ジャンヌに産ませてしまったのだ。
そのことに忠子は激怒したが、総司を始めとする子ども達全員が、忠子を逆に非難した。
お父さんがあれ程、歩み寄っていたのに、拒絶したのは忠子では、お父さんは悪くないよ、と。
WWⅡ後、忠子が離婚を決断したのは、親友の不祥事(?)もあったが、この非難も大きかったのだろう。
少し補足説明します。
この世界では、第二次世界大戦でフランスが敗北しなかったこと等から、21世紀になってもフランス第三共和政が健在なのです。
話中の描写は、そう言った背景があります。
ご感想等をお待ちしています。




