第四話『隔離区画』
鉄の扉が音を立てて閉まり、足枷のように重い静寂が落ちた。
通されたのは、白と灰色だけで構成された長い廊下だった。
床にはラインが引かれている。
「ここから先は判別不明区域。」
「悪魔かもしれない人間たちの、仮居場所よ。」
大男がいった。
扉が開くと同時に
「おーい、こっち!」
突然、人間らしい声が響いた。
振り向くと、少年がこちらに手を振っていた。
年は俺と同じくらいか、少し下か。
「君、レンでしょ?噂になってるよ。悪魔と遭遇して生き残ったって!」
桐谷ライ(BLADE)
胸のパッチにそう書かれている。
目はまだ濁っていない。
この施設の空気に染まりきっていない、“普通の人間の目”をしていた。
「よく生きてたよな。すげぇよ。……あ、そういうの不謹慎だったらごめん」
――素直すぎるほど素直。
その瞬間。
「ライ、距離を取れ」
低く鋭い声が走った。
現れたのは、鋭い目をした青年。
如月ユハ(HOUND)と書かれている。
「新しい判別不明対象に近づくな。汚染されたらどうする」
「お、おいユハ。 “汚染”って言い方は──」
「事実だろう。
“悪魔と同距離で血を浴びて生還”──
それだけで、十分に疑わしい。」
ユハの視線は、悪魔を見る時と同じ目だった。
その目に、かすかな殺意が宿っているのを感じた。
……その瞬間。
「おーい!やめやめ!ここは隔離区画であって処刑場じゃないんだからさー」
空気が少しだけ、柔らかくなった。
振り返ると、少女がいた。
白い医療服に、無駄に大きい荷物。
明るい声。それだけで、この施設には不釣り合いだった。
水城ミオ(サポート班)
「レンくんだよね?
とりあえず──
“ようこそL.A.B.へ、生き延びた人”」
その笑顔は、本当に自然で。
だからこそ、不安になるほど優しかった。
「君、レン君だよね?初めまして!私、ミオっていいます!仲良くしてね~」
そう言われると手を伸ばされた。
…?なんだ、この手は。
「ちょっと!握手だよ!握手!君、こんなことも察せないなんて、ほんとは悪魔なんじゃな~い?」
いたずらっ子な顔をして笑いながら握手する。
何だこの子は。馴れ馴れしいな。
そんなやり取りをしていると、低い声が響く。
「しばらくこいつも判別不明区画で過ごしてもらう。ライ、ユハ。引き続き仕事に取り掛かれ。
ミオ。こいつを案内してやれ。話は以上。」
「はい!」
「かしこまりました。」
「承知です!」
それぞれが返事して散らばっていく。
俺はどうしたらいいんだよ。というか、急に連れてこられて何の説明もないとか優しくないな。
ボーっと立っていると、
「ごめんね!おまたせ!レン君?大丈夫?」
俺は疑問を口にする。
「なあ、俺は何したらいいの?」
きょとんとした顔をしながらミオが
「レン君って冷静だね?普通泣いたりしてもいいと思うんだけど?」
「なんで泣く必要があるんだよ。」
泣くなんて、というか俺最後に泣いたのいつだっけ。
そんなことを思っていると、
「だってご両親悪魔に殺されたんだよ?普通なんかひと悶着あっていいと思うんだ、私は。
それに合わせて悪魔の血を浴びてたんでしょ?悪魔になったかもしれない!どうしよう!みたいなこと言っててもおかしくないよね?……君、本当に悪魔なんじゃ……!!!」
キャーっなんていいながらわざとらしく俺から遠くなる。ミオひとりの演劇がはじまってる。
なんだこいつは。
「……。早く案内しろよ。」
「あれ。面白くなかった?私のブラックジョーク。」
おっかしいなあ?とブツブツ口にしながらここをあとにした。




